そのあとが来た
翌日。
僕たち《暁の牙》六人は、冒険者ギルドを訪れていた。
「六人揃ってどうした?」
ギルドマスターに聞かれ、僕は一歩前へ出る。
「僕から相談があります」
「テオから?」
「はい。以前、金羽キジを育てて増やせないかって相談したこと、覚えていますか?」
ギルドマスターが目を細めた。
「……覚えてるぞ」
「そのとき、ギルドマスターに言われました」
あの言葉は、今でも覚えている。
『店を持て。金を作れ。人を増やせ。育てるのは、そのあとだ』
「店を持ちました。人も増えました。金もあります」
「ほう」
「育てるために使える場所もあります」
僕はまっすぐギルドマスターを見る。
「だから、あのとき言われた『そのあと』が来たんじゃないかと思ったんです」
しばらく沈黙したあと、ギルドマスターの口元が緩んだ。
「はっ。とうとう、そのあとが来たか」
「……はい!」
胸が熱くなる。
あの頃は、本当に何もなかった。
店すらなくて、金羽キジをもっと食べたいというところから始まった話だった。
それが今は違う。
「それで俺たちも来た!」
後ろからグレンさんの大きな声が飛んできた。
「声がでけえよ」
「いいじゃねえか! 面白そうな話なんだからよ!」
「魔物を育てる話だぞ」
「分かってる!」
グレンさんは笑った。
「育てた金羽キジ、食いてえしな!」
「そこは昨日も聞きました!」
ギルドマスターが呆れた顔で僕たちを見る。
「まあ、《暁の牙》まで本気なら、戦力の問題はどうにでもなるか」
そこで表情が変わった。
「だがな、テオ」
「はい」
「金羽キジは何を食う?」
「……え?」
答えが出なかった。
「何を食わせて育てるつもりだ?」
「それは……分かりません」
「どこで寝る?」
「知りません」
「群れで暮らすのか、一羽で暮らすのかは?」
「……それも」
「繁殖する時期は?」
「分かりません」
次々に聞かれて、何も答えられない。
「逃げたらどうする?」
「それは、専用の飼育場を作ろうと思っています」
「どんな?」
「……これから考えます」
ギルドマスターが腕を組んだ。
「普通の鳥小屋に入れときゃいいって話じゃねえぞ。魔物だからな。飛ぶし、力も普通の鳥とは違う」
「はい」
「毎日の世話は?」
「鳥を育てた経験がある人を探して、任せたいと思っています」
「魔物を育てた経験がある奴は?」
「いないですよね?」
「少なくとも俺は知らん」
やっぱり、簡単じゃない。
店ができた。
金ができた。
人を雇えるようになった。
でも、それだけで育てられるわけじゃない。
「昔と同じだな」
ギルドマスターに言われ、僕は顔を上げた。
「……いえ」
「ん?」
「昔とは違います」
確かに、分からないことだらけだ。
でも。
「分からないなら調べます。必要なものがあるなら作ります。僕にできないことなら、できる人にお願いします」
後ろには五人がいる。
店にはリリカさんたちもいる。
「僕一人じゃありませんから」
「……そうか」
ギルドマスターが少しだけ笑った。
「なら、まず何から始める?」
「金羽キジのことを知りたいです」
僕は答えた。
「何を食べて、どんな場所で暮らしているのか。まずそれが分からないと、飼育場も作れません」
「そうだな。ギルドにも捕獲や討伐の記録はある」
「見せてもらえますか?」
「ああ。だが、記録を読むより先に聞く相手がいる」
「誰ですか?」
「ロイドだ」
「……ロイドさん!」
思わず声が大きくなった。
そうだ。
《影縫い》のロイドさん。
僕のために、金羽キジを生け捕りにしてくれた人だ。
それも一度じゃない。
「そうだ……! どうして最初にロイドさんを思い出さなかったんだ……」
本気で頭を抱えそうになる。
「お前、食う方ばっかり覚えてたんじゃねえか?」
「ち、違います!」
たぶん違う。
違うはずだ。
「ロイドは何度も金羽キジを追ってる。生息地も知ってるし、生きたまま捕まえるために動きも観察してる。飼い方は知らんだろうが、野生の金羽キジについてなら詳しいぞ」
「ぜひ話を聞きたいです!」
レオンさんもうなずく。
「俺も聞いておきたい。いずれ捕獲するなら、実際に追った人間の経験は役に立つ」
「今、ロイドさんは町にいますか?」
「昨日、依頼から戻ったところだ。今日はまだいるはずだぞ」
僕はすぐに立ち上がった。
「行きましょう!」
グレンさんたちも席を立つ。
ギルドマスターが苦笑した。
「ずいぶん本気だな」
「本気です」
今度は迷わず答えた。
昔は、育てられたらいいなと思っただけだった。
今は違う。
「まずはロイドさんに、金羽キジのことを教えてもらいます」




