金羽キジを知る
ギルドの休憩所でロイドさんを見つけると、僕はすぐに声をかけた。
「ロイドさん!」
「……テオ?」
ロイドさんが顔を上げる。
そして僕の後ろにいる五人を見た瞬間、表情が固まった。
「……《暁の牙》」
「ロイドさんに教えてほしいことがあるんです」
「俺に?」
「はい。金羽キジについてです」
ロイドさんの目が少し細くなる。
「……あのときの話か」
「覚えてたんですか?」
「忘れるわけないだろ。魔物を育てて増やすなんて言い出した奴は、お前が初めてだった」
ロイドさんも、僕が初めて金羽キジを育てたいと言ったとき、その場にいた。
「本当にやるのか?」
「はい。店もできました。人も増えました。お金もあります。ようやく始められると思うんです」
「……そうか。あの話、本当にここまで来たんだな」
「まだ始められるところまでですけど」
「それでも十分だろ」
その言葉が、少し嬉しかった。
「それで、まず金羽キジのことを知りたくて。実際に何度も捕まえているロイドさんなら詳しいと思ったんです」
「《暁の牙》の皆さんまで、俺に話を聞きに……?」
ロイドさんが五人を見る。
さっきから妙に背筋が伸びている。
「俺に分かることなら話す」
「ありがとうございます!」
僕たちは机を囲んだ。
「前に捕まえたのは、森の奥の沢沿いでしたよね?」
「ああ。あの辺りでは何度か見た。ただ、毎回同じ場所じゃない」
「移動しているのか?」
レオンさんが尋ねると、ロイドさんはすぐに姿勢を正した。
「はい。そうだと思います。見つける場所が毎回少し違ったので」
「餌を探している可能性は?」
「あると思います。木の実をついばんでいるところは見ました」
「木の実……他には?」
「そこまでは分からないな」
今度は僕に向かって、いつもの口調で答える。
「俺は捕まえるために見てたんだ。飼うために観察してたわけじゃない」
「そうですよね……」
それでも、僕たちが知っていることよりずっと多い。
「ただ、テオ。飼うなら一つ覚えておいた方がいい」
「何ですか?」
「警戒心が強い。人の気配に気づけばすぐ離れる。逃げ足も速い」
「前にも言ってましたね」
「ああ。追えばもっと逃げる。追い詰めれば暴れる」
ドーガさんが腕を組んだ。
「閉じ込めるだけでは駄目かもしれんな」
「そこまでは俺にも……いえ、俺には分かりません。野生ではそうだった、というだけです」
ドーガさんに向き直った途端、ロイドさんの口調が直る。
「なるほど。十分参考になる」
「ありがとうございます」
ロイドさんは、実際に見たこと以上は断言しない。
だからこそ信用できる。
「傷つけずに捕まえるのは、やっぱり大変なんですか?」
「傷つけていいなら楽だ。生かしたまま、しかも傷をつけずにとなると面倒になる」
僕は思わずロイドさんを見た。
今まで何度も、綺麗な金羽キジを受け取ってきた。
料理することばかり考えていたけど、その前にロイドさんが森で苦労して捕まえてくれていたんだ。
「……ロイドさん」
「なんだ?」
「今まで、本当にありがとうございました」
「急にどうした」
「僕、捕まえてもらったあとは料理のことばっかり考えてて……どれだけ大変だったのか、ちゃんと考えてませんでした」
頭を下げると、ロイドさんは少し困ったような顔をした。
「謝る必要はない。仕事だった」
「でも」
「それに、あの金羽キジはうまかった」
「……ですよね!」
思わず顔を上げる。
「そんなにうまかったのか!」
グレンさんが身を乗り出した。
ロイドさんの肩がぴくっと動く。
「は、はい。かなり……」
「なら絶対育てるぞ!」
「グレンさん、そのために今話を聞いてるんです!」
「分かってる!」
ロイドさんの口元が少し緩んだ。
最初よりは緊張も解けてきたみたいだ。
「ロイドさん。もう一つお願いがあります」
「なんだ?」
「実際に金羽キジを捕まえる段階になったら、一緒に来てもらえませんか?」
ロイドさんの表情がまた固まった。
「……俺が?」
「はい」
「俺が、《暁の牙》の皆さんと一緒に……?」
「お願いします。金羽キジを何度も追って、傷つけずに捕まえたのはロイドさんです。僕たちにはその経験がありません」
「ですが、《暁の牙》の皆さんなら、俺がいなくても……」
「それとこれは別です」
僕はすぐに答えた。
「金羽キジについては、ロイドさんの方が僕たちより知っていますから」
「その通りだ」
レオンさんも迷わずうなずく。
「実際に何度も追った人間の経験は大きい。現地ではあなたの力を借りたい」
「……俺の?」
「金羽キジに関しちゃ、お前の方が先輩だ!」
グレンさんが豪快に笑った。
「お、俺がですか!?」
「ああ! 俺たちはまだ一羽も捕まえたことがねえからな!」
ロイドさんは目を見開いたまま固まった。
あの《暁の牙》のリーダーに、自分の方が先輩だと言われた。
さすがにすぐには飲み込めないらしい。
「……本当に、俺でいいんですか?」
「いいも何も、お前に頼んでるんだ!」
ロイドさんはしばらく黙ったあと、ゆっくりとうなずいた。
「……分かりました。俺の経験が役に立つなら、協力します」
「ありがとうございます!」
「捕獲依頼が出たら声をかけてくれ」
「はい!」
これで、生け捕りするときに頼れる人もできた。
「ただし、テオ」
「はい?」
「俺が知ってるのは野生の金羽キジだ。捕まえるところまでは力になれる。でも、捕まえたあとどう育てるかは分からない」
「……そうですよね」
魔物を育てた人なんて、まだ誰もいない。
ロイドさん一人に全部を求めるのは違う。
「なら次は、鳥を育ててきた方ですね」
セシルさんが言った。
「はい。リリカさんに相談してみます」
「今度は何をするんだ?」
ロイドさんに聞かれ、僕は答えた。
「金羽キジを育ててくれる人を探します」




