生まれた一羽
金色のくちばしが、何度も殻を押した。
「鶏でも、割り始めてから出てくるまで時間がかかります。今は手を出さずに待ちましょう」
エルナさんに言われ、僕は店と工房を何度も往復した。
昼を過ぎた頃、呼ばれて戻ると、卵が大きく揺れていた。
殻の一部が外れ、濡れた頭が覗く。小さな身体が何度も動き、最後に殻を蹴った。
ころん、と雛が孵化箱の中へ転がり出る。
「本当に孵った……」
「ちっちゃ! 金羽キジって最初はこんななんだ!」
キアラさんが顔を近づけ、雛が驚いて転んだ。
「キアラさん、近いです!」
「ごめんって!」
エルナさんは雛の呼吸と脚の動きを確かめながら、帳面へ書き込んでいく。
「身体が乾いて、自分で立てるか見るまではこのままです。まだ安心はできません」
しばらくすると、雛は一度転びながらも、震える脚で立ち上がった。
「立ちました!」
「テオさん、声が大きいです」
「す、すみません」
僕より落ち着いているエルナさんの手も、少しだけ震えていた。
乾いた羽毛は淡い茶色で、ところどころに細い金色の筋が入っている。成鳥ほど派手ではないけれど、間違いなく金羽キジの雛だった。
もう一つの卵には、まだ変化がない。
そちらは孵化箱に残し、生まれた雛だけを別の飼育箱へ移すことになった。
「前ので温度の調整は分かったし、床もすぐ取り替えられるようにしたから!」
キアラさんが工房の隅に置かれた箱を叩く。
「おぬしが急に作り始めたせいで、わしまで徹夜じゃったがな」
「必要になると思ったんだから正解じゃん!」
「結果だけで正当化するでない」
言い合いながらも、オルドさんとキアラさんが用意した箱は、雛の様子に合わせて温かさを変えられるようになっていた。
翌朝。
雛は飼育箱の中を元気に歩き回っていた。
次に確かめるのは、餌だった。
成鳥が食べた木の実を細かく砕いても、柔らかくした穀物を置いても、雛は見向きもしない。餌入れを踏み越え、床の傷ばかりつついている。
「食べ物だと分かってないのかもしれません」
エルナさんはしばらく雛を眺めたあと、指先で餌入れの横を軽く叩いた。
「鶏の雛は、親鳥がついばんでいるのを見て食べ方を覚えることがあります」
こつ、こつ、と何度か叩く。
雛がその動きを追い、砕いた木の実を一つつついた。
「食べた!」
僕が声を上げると、雛が固まった。
「テオさん、静かに」
「すみません……」
エルナさんがもう一度指を動かす。雛は別の欠片をつつき、今度はそのまま飲み込んだ。
「まだ二口ですけど、食べ方は分かってくれたみたいですね」
「僕もやっていいですか?」
「餌の横を叩いてください。指を食べさせないでくださいね」
同じようにやってみると、雛は僕の指先をつついた。
「痛っ」
「だから言ったじゃないですか」
「ちゃんと餌の横を叩きましたよ!」
「テオ、下手すぎじゃん!」
キアラさんが笑う。
それでも何度か続けるうちに、雛は僕の前でも餌を食べるようになった。
水も、エルナさんが指先で表面を揺らすと、くちばしをつけた。
「明日から重さも量ります。何をどれだけ食べて、どれくらいの速さで大きくなるのか残しておかないと」
「成鳥になるまで、どのくらいかかるんでしょう」
「それはまだ分かりません」
「食べられる大きさになる時期も?」
エルナさんが顔を上げた。
「生まれたばかりなのに、もう食べる時期を気にするんですか!?」
「そのために育てるので……」
「そうですけど!」
キアラさんが雛と僕を交互に見る。
「テオ、めっちゃ優しい顔してるのに、いつ食えるか考えてるじゃん」
「おいしく育ってほしいと思ってるだけです!」
「同じじゃん!」
エルナさんはしばらく呆れた顔をしていたけれど、やがて雛が食べている木の実へ目を向けた。
「鶏は餌で肉や卵の状態が変わることがあります。金羽キジも同じかは、育てて食べてみないと分かりません」
「じゃあ、餌もいろいろ試すんですね」
「一度に変えたら何が影響したか分からなくなるので、まずは食べるものを増やすところからです」
エルナさんは帳面を開き、新しい項目を書き加えた。
『餌の種類』




