育てる場所
翌日。
僕はエルナさんとドーガさんを連れて、オルドさんの工房を訪れた。
「金羽キジを育てる場所を作りたいんです」
僕が説明すると、オルドさんはしばらく黙った。
「……おぬし、とうとう魔物まで育て始めるのか」
「まだ育てられるか分かりませんけど、そのための場所が必要で」
「なにそれ、めっちゃ面白そうじゃん!」
奥から出てきたキアラさんが、あっという間に食いついた。
「魔物飼うの!? アタシもやる! 何作る? やっぱ檻?」
「普通の鳥小屋では危険だ」
ドーガさんが腕を組む。
「金羽キジは飛ぶ。横だけ囲っても逃げられる。上まで塞ぐ必要があるし、人が出入りするときの対策もいる」
「じゃ、天井まで囲って入口も二重にしよ! 頑丈なやつ!」
キアラさんが紙を引き寄せたところで、オルドさんがその手を止めた。
「待て。場所も見ずに何を作るつもりじゃ」
「あ」
「広さも地面も分からん。まず現地を見せい」
言われてみればその通りだった。
僕たちはそのまま工房を出て、新本店の周囲に残っている土地へ向かった。
「この辺りを考えています」
店からは少し離れていて、お客さんが普段近づく場所でもない。何かあれば第二拠点から《暁の牙》もすぐに来られる。
オルドさんは土地を歩きながら地面や周囲を確認していく。キアラさんも距離を見たり、地面を蹴ったりしていた。
「広さは取れるのう」
「一羽から始めるなら十分だと思う」
ドーガさんが予定地の端を見ながら答える。
「逃走を考えるなら、外周はかなり頑丈にしたい。上も完全に覆った方がいいな」
「じゃあ、やっぱでっかい檻じゃん」
キアラさんが両手で大きな四角を作る。
「あの……」
エルナさんが遠慮がちに声を上げた。
全員の視線が集まると、少しだけ肩を縮める。
「鶏の話しかできないんですけど、それでもいいですか?」
「もちろんです」
「じゃあ……鶏だったら、逃げないように囲うだけじゃ駄目なんです。毎日そこで暮らすから、休める場所もいりますし、ずっと人から丸見えだと落ち着かない鳥もいます。地面も全部硬くした方が掃除は楽ですけど、足には良くないかもしれません」
そこまで言って、エルナさんは困ったように眉を下げた。
「でも、金羽キジも同じかは分かりません。鶏じゃないですから」
「分からなくても大丈夫です。僕たちも分かりませんから。まず、鶏だったらどうするか教えてもらえませんか?」
「……それなら」
少し緊張が抜けたみたいだった。
「世話する側から言うと、中に入る回数は減らしたいです。餌や水を替えるたびに魔物と同じ場所へ入るのは、正直怖いですし。掃除のときも、鶏なら外に出せますけど、金羽キジをその辺に放すわけにはいかないですよね」
ドーガさんが頷く。
「なら、餌と水は外から交換できるようにする。中も仕切れる方がいいな。片側へ寄せている間に、反対側を掃除できる」
「それいいじゃん! 仕切り動かせるようにしよ! 入口も二重ね。外側を閉めてから内側を開けるの!」
「強度も必要じゃが、直しやすさもいるのう」
オルドさんがしゃがみ込み、小石で地面に線を引いた。
「誰も金羽キジを飼ったことがないんじゃ。最初から正解など分からん。使ってみて駄目なら直す。そのつもりで作った方がよい」
「改造前提?」
「そうじゃ」
「最高じゃん」
「おぬしは本当にそういうのが好きじゃのう……」
僕は地面に描かれていく線を見ていた。
最初に僕が考えていたのは、魔物を逃がさないための檻だった。
でも、エルナさんが考えているのは違う。
「……僕、勘違いしてました」
「え?」
エルナさんが僕を見る。
「捕まえた金羽キジを入れておく檻を作るんだと思ってたんです。でも、育てるなら……ここで暮らすんですよね」
「そうですね。少なくとも飼っている間は」
僕はもう一度、何もない土地を見る。
「だったら、閉じ込めるだけじゃなくて、ちゃんと暮らせる場所にしたいです」
「それなら名前変えよ!」
キアラさんがぱっと笑った。
「魔物用の檻じゃなくて、金羽キジの飼育場!」
「まだ一羽もおらんがな」
「これから来るじゃん!」
オルドさんは呆れながらも立ち上がった。
「よし。必要な広さは分かった。エルナ、おぬしは鶏を育てるときに必要だったものを思い出せ。ドーガは危険対策じゃ。わしとキアラで形にする」
「私も?」
「おぬしが毎日使う場所じゃろう。使う人間を抜きにして作ってどうする」
エルナさんは一瞬驚いたあと、少し嬉しそうに頷いた。
「……分かりました。じゃあ、遠慮なく言います」
「それでよい」
「ほらテオ、戻ろ! 図面引くよ!」
キアラさんはもう工房へ向かって歩き出している。
「もう考えてるんですか?」
「そりゃそうじゃん! 入口はこっち側がいいでしょ。あと仕切りもさ、普通に動かすだけじゃつまんないし」
「つまらんかどうかで決めるな。まず材料からじゃ」
「じゃ、それも今決めよ!」
オルドさんがため息をつき、ドーガさんが苦笑する。
その隣で、エルナさんは何もない予定地をもう一度振り返った。
「……ここで育てるんだ」
小さく呟いてから、みんなの後を追った。




