デートしよ!
遠征から戻って数日後。
昼の混雑が落ち着いた頃、キアラさんが新本店へやって来た。
「テオ、午後って空いてる?」
「午後ですか? 急ぎの仕込みは終わっていますけど」
「じゃ、アタシとデートしよ!」
「ぶーーっ!」
帳簿を確認しながら水を飲んでいたリリカさんが、盛大に吹き出した。
「リリカさん、大丈夫ですか!?」
「ごほっ、ごほっ……だ、大丈夫です! それより、今なんと?」
「デートしよって言っただけじゃん」
「だけ!?」
リリカさんの声が裏返った。
けれど、僕も人の心配をしている場合ではない。
「デ、デートって……僕とですか?」
「テオ以外に誰がいんの?」
キアラさんが当然のように答える。
二人で出かける。その意味くらい、僕にだって分かる。
急にキアラさんの顔をまともに見られなくなった。
「どうしたの? 嫌?」
「嫌とは言っていません!」
「じゃ、決まりじゃん」
キアラさんが僕の手首をつかんだ。
「待ってください。まだ返事を」
「嫌じゃないんでしょ?」
「それは、そうですけど」
「なら行こ!」
そのまま店の出口へ引っ張られる。
「今からですか!?」
「せっかく午後が空いてるんだから、今からでよくない?」
「僕、まだ仕事着ですよ!」
「だから最初に服を見に行くんじゃん」
「着替えから予定に入っているんですか!?」
キアラさんは振り返り、楽しそうに笑った。
「今日はアタシが、テオをカッコよくしてあげる」
「僕の服、そんなに駄目ですか?」
「そーいう意味じゃないし。デートなんだから、いつもと違うテオが見たいだけ」
「っ……」
また胸が跳ねた。
キアラさんは何でもないように言うが、僕には何でもなくない。
「リリカ、テオ借りてくね!」
「待ってください!」
リリカさんが慌てて立ち上がった。
「本日の予定と、戻られる時間を確認しなければなりません!」
「仕事は終わってるんでしょ?」
「共同経営者として必要な確認です!」
「夕方には返すって」
「返すって、物みたいに言わないでください!」
僕が抗議しても、キアラさんは手を離さない。
「じゃ、行ってくるね!」
「テオさん!」
リリカさんが僕を呼ぶ。
助けてくれるのかと思って振り返ると、笑顔のまま告げられた。
「楽しんできてください!」
「はい……?」
「ただし、明日の仕込みに影響が出ない時間には戻ってくださいね!」
「分かりました」
「キアラさんも!」
「分かってるって!」
キアラさんに引かれるまま、僕は店の外へ連れ出された。
通りへ出ても手首はつかまれたままだ。
「あの、キアラさん」
「なに?」
「もう逃げませんから、手を離しても大丈夫ですよ」
「逃げないんだ?」
「嫌ではないと言ったでしょう」
キアラさんの足が止まった。
振り返った顔が、少しだけ赤くなっている。
「……そっか」
「はい」
「じゃ、このままでいっか」
「どうしてですか?」
今度は手首ではなく、手を握られた。
「デートだから」
それだけ言うと、キアラさんは僕の手を引いて歩き出した。
僕は何も言い返せないまま、その隣を歩いた。




