成功
「テオ、さっそく入れてみよ! 炎尾鳥の肉から試すとか、最初から条件ヤバすぎ! 最高じゃん!」
キアラさんに引っ張られ、僕たちは工房の奥へ向かった。
そこには、人が二、三人入れるほどの小さな部屋が造られていた。壁一面に銀色の板が張られ、細かな魔法陣が刻まれている。
「これが急速冷凍室ですか?」
「そ! まだ小さいけど、冷える速さはマジでヤバいから!」
「凍らせただけで終わりではないぞ。解かして揚げ、味を確かめるまでが試験じゃ」
オルドさんに言われ、僕は炎尾鳥の胸肉を同じ大きさに切り分けた。一方は比較用として、これまで使っていた保冷箱へ。もう一方は急速冷凍室の棚へ載せる。
「操作は、この取っ手を下げるだけ! 魔力がなくても使えるし、めっちゃ簡単じゃん!」
「では、私が試します!」
リリカさんが取っ手を下げた。
ガコンッ!
壁の魔法陣が青白く輝き、冷気が室内へ満ちていく。
ブウウウン……。
炎尾鳥の肉から白い湯気が噴き上がった。残っていた熱と冷気がぶつかり、表面へ一気に霜が広がっていく。
「見て、テオ! もう凍ってきてる! 冷え方、マジでヤバくない!?」
「キアラ、扉を開けるでない。冷気が逃げるじゃろう」
「分かってるって! でも初回から炎尾鳥だよ? テンション上がるじゃん!」
しばらくして、オルドさんが装置を止めた。取り出した胸肉は、中心まで硬く凍っている。
「これを一晩かけて、ゆっくり解かすんじゃ」
「一晩も待つの? 解凍用の魔道具もいるねー。毎回これじゃ、店で使いにくくない?」
「それは次の課題じゃな」
「じゃあ次は解凍用! 絶対作ろ!」
「まずは今の試験を終わらせんか」
凍った肉を清潔な布で包み、涼しい場所で一晩かけて解凍することになった。
◇
翌朝。
開店前の厨房に集まり、解凍した肉を確認する。
指で押すと、しっかり弾力が返ってきた。流れ出た肉汁もほとんどない。
「見た目は、凍らせていない肉と変わりませんね」
「急速に凍らせたことで、肉を傷めずに済んだようじゃ」
「見た目だけじゃ分かんないって! 早く揚げて食べよ!」
僕は二つの肉へ同じ量の味をつけ、同じ厚さの衣をまとわせた。どちらも、とどめから調理まで僕が担当する炎尾鳥の《極み》だ。
二つの鍋へ同時に肉を入れる。
ジュワアアアアッ!
「音も香りも同じですね!」
揚げ時間をそろえ、きつね色になった肉を引き上げる。リリカさんが二枚の皿を入れ替えた。
「どちらが冷凍した肉かは、私だけが知っています!」
「必ず見抜きます」
僕は右の皿から一切れ取り、慎重にかじった。
ザクッ!
「うっっっまあああああ!!」
ガタンッ!
思わず椅子を蹴って立ち上がる。
香ばしい衣の奥から、熱い肉汁が口いっぱいにあふれた。飲み込んだ瞬間、昨日と同じ炎が胸の奥で弾ける。
「あつい! あつい……! はぁ、はぁ……!」
「来たぞ! 昨日と同じだ!」
グレンさんが声を上げる。
「テオさん、また立ち上がらないでください!」
リリカさんが椅子を押さえ、セシルさんがすぐに僕の脈を取った。
「脈の速さも昨日と同じです。作用は失われていません」
「はい……! 胸の奥が熱い! ものすごく気分がいいです!」
「分かりましたから、座って味を比べてください!」
椅子へ戻され、今度は左の皿へ手を伸ばす。
ザクッ!
「うっま……!」
こちらも衣は軽く、肉は柔らかい。噛むたびに濃い肉汁があふれ、胸の奥の熱がさらに強くなる。
「あつい……! でも、どちらもうまいです! 味も食感も、ほとんど変わりません!」
グレンさんたちも二つの皿を食べ比べた。
「俺は右が冷凍だ!」
「左だと思う」
「どちらも同じに感じるわ」
「俺にも違いは分からん」
全員の息が少しずつ荒くなっている。冷凍した肉でも、炎尾鳥の性質は残っているようだ。
「正解は、右です!」
リリカさんが最初に僕が食べた皿を示した。
「最初の方が冷凍した肉だったんですか!?」
「そうです!」
「味も肉汁も、何も変わりませんでした!」
「マジで誰も分かってないじゃん!」
キアラさんが両手を上げた。
「冷凍して、解凍して、揚げてもうまい! 炎尾鳥のヤバい効果まで残ってる! これ、大成功でしょ!」
オルドさんも冷凍した方をゆっくり味わい、うなずいた。
「味、食感、肉汁。どれも十分じゃ。この急速冷凍室は、店でも使えるじゃろう」
「やった! じゃあ次は大きくして、解凍用の魔道具も作ろ!」
「一度に進めるでない」
これなら、大型の鳥型魔物を仕入れても、すぐに使わない肉を傷ませずに残せる。
試食の作用が落ち着いてから、僕は《暁の牙》の五人を見た。
「グレンさん。次の遠征の話ですが」
「おう。覚えているぞ」
「僕も行きたいです」
胸の異常な熱は消えていた。それでも、この気持ちは変わらない。
「僕も《暁の牙》の正式な一員です。今度は六人で遠征へ行きたいんです」
「当然だ!」
グレンさんが僕の肩を強く叩いた。
「次の遠征は、最初からお前も数に入っている!」
「開店したばかりですから、準備はきちんとしてくださいね!」
リリカさんが念を押す。
「分かっています。店員だけで本店を回せるようにして、冷凍室の使い方も教えます」
「そこまで終わったら、私たちが本店を守ります!」
グレンさんが右手を差し出した。
「準備ができたら出発だ。次は六人で遠征へ行くぞ!」
「はい!」
僕は、その手を強く握った。
次は《暁の牙》六人で、初めての遠征だ。




