私の仕事
ロイドさんとの話を終え、ギルドの受付へ戻ると、エルナさんが冒険者証を受け取っているところだった。
「更新できました?」
「はい。これでまた一年、万年Dランクを名乗れます」
「自分で言わなくても……」
エルナさんが冒険者証を鞄へしまったとき、後ろから声がかかった。
「エルナ?」
振り向いた先にいたのは、剣を背負った若い冒険者だった。
「久しぶり。最近、全然見なかったな」
「ダリオこそ……もしかして、Cランクになった?」
「ああ。先月やっとな」
ダリオさんが嬉しそうに笑う。
「祝福は《岩砕き》だった。まだ大きな岩を一発で割れるほどじゃないけど」
「すごいじゃん。おめでとう」
「ありがとう。エルナは昇格試験、また受けるのか?」
エルナさんは少しだけ間を置いた。
「しばらくは受けないかな」
「あんなにCランクになりたがってたのに?」
「今は別にやりたいことがあるから」
「何してるんだ?」
「金羽キジを育ててる」
「……金羽キジ?」
ダリオさんが聞き返し、エルナさんの隣にいた僕へ気づいた。
「テオさん!?」
「こんにちは」
「まさか、《暁の牙》の仕事なのか?」
「正確にはテオ・フライドチキンの仕事です。エルナさんに飼育を任せています」
「餌を考えたり、卵を孵したり、毎日重さを量ったりしてるの。今は餌の違いで肉の味がどう変わるか試してて」
「肉の味まで分かるのか?」
「まだ分からないから調べてるんだよ。この前育てた一羽は、野生より脂が甘くなったの。次も同じになるか確かめないと」
エルナさんの話が急に速くなった。
「あと、テオさんが雛の頃から世話した場合、スキルへの影響が変わるかもしれなくて。今度は同じ餌で育てた二羽を比べる予定」
「お、おう……」
ダリオさんは少し圧倒されたように頷いた。
「じゃあ、今は鳥を育てる方が忙しいのか」
「うん。今日も戻ったら体重を量らないと」
「そうか。また時間ができたら依頼でも行こうぜ」
「危なくないやつならね」
「相変わらずだな」
ダリオさんと別れ、僕たちは新本店へ戻った。
エルナさんは店へ入る前に、まっすぐ飼育場へ向かう。
「エルナさん、おかえりなさい!」
飼育を手伝っている店員が、帳面を持って駆け寄ってきた。
「三番と四番は全部食べました。二番は木の実だけ残してます」
「虫と穀物は?」
「そっちは食べてます」
「糞は変わってませんか?」
「いつも通りです」
「じゃあ体調じゃなくて、木の実が気に入らないのかも。今日は二番だけ別の種類を試しましょう。他の子の餌は変えないでください」
エルナさんは囲いの中へ入り、一羽ずつ羽と脚を確認していく。
「テオさん、秤をお願いします」
「はい」
二番と呼ばれた金羽キジを量ると、昨日より少し重くなっていた。
「体重は増えてますね」
「なら、食べる量が減ったわけじゃなさそうです。木の実を残した分、虫を多く食べたのかな」
エルナさんは帳面をめくり、昨日の数字と見比べた。
「やっぱり。虫の方は普段より食べてます」
「好みが変わったんでしょうか」
「一日だけじゃ分かりません。木の実を変えて、明日も残すか見ます」
次の囲いでは、二羽の金羽キジが同じ餌入れへ頭を突っ込んでいた。
「四番、また三番の分まで食べてますね」
「餌入れを離しますか?」
「昨日離したら、両方とも四番が回りました」
「器用ですね」
「困る方に器用なんですよ」
エルナさんは餌入れの位置を変え、間へ小さな仕切りを置いた。
「これで駄目なら、食事中だけ四番を分けます」
「そこまでするんですか?」
「誰がどれだけ食べたか分からなくなりますから。せっかく毎日量ってるのに、記録が役に立たなくなります」
そのとき、後ろで大きな音がした。
振り返ると、雛用の囲いの中で水入れが横倒しになっていた。
「また!?」
エルナさんが駆け寄る。
「昨日キアラさんに固定してもらったばかりなのに、どうやって外したの……?」
水入れの金具が、きれいに抜かれている。
「テオさん、新しい水をお願いします!」
「分かりました」
「床も濡れてるので、敷材を交換します。あと、この金具はもう駄目です。キアラさんに見せないと」
「呼んできます」
「私が行きます! テオさんは二番の木の実を替えて、量は昨日と同じで!」
「はい!」
「三番と四番の餌入れは、まだ動かさないでくださいね!」
「分かってます!」
エルナさんは外れた金具を握りしめ、工房へ向かって走っていった。




