香草焼きの《定番》
遠征から戻った翌日、僕はリリカさんとコレットさんに、雷鳴ホロホロ鳥の香草焼きについて話した。
「揚げていないのに、スキルの力が乗ったんですか?」
「はい。ただ、《極み》のフライドチキンほどではありませんでした」
「なら、店でも試してみましょう!」
リリカさんはすぐに食いついたが、僕は首を振った。
「僕が香草焼きまで作っていたら、フライドチキンが回りません」
「では、《定番》と同じ作り方ならどうでしょう?」
コレットさんの提案で、同じ群れから仕入れた二羽を使うことになった。
一羽は僕がとどめだけを刺し、もう一羽は店の料理人が最初から処理する。そのあとの血抜き、解体、味付けは、すべてコレットさんが同じように行った。
二つの肉へ塩と香草を擦り込み、厨房の窯で焼き上げる。
見た目も香りも、ほとんど変わらない。
「どちらをテオさんが仕留めたかは伏せますね」
リリカさんと料理人たちが、二つの香草焼きを食べ比べた。
「こっちです!」
リリカさんが迷わず片方を指す。
「肉の味が濃くて、香りも広がります!」
「俺もこっちだと思います」
「同じ味付けなのに、後味が違うな」
全員が選んだのは、僕がとどめを刺した鳥だった。
僕も食べ比べてみる。遠征先で最初から最後まで作った香草焼きほどではない。それでも、もう片方より明らかにうまい。
「揚げなくても、《定番》くらいの力は乗るみたいですね」
「やっぱり、テオさんが早い段階から関わるほど、おいしくなるんですね」
リリカさんは目を輝かせた。
「香草焼きも売りましょう!」
「今は無理です」
「即答ですか!?」
「フライドチキンだけでも厨房はいっぱいです。新しい料理を増やしたら、どちらも遅れます」
「それは困りますね……」
リリカさんは香草焼きを見つめたまま、悔しそうに唇を尖らせる。
「ですが、候補としては残しておきましょう」
コレットさんが試作の記録を書き留めた。
「テオさんが調理しなくても、この味なら十分に商品になります」
「はい。もっと店に余裕ができてから考えましょう」
そのとき、厨房の外から声が飛んできた。
「さっきから、ものすごくいい匂いがするんだけど!」
「新商品か!?」
香草焼きの匂いが、客席まで届いてしまったらしい。
リリカさんが僕を見て、にやりと笑う。
「もう宣伝はできたみたいですよ」
「まだ売りませんからね!」




