でっかい冷凍庫
翌朝、僕たちはガイたちと一緒に冒険者ギルドへ向かった。
目的は、氷甲竜の魔石の鑑定だ。
「……高っ」
鑑定額を聞いた瞬間、セラが固まった。
「ほら見ろ! やっぱり竜の魔石はすげえんだよ!」
「昨日まで値段も知らずに飾るって言ってた人が何言ってるのよ」
「この値段なら売る!」
「急に現実的になったわね」
ガイの決断は早かった。
「では、その金額で買います!」
リリカさんはもっと早かった。
「本当にいいの?」
フィオが目を丸くする。
「はい! キアラさんとオルドさんにも確認しました。低温保存庫を拡張できる可能性が高いなら、十分使い道があります!」
魔石は冷気を強く放つだけではなく、その出力がかなり安定しているらしい。
昨日キアラさんが興奮していたのも、そこだった。
「共用設備になる分は、前と同じように《暁の牙》側と分けますね!」
リリカさんが手早く話をまとめ、ガイたちには鑑定額を基準にした代金が支払われることになった。
「うおお……」
金額を聞いたガイが震えている。
「肉食うぞ!」
「まず装備を直しなさい」
「宿代も残しておいてね」
「分かってるって! 全部やって余った金で肉だ!」
セラとフィオに釘を刺されても、嬉しそうなのは変わらない。
「じゃあな、テオ! 保存庫できたら見せろよ!」
「うん。魔石、ありがとう」
「礼ならフライドチキンでいいぞ!」
「昨日食べただろ」
「今日も食える!」
結局、今日の分はまだ開店前だと言って追い返した。
氷甲竜の魔石を新本店へ持ち帰ると、キアラさんとオルドさんがすでに待っていた。
「来た!」
「まず置け。落とすでないぞ」
「分かってるって!」
魔石を台へ置くと、二人はすぐに測定を始めた。
僕も一緒に低温保存庫へ向かう。
今使っている保存庫でも、普段の肉を置いておく分には問題ない。
遠征で持ち帰った魔物を保存するのにも使っている。
ただ、大型の魔物が入れば一気に場所を取るし、二つの店で使う肉を長く置いておけるほどの余裕はなかった。
「最初はもっと大きくするつもりだったんですよね」
「そうじゃ。一か月分の肉をまとめて置けるくらいにな」
オルドさんが保存庫の奥を見る。
「じゃが、広げれば広げるほど冷気を均等に回すのが難しくなる。魔石を増やせば済む話でもなかった」
「高いし、調整めんどいしね」
キアラさんが氷甲竜の魔石を叩きそうになり、オルドさんに手を払われた。
「叩くな」
「触っただけじゃん!」
「今買ったばかりじゃぞ」
「分かってるって!」
二人とも昨日からずっとこの調子だ。
「で、これを使えば?」
「いけるかもしれん。まずは今の保存庫につないで、どこまで冷気が回るかじゃな」
最初から全部を作り直すわけではなかった。
急速冷凍室はそのまま使う。
今ある低温保存庫も残す。
そのうえで保存できる場所を広げ、氷甲竜の魔石を新しい中心にする。
「じゃ、やってみよ!」
キアラさんが術式をつなぐ。
青い魔石が光った。
次の瞬間、冷たい空気が一気に流れ込んできた。
「寒っ!」
思わず腕を抱える。
「おお、強いな」
「でしょ!」
キアラさんが得意げに笑う。
でも、オルドさんはすぐに眉を寄せた。
「キアラ」
「ん?」
「入口側を見ろ」
「……あ」
壁が白く凍り始めていた。
手前は冷えすぎている。
なのに奥まで行くと、そこまで温度が下がっていない。
「強いだけじゃ駄目なんですね」
「そういうことじゃ」
「でも冷気そのものは足りてる!」
キアラさんはむしろ嬉しそうだった。
「今まで一番困ってたところは越えたじゃん。あとは流し方!」
「その流し方が難しいと言うとるんじゃ」
「だから試すんでしょ!」
そこから、また調整が始まった。
冷気を奥へ送れば、今度は奥が冷えすぎる。
通り道を増やせば、真ん中に冷気が溜まる。
「なんでそこだけ凍ってんの!?」
「おぬしが左右から流したからじゃ!」
「あ、そっか」
「先に気づけ!」
僕も同じ大きさに切った肉を何か所にも置いて、凍り方を確かめた。
「手前の方がまだ早いです」
「じゃ、こっち少し絞る!」
「奥は昨日より安定してます」
「そこはそのまま!」
試して、直して、また試す。
一度でうまくいくことなんてなかった。
それでも、氷甲竜の魔石を使う前とは違った。
冷気が足りなくなることはない。
あとは、その力をどう広い保存庫へ行き渡らせるかだった。
何度も調整を重ねて、一週間ほど経った朝。
「テオ! 来て!」
キアラさんに呼ばれ、保存庫へ入る。
「……寒い」
中へ入った瞬間、吐く息が白くなった。
前より明らかに広くなっている。
それでも、入口だけ極端に寒い感じはしなかった。
「昨日、全部の場所に肉置いたじゃん?」
「はい」
「見て!」
キアラさんが一番奥から肉を取り出す。
しっかり冷えている。
中央も。
入口も。
オルドさんは各所に置いた測定器を順番に確認していた。
「どうですか?」
「……よし」
キアラさんが身を乗り出す。
「よしって?」
「どこもほぼ同じじゃ」
「できた!?」
「少なくとも、保存庫として使うには問題ない」
「やった!」
キアラさんが飛び跳ねる。
「テオ! でっかくなったよ!」
「はい!」
僕も思わず笑った。
新しく作ったわけじゃない。
ずっと使ってきた低温保存庫が、ようやく最初に考えていた大きさまで広がったんだ。
「これで、どのくらい入りますか?」
オルドさんの代わりに、キアラさんが胸を張った。
「今の二店舗で使う量なら、一か月分くらい!」
「一か月……」
最初にこの話をしたときに欲しかった量だ。
僕がまとめて鳥型魔物を仕留めておけば、しばらく店を空けても《定番》用の肉を残しておける。
大型の魔物を持ち帰っても、すぐに全部使い切る必要もない。
「ついにですね!」
後ろからリリカさんの声がした。
「どうですか!?」
「一か月分くらい入るって」
「おおーっ!」
リリカさんが保存庫の中を見回す。
「いいですね! これなら仕入れが重なっても困りませんし、仕込みにもかなり余裕ができます!」
「僕が何日か店に来られなくても、前より回しやすそうです」
「もちろんです! そのために人も増やしてきたんですから!」
そう言われて、改めて保存庫を見る。
店を始めたばかりの頃は、その日に使う肉を用意するだけで精一杯だった。
今は、一か月分を置いておける。
「やっと最初の目標まで来ましたね」
「うん!」
キアラさんが満足そうに氷甲竜の魔石を見る。
「ガイたち、マジでいいもの持って帰ってきたじゃん」
「本人に言ったら、また竜を斬った話が始まりますよ」
「あ、それはやだ」




