仲間の夢
その日の営業を終えたあと、僕は《暁の牙》の第二拠点に五人を集めてもらった。
「皆さんに、相談したいことがあります」
「珍しいな。なんだ?」
グレンさんに促され、僕は少し緊張しながら口を開く。
「金羽キジを、育てたいんです」
「育てる?」
五人が僕を見る。
「はい。昔、一度考えたことがあるんです。捕まえて食べるだけじゃなく、自分たちで育てて増やせないかって」
当時は金も、人も、場所もなかった。
だから諦めた。
「でも今は店があります。人も増えました。お金も貯まりました。試せるんじゃないかと思って」
「なるほどな」
グレンさんが腕を組む。
「魔物を飼って、増やして、食うのか」
「最終的には」
「食うんだな!」
「食べるために育てるんですから!」
グレンさんが豪快に笑った。
「面白いじゃねえか!」
「ただ、問題も多い」
レオンさんはすぐに真剣な顔になる。
「金羽キジは家畜じゃない。飛ぶし、攻撃もする。普通の鶏小屋では逃げられるだろう」
「檻が必要だな」
ドーガさんが言う。
「上まで塞いだ頑丈なものがいい。扉も二重にした方が安全だ」
「暴れた場合は、私がいれば眠らせられるわ」
ヴィオラさんが続ける。
「でも、毎日いるわけにはいかない。普段世話をする人が必要ね」
「そこなんです」
僕もうなずいた。
「魔物を育てたことがある人なんて、いるんでしょうか?」
「いないでしょうね」
セシルさんが即答した。
「魔物は討伐するか、追い払うものです。繁殖させるために飼うなんて、聞いたことがありません」
「じゃあ、専門家はいない……」
「魔物の専門家はいなくても、鳥を育てる専門家ならいる」
レオンさんが言った。
「養鶏の経験者を探せばいい。魔物については俺たちが補えばいいだろう」
「餌や体調を見る知識は、その人から借りられますね」
セシルさんもうなずく。
「病気や寄生虫については、私も調べます」
「檻はオルドたちに頼むのがいいだろうな」
グレンさんがにやりとする。
「キアラなら喜んで作りそうだ」
「……確かに」
たぶん「魔物を閉じ込める檻とか、マジ面白そう!」と言う。
「生け捕りは俺たちがやる」
グレンさんが当然のように言った。
「え?」
「金羽キジを傷つけずに捕まえる必要があるんだろ?」
「そうですけど……皆さんには、そこまでお願いするつもりは」
「何言ってる?」
グレンさんが眉をひそめた。
「お前、《暁の牙》だろ」
「……はい」
「だったら、お前がやりたいことは俺たち六人でやる」
あまりにも当然のように言われて、言葉が出なかった。
「生け捕りなら俺が追う」
レオンさんが言う。
「押さえるのは俺だ」
ドーガさんが続く。
「眠らせるのは私ね」
「健康状態は私が確認します」
ヴィオラさんとセシルさんまで、もう自分の役割を決めている。
「ちょ、ちょっと待ってください」
胸の奥が急に熱くなった。
「これは、僕の店のためでもあるんですよ?」
「だから何だ?」
グレンさんが笑う。
「仲間の夢なら、パーティーの夢だろ」
「……っ」
まずい。
鼻の奥がつんと痛くなった。
「テオ?」
「す、すみません。ちょっと待ってください」
「なんで謝るんだ?」
「いや、その……見ないでください」
顔を伏せて目元をこする。
「お前、泣いてるのか?」
「泣いてません!」
思いきり声が裏返った。
これでは完全に泣いている人だ。
「……僕」
うまく声が出ない。
「《暁の牙》に入って、本当によかったです」
言葉にした瞬間、余計に目が熱くなった。
「うわっ……すみません、本当にちょっと待ってください!」
「だから謝るなって!」
グレンさんが笑いながら、僕の背中を叩いた。
「仲間なんだから当たり前だろ!」
「……はい」
その一言で、また泣きそうになる。
「それにな」
グレンさんが急に真顔になった。
「育てた金羽キジを、お前が最初から最後まで《極み》にしたらどうなると思う?」
「……はい?」
「絶対うまいだろ」
レオンさんが静かにうなずいた。
「野生とは餌も育ち方も変えられる。肉質が良くなる可能性はある」
「食いてえしな!」
「結局そこですか!」
涙が一気に引っ込んだ。
「重要だろう!」
グレンさんが胸を張る。
「世界で初めて魔物を育てて、最高にうまい鳥を作る! 面白いじゃねえか!」
五人とも笑っていた。
僕も目元を拭って、笑った。
「じゃあ、やりましょう」
「ああ」
グレンさんが机を叩く。
「まずは飼育する人間を探す。それから檻だ」
「金羽キジを捕まえるのは、そのあとですね」
「そうだ。捕まえてから置き場所がないでは話にならん」
レオンさんの言葉に、僕は大きくうなずいた。
昔は、考えるだけで終わった。
でも今度は違う。
六人で、本当に始めるんだ。




