育てた金羽キジ
最初の雛が孵った二日後、もう一つの卵からも雛が生まれた。
残る一つは最後まで変化がなかった。
「原因は分かりません。最初から孵らない卵だったのか、運ぶ途中だったのか、私たちの温め方が悪かったのか」
エルナさんは失敗も帳面へ残した。
二羽の雛は、虫を混ぜた餌をよく食べた。木の実だけだった頃より体重が増え、日に日に脚も太くなっていく。
成長に合わせて餌の量を変え、飼育箱を広げた。暑がれば温度を下げ、床をつつき続ければ土の場所を増やす。
「また広げるの?」
「狭そうなんです」
「じゃあ広げよ!」
「まずわしに相談せい!」
エルナさんが問題を見つけるたび、キアラさんとオルドさんが飼育箱を直した。
僕も朝の仕込み前と閉店後に、餌やりや掃除を手伝った。
どこまで関われば【フライドチキン】が育てたと認めるのかは分からない。それでも、餌を与えた日も、掃除をした日も、すべて帳面へ記録してもらった。
雛が育つ一方で、成鳥の飼育はなかなか進まなかった。
人が近くにいれば餌を食べず、物音に驚けば壁へ向かって走る。けれど、目隠しを増やし、世話をする時間を揃えると、少しずつエルナさんの前では動くようになった。
やがて、その成鳥が一つの卵を産んだ。
「孵るんですか?」
「無精卵かもしれません。捕まる前に雄と交尾していたなら可能性はありますけど、これだけでは分かりません」
温めてみたものの、卵に変化はなかった。
「やっぱり雄が必要ですね」
「ロイドさんに相談しましょう」
話を聞いたロイドさんは、少し考えてから頷いた。
「雄か雌か、捕まえる前に確実に見分けるのは難しいぞ」
「それでもお願いします」
「分かった。今度は一羽捕まえて終わりじゃなく、しばらく探してみる」
十日後、ロイドさんは雄と思われる金羽キジを連れてきた。
「気合い入れすぎましたね、ロイドさん」
「前に卵まで見つけた俺に、今さら言うのか?」
雄は雌以上に暴れた。
同じ場所へすぐ入れるのは危険だったため、飼育場を仕切り、互いの姿だけが見える状態から始めた。
近づけば威嚇する。
離せば落ち着く。
仕切りを外せば追い回す。
「駄目です! また分けてください!」
最初の顔合わせは数分で終わった。
それでも日を置いて何度か試すうちに、二羽は同じ場所で餌を食べるようになった。
さらにしばらくして、雌が再び卵を産んだ。
一つ目は孵らなかった。
二つ目も変化がなかった。
「雄と一緒にしたからって、すぐ全部が有精卵になるわけじゃないんですね」
「そもそも相性が悪い可能性もあります。でも、まだ決めつけるには早いです」
三つ目の卵に、初めて中の影が見えた。
そして人の作った飼育場で産まれた卵から、一羽の雛が孵った。
「孵りましたね」
「孵りました」
エルナさんは喜びながらも、すぐ帳面を開いた。
「これで一度は成功しました。でも、安定して増やせるかは別です」
「次も試しましょう」
「もちろんです」
それから数か月。
孵らない卵もあった。
生まれても餌を食べず、弱ってしまった雛もいた。
餌を変えた翌日に糞の状態が悪くなり、慌てて元へ戻したこともある。
そのたびにエルナさんが記録し、原因を考え、次の育て方を変えた。
飼育場は一つ増えた。
雛用の箱も三つになった。
世話をする人も、エルナさんを中心に二人雇った。
最初は万年Dランクと呼ばれていたエルナさんが、今では誰よりも金羽キジの変化に早く気づく。
「この一羽、昨日より餌を食べてません」
「僕には同じに見えます」
「朝から歩く回数も少ないです。少し分けて様子を見ます」
翌日、その一羽は糞の状態も悪くなった。
早く分けたおかげで他の雛には広がらず、数日後には元気を取り戻した。
「すごいですね、エルナさん」
「毎日見てるから分かっただけです」
そう言いながら、少し得意そうだった。
最初に孵った二羽も、いつの間にか成鳥と変わらない大きさになっていた。
金色の羽は野生の成鳥より少し淡い。
肉付きは十分で、体重の増加もここ数日は止まっている。
エルナさんが二羽を確認し、帳面を閉じた。
「テオさん。最初に孵った方は、もう十分育っています」
「食べられる大きさですか?」
「はい。これ以上育てても、餌の量ほど体重は増えないと思います」
ついに、その日が来た。
「では、明日にしましょう」
「分かりました。今日の夜から餌を調整します」
エルナさんは迷わず答えたあと、成長した金羽キジを見た。
「育て方も、食べた餌も、テオさんが世話をした日も、全部記録してあります」
「ありがとうございます」
「私は育てるところまでです。あとはテオさんが、どう料理になるのか確かめてください」
僕は頷いた。
明日、人の手で育てた金羽キジを初めて料理する。




