キアラさんとのデート
キアラさんに手を引かれたまま、僕たちは町の中心へ向かった。
「まず服ね!」
「本当に買うんですか?」
「せっかくのデートで仕事着のままはナシじゃん」
連れてこられたのは、僕一人ではまず入らないような服屋だった。
「テオ、これ着てみて!」
「これですか? 少し派手では……」
「いいからいいから!」
渡された服を持って試着室へ入る。
着替えて外へ出ると、キアラさんが僕を上から下まで見た。
「おー! いいじゃん!」
「そうですか?」
「うん。でもこっちも試そ!」
「まだ着るんですか!?」
三着目を着た頃には、完全に着せ替え人形だった。
「ちょっと動かないで」
キアラさんが僕の前に立ち、襟元へ手を伸ばす。
「ここだけ直したら……」
近い。
顔が、ものすごく近い。
「キ、キアラさん」
「ん?」
「その……近くないですか?」
「襟直してんだから、そりゃ近いでしょ」
何でもない顔で言われた。
僕だけが意識しているみたいで、余計に恥ずかしい。
「よし! これ最高じゃん!」
キアラさんが満足そうに笑う。
「テオ、普通にカッコいいよ」
「っ……!」
「なにその反応?」
「い、いきなり言わないでください……」
「褒めただけじゃん」
結局、その服を買うことにした。
着替えて店を出ると、キアラさんは何度も僕を見てくる。
「やっぱいいわ。それ」
「そんなに見ないでください」
「いいじゃん。アタシが選んだんだし」
恥ずかしくて、まともに顔を見られない。
「次、食べ歩きしよ!」
市場へ着くと、キアラさんはすぐに屋台へ飛びついた。
焼いた肉の串、甘い焼き菓子、果物を凍らせた菓子。
「テオ、これうまっ! 一口食べてみなよ」
「では、一つ買います」
「一口でいいって。ほら」
キアラさんが食べかけの串を僕の前へ差し出した。
「……これをですか?」
「うん」
「キアラさんが食べていたものですよね?」
「そうだけど?」
まただ。
たぶんキアラさんは何も気にしていない。
「早く。冷めるじゃん」
「は、はい」
一口だけ食べる。
「どう?」
「……おいしいです」
「でしょ!」
味は分かった。
でも、それどころではなかった。
「テオ、顔赤くない?」
「暑いだけです!」
「今日そんな暑くないけど」
「歩いたからです!」
自分でも苦しい言い訳だと思う。
そのあともキアラさんは気になる店を見つけるたびに寄り道した。
雑貨を見たり、変わった小物を手に取ったり、魔道具屋の前で立ち止まったり。
「仕事の話は禁止じゃなかったんですか?」
「見るだけ! 見るだけだから!」
「もう店に入っていますよ」
「これマジで面白いんだけど! テオも見て!」
結局、いつものキアラさんだった。
でも、工房で会うときとは少し違う。
楽しそうに笑うたび、つられて僕まで笑ってしまう。
気づけば、夕方になっていた。
「もうこんな時間かー」
新本店の近くまで戻ると、キアラさんが僕の手を離した。
ずっとつないでいたことを、その瞬間になって改めて意識する。
「今日はありがと、テオ。楽しかった!」
「僕も……楽しかったです」
「じゃ、またね!」
キアラさんは笑顔で手を振ると、そのまま工房の方へ走っていった。
「はい。また……」
僕も手を振り返す。
その姿が見えなくなってから、ふと自分の言葉を思い返した。
「……また」
また、キアラさんと二人で。
そう考えただけで、顔がまた熱くなった。




