開店祝い
「開店祝いにしては、大きすぎませんか!?」
新本店の裏口に止まった荷車から、巨大な鳥型魔物がはみ出していた。
牛より大きな胴体。何重もの縄で縛られた太い脚。赤い尾羽の先からは、陽炎のような熱気が立ち上っている。
ボウッ!
「熱っ!」
「炎尾鳥だ!」
グレンさんが、ギルドの確認印が押された書類を差し出した。
「依頼の帰りに見つけてな。開店祝いに生け捕りにしてきた!」
「許可はありますけど、持ち込みの受付は午後からですよ!」
「少し早く着いただけだ!」
「店を開けたばかりです!」
店内から、客たちの声が聞こえてくる。
「《極み》をくれえええ!」
「帝王印バーガーもだ!」
「一人三個までですよ!」
今は炎尾鳥を見ている場合ではない。
「ひとまず飼育場へ入れます。詳しい話は午後です!」
グレンさんが荷車を引き、ドーガさんが後ろから押す。
ギシギシギシッ!
炎尾鳥を載せた荷車が、そのまま搬入口を通っていく。以前の店なら裏庭を埋め尽くしていた大きさだが、新本店の飼育場なら余裕を持って収容できた。
「右脚の縄が緩んでいる」
レオンさんが指摘し、ドーガさんが盾で炎尾鳥の胴体を押さえる。
グレンさんが縄を締め直した瞬間、炎尾鳥が翼を広げた。
バサアアアッ!
「グオオオオッ!」
ボウッ!
尾羽から熱気が噴き出す。
僕は急いで飼育場の窓を厚い布で覆った。室内が暗くなると、炎尾鳥はゆっくり翼を畳んでいく。
「グルルル……」
「刺激しなければ大丈夫そうです」
「さすがテオだな!」
「持ってきた人が感心しないでください」
グレンさんは炎尾鳥を見上げ、満足そうに笑った。
「こいつを《極み》にしてくれ!」
「この大きさを全部ですか!?」
「最高の開店祝いになるだろう!」
とどめ、血抜き、羽むしり、解体、味付け、衣付け、調理。そのすべてを僕が担当することになる。
「その話も午後です! 今は店へ戻ります!」
ちょうどそのとき、店内からリリカさんの声が飛んできた。
「テオさん! 《極み》があと三個しかありません!」
「もうですか!?」
「ここは俺たちに任せろ!」
グレンさんが胸を叩く。
「絶対に炎尾鳥を刺激しないでくださいね!」
僕は厨房へ駆け戻った。
「《極み》を一個!」
「俺もだ!」
「まだ残ってるのか!?」
注文台の前では、客たちが必死な顔で手を挙げている。
「残り三個です!」
リリカさんの声が響く。
僕は最後の《極み》を油へ入れた。
ジュワアアアアッ!
「この音だ……!」
「間に合った……!」
「五日間耐えたかいがあった……!」
揚げたてを受け取った客が、すぐにかじりつく。
ザクッ!
「うまああああい!」
客の両目から涙があふれた。
「生きていてよかった……!」
隣では、最後の《極み》を受け取った二人も歓喜の声を上げている。
「《極み》は完売です!」
「そんなああああ!」
「明日は絶対に朝から並ぶぞ!」
その後も《定番》《特製》、帝王印フライドチキンバーガーが次々と売れていった。
そして、昼を少し過ぎたころ。
「本日分、すべて完売です!」
リリカさんが売り切れの札を掲げた。
「あと少しだったのに!」
「明日はもっと早く来るぞ!」
「五日も休んだんだ! 明日は増やしてくれえええ!」
買えなかった客たちの悲鳴が、店の前に響き渡る。
開店初日のために多めに仕込んだ料理が、半日も持たなかった。
◇
片づけをリリカさんたちに任せ、僕は午後の持ち込み受付のため解体場へ向かった。
飼育場では、《暁の牙》が炎尾鳥の拘束を確認している。
「待っていたぞ、テオ!」
「まずは状態を調べます。今日中に全部終わるとは限りませんからね」
僕が近づくと、炎尾鳥の尾羽が赤く輝いた。
ボウッ!
同時に、工房の扉が勢いよく開いた。
バンッ!
「やっぱり、さっきの熱はこいつだったんだ!」
桃色の髪を揺らし、キアラさんが飛び出してくる。
「でっかい! 熱い! 最高じゃん!」
「近づかないでください!」
「テオさん、この鳥を冷凍装置の試験に使わせて!」
「駄目です」
「返事が早すぎない!?」
後ろから現れたオルドさんが、炎尾鳥を見上げてひげをなでる。
「生きておるうちは危険じゃ。試すとしても、解体が終わってからじゃな」
「おじいちゃんまで!」
「肉を傷めない範囲なら、あとで協力します」
「約束だからね!」
「限界試験をするとは言っていませんよ!」
僕は包丁を確認し、炎尾鳥の前へ立った。
「では、始めます」
赤い尾羽が、炎のように大きく揺れた。




