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ハズレスキル【フライドチキン】で脳汁無双 〜追放された治癒師、揚げた鳥がうますぎて冒険者ギルドに囲われる〜  作者: あゆと


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検証

 翌朝、僕は肉屋の前に立っていた。


 いつもなら、依頼板の前にいる時間だ。

 今日は違う。


 まずは鳥からだ。


「いらっしゃい。何にする?」


 肉屋の主人が、まな板の向こうから声をかけてきた。


「一番いい鳥をください」

「祝い事かい?」

「試したいことがあります」

「一番いい鳥で試すのか。財布に厳しい試し方だな」


 主人は笑いながら、奥の箱から白い肉を出した。


「白羽鶏だ。普通の鳥より脂がきれいで、肉もやわらかい。安くはないぞ」

「いくらですか」

「これくらい」


 聞かなければよかった。


 昨日のツノコッコは、硬くて買い取り不可の魔物だった。

 血抜きもしていない。下処理もしていない。

 炎魔法で倒しただけ。


 それなのに、あの味だった。


 では、最初から旨い鳥ならどうなるのか。


「これをお願いします」

「本当に買うのか」

「買います」

「いい目をしてるな。財布は泣いてそうだけど」


 高かった。


 かなり高かった。


 主人が白羽鶏を包みながら、横の肉を指した。


「豚もいいのが入ってるぞ」

「豚……」


 僕は少しだけ見た。


 脂の入り方がいい。

 厚みもある。

 焼いたら絶対にうまい。


 でも、今日は違う。


「いえ。まずは鳥から」

「真面目だな」

「そうでもないです」


 昨日、骨だけになるまで食べた人間の返事としては、少し苦しかった。



 宿の主人に頼んで、昼前の厨房を少しだけ借りた。


「何を作るんだ」

「試作です」

「料理人にでもなるのか」

「まだ、そこまでは」

「匂いで客を集めるなら、先に言えよ」


 宿の主人はそう言って、厨房の隅を貸してくれた。


 僕は白羽鶏をまな板に置いた。


 血抜きは済んでいる。

 羽もない。

 きれいに処理されていて、肉の色もいい。


 昨日のツノコッコとは、最初から何もかも違った。


 まずは普通に焼く。


 火は厨房のかまど。

 塩は少しだけ。

 余計な香草は使わない。


 皮目を下に置くと、じゅう、と音がした。


 脂がゆっくり出る。

 皮が色づく。

 匂いが立つ。


 これは、ちゃんとうまそうだった。


 僕は焼けたところを小さく切り、一口食べた。


「……うまい」


 うまい。


 肉はやわらかい。

 脂もきれいだ。

 塩だけで十分食べられる。


 白羽鶏は高い。

 高いだけのことはある。


 ただ、昨日のツノコッコとは違った。


 昨日のあれは、口に入れた瞬間、考える順番が崩れた。

 依頼主が見ていることも、記録するべきことも、危ないかもしれないことも、全部あとになった。


 これはうまい。


 でも、昨日みたいに、気づいたら骨だけになっている味ではない。


「……高いのに」


 白羽鶏に失礼なことを言ってしまった。


 僕は紙に書いた。


【白羽鶏、普通の火、うまい】

【でも、昨日ほどではない】


 失敗ではない。


 むしろ、大事な結果だ。


 高い鳥なら何でも跳ねるわけではない。

 素材の値段だけではない。


「……面白いな」


 口に出してから、自分で少し驚いた。


 昨日までは、分からないことが怖かった。

 今日は少し違う。


 分からないから、次を試せる。


 僕は次の切り身を取った。


 今度は、僕の炎魔法で火を入れる。


 かまどではなく、短杖の先に炎を集める。

 強すぎないように、皮の表面からゆっくり炙った。


 脂が弾ける。


 さっきより、匂いが少し濃くなった。


「変わった」


 僕は焼けた端を切り、一口食べた。


 普通の火より、うまい。

 香ばしさが前に出る。

 肉の味も少し強くなった気がする。


 でも、まだ昨日ではない。


 僕は紙に書いた。


【白羽鶏、炎魔法、普通の火より上】

【ツノコッコとの差、残る】


 やっぱり、条件がある。


 鳥魔物か。

 討伐に関わったか。

 炎魔法の入り方か。


 考えることが増えるたびに、次を試したくなる。


「処理済みのツノコッコも、試したいな」


 肉屋にあるだろうか。

 いや、人気がない肉だから、むしろ余っているかもしれない。


 他の冒険者が倒した鳥魔物ならどうか。


 紙の端に、思いついた順で書いていく。


【普通の鳥】

【鳥魔物】

【自分で倒したもの】

【他人が倒したもの】


 そこで、手が止まった。


 まだ足りない。


 火の入れ方だけではない。

 肉そのものも、誰が倒したかも、たぶん関係している。


 僕は白羽鶏をもう一切れ焼いた。

 今度は、塩をほんの少しだけ増やす。


 うまい。


 でも、昨日ほどではない。


 その差が、逆に楽しい。


 まだ分かっていない。

 でも、次に見る場所は分かった。


 普通の鳥。

 鳥魔物。

 自分で倒したもの。

 他人が倒したもの。


 紙の上に並んだ文字を見る。


 昨日まで、僕の祝福スキルは意味の分からない表示だった。

 仲間の前で出てしまった、変な名前だった。

 笑うしかないものだった。


 でも今は違う。


 分からないだけだ。

 分からないものは、試せばいい。


 僕は残った白羽鶏を見た。


 これはこれでうまい。

 高かった。

 高いだけのことはあった。


 でも、まだ上がある。


 あのツノコッコの先に、もっと何かがある。


 僕はペンを置いた。


「……楽しくなってきた」


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そそるぜ!
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