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ハズレスキル【フライドチキン】で胃袋無双 〜追放された治癒師、揚げた鳥がうますぎて冒険者ギルドに囲われる〜  作者: あゆと


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ただいま

 町へ入った途端、急に足が重くなった。


 一か月ずっと歩いてきたのに、見慣れた大通りを見た瞬間、体の方が先に「もう終わった」と気づいたらしい。


「……あと少し」


 荷物を背負い直し、五人と一緒に歩く。


 やがて、見慣れた看板が見えてきた。


『テオ・フライドチキン』


 もう夕方だ。

 店の前に客の姿はなく、扉には札が掛かっている。


『本日分 完売』


 足が止まった。


「……売り切れてる」


 一か月、僕はいなかった。


 それでも店は開いて、今日も料理を作って、全部売れた。


 僕がいなくても、ちゃんと店はここにある。


「何止まってんだ、テオ!」


 グレンさんに肩を叩かれ、よろけそうになった。


「うわっ」

「おっと。悪い」

「……最後の最後で転ばせないでくださいよ」

「はっはっは! まだ立てるなら大丈夫だ!」


「その基準、一か月で嫌というほど聞きましたよ……」


 グレンさんが笑いながら扉を開けた。


「帰ったぞ!」


 奥から慌ただしい足音が聞こえる。


「えっ、もう帰って――テオさん!?」


 飛び出してきたリリカさんが、僕を見たまま固まった。


「ただいま戻りました」

「ちょっと待ってください! なんですかその格好!?」


 上から下まで何度も見られる。


 泥と埃が染みついた服には、何か所も縫った跡がある。靴もすっかり傷んでいた。


「一か月ずっとこんな感じだったので……」


 言いながら壁に手をつく。


「あれ」


 力を抜いた途端、膝が少し震えた。


「ほら! 立ってるだけで辛そうじゃないですか!」

「町に着いたら急に疲れが……」

「修行って聞いてましたけど、ここまでやるんですか!?」


 リリカさんがグレンさんを見る。


「ちゃんと限界は見てたぞ! 本当に危ねえときは俺たちが入ってる!」

「だからって限界ギリギリまでやらなくてもいいじゃないですか!」

「ギリギリまでやるから修行なんだろ!」


「それを一か月続けたんですか!?」

「続けた!」

「自信満々に言わないでください!」


 久しぶりに聞くリリカさんの勢いに、少し笑ってしまった。


「テオ!」


 今度はキアラさんが奥から駆けてきた。


「……って、何その格好! マジでヤバくない?」


「やっぱりそんなにひどいですか」

「ひどいって。出てったときと全然違うじゃん」


 キアラさんが僕の袖をつまむ。


 何度も破れて、そのたびに縫った跡を見たところで、少しだけ表情が変わった。


「これ、全部この一か月で?」

「はい」

「……マジかぁ」


 今度の声は小さかった。


「怪我は?」

「大きいのはありません。セシルさんがいましたから」

「そっか」


 僕の顔をしばらく見てから、キアラさんが息を吐く。


「なら、まあ……よかった」


「テオさん!」


 裏口の方からエルナさんも顔を出した。


「すごい格好ですね……って、それより! 金羽キジたちは大丈夫ですよ!」

「本当ですか?」


 思わず体を起こす。


「はい。みんな元気です。比較用の飼育も、テオさんが戻るまで始めてません」

「よかった……。明日、見に行ってもいいですか?」

「駄目です!」


 リリカさんが即答した。


「え?」

「今の自分見てください! 今日はもう休んで、明日起きてから考えてください!」

「飼育場を見るくらいなら」

「駄目です!」


 強い。


 一か月Sランク五人に鍛えられて帰ってきたのに、店に戻った途端、まったく押し返せない。


「店の方はどうでした?」


 僕が聞くと、リリカさんの顔がぱっと明るくなった。


「もちろん大丈夫です! 《定番》は毎日完売! 《特製》も用意してた分はきれいに売り切れました。町のお店も問題なしです!」


「毎日……」


 もう一度、扉の札を見る。


『本日分 完売』


 聞いて安心するのと、自分の目で見るのでは全然違った。


「……ありがとうございます」


「何言ってるんですか!」


 リリカさんが笑う。


「テオさんがいない間に店を回すのは、私たちの仕事ですよ!」


 胸の奥がじわっと熱くなった。


「それでテオさん、今日はもう何もしなくていいです」

「でも在庫だけ確認を」

「しなくていいです!」

「明日の仕込みは」

「みんなでちゃんと回せます!」

「帳簿くらいなら」

「それも私たちの仕事です!」


 全部塞がれた。


「お風呂入って、ご飯食べて、寝てください!」

「……分かりました」


「ところでリリカ!」


 グレンさんが待ちきれなくなったように声を上げる。


「俺たちの飯はあるか!」

「グレンさんは元気じゃないですか!」

「俺だって一か月歩き回ってきたんだぞ!」

「テオさんと見た目が全然違います!」


 言われて五人を見る。


 装備は汚れているし、旅の跡もある。

 でも、僕みたいに壁へ手をついてはいない。


「……なんで皆さん普通なんですか」

「慣れだ!」


 即答された。


「ほら、テオ」


 キアラさんが僕の背中を軽く押した。


「今日はもう休みなよ。店も飼育場も逃げないじゃん」

「……はい」


 素直に歩き出す。


「テオ」


 数歩進んだところで呼び止められた。


 振り返ると、キアラさんが少しだけ笑っていた。


「おかえり」

「……ただいまです、キアラさん」


「はい! テオさん、そこまで! まずお風呂です!」

「分かりましたから押さないでください!」


 一か月ぶりに店へ帰ってきて、最初にしたことは料理でも仕込みでもなく、風呂へ追い立てられることだった。

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