新店舗開店
九人の店員を採用したあと、テオ・フライドチキンは五日間休業した。
その間に新人へ仕事を教え、鍋や食材を新本店へ運び込む。本店限定の新商品を試作し、リリカさんは酒の仕入れも済ませた。
そして、開店日の早朝。
「テオさん。町中支店は任せてください!」
コレットが、新人二人と一緒に荷馬車へ乗り込んだ。
荷台には、《定番》用として僕がとどめを刺した肉と、《特製》用として僕が下処理まで終えた肉を積んでいる。
「困ったら、すぐ本店へ知らせてください」
「はい! 二人と一緒に、しっかり店を開けます!」
ガラガラガラッ!
コレットたちを見送った僕は、新本店の厨房へ戻った。
開店までは、まだ一時間ある。
「はぁ、はぁ……五日ぶりだ……」
「もう《定番》を思い出すだけでは耐えられない……!」
「匂いがする……揚げ始めてるぞ……!」
扉の向こうから、客たちの荒い息が聞こえてくる。
窓から外を見ると、街道の先まで長い列が続いていた。厨房から香りが漏れるたび、前列の客が少しずつ扉へにじり寄る。
ザッ……ザッ……。
「お客さんたち、目が怖いです!」
新人の一人が窓から離れた。
「五日間も休みましたからね」
「昨日は休業中の町中支店まで見に行ったんだ!」
「今日は三個までなんだろ!?」
「《特製》を三個だ! 上限まで買わせてくれ!」
ドンドンドンドンッ!
「まだ開店前です!」
店の前には、ギルドマスターが数人のギルド職員を連れて来ていた。行列が街道を塞がないよう、開店祝いを兼ねて手伝ってくれるらしい。
「列を崩すな! 扉を壊したら開店が遅れるぞ!」
ギルドマスターが叫ぶと、前列の客が一斉に下がった。
厨房には、《定番》と《特製》の肉が並んでいる。《極み》も、普段より少しだけ多く仕込んでおいた。
本店限定の新商品も用意してある。
僕が下処理まで済ませた《特製》用の骨なし肉を揚げ、野菜とソースを重ねて丸いパンへ挟む。パンの表面には、王冠の焼き印が押されていた。
【帝王印フライドチキンバーガー】
「本当に、この名前で売るんですか?」
「もちろんです! 本店限定だと一目で分かります!」
リリカさんは、新人たちへ元気よく説明を続けた。
「今日は、《定番》《特製》《極み》と帝王印バーガーを合わせて、お一人三個までです! お酒は数に入りません!」
「はい!」
「五日間お待たせしました! どんどん売りますよ!」
開店時間になり、リリカさんが扉へ手をかける。
「皆さん、準備はいいですか!」
「はい!」
バンッ!
「テオ・フライドチキン本店、本日開店です!」
「フライドチキンだあああああ!」
ドドドドドドドッ!
「走らないでください! 店内で食べる方はこちら! 持ち帰りの方は右です!」
リリカさんと接客係が、押し寄せる客を二つの列へ分ける。
「《特製》三個!」
「《定番》《特製》《極み》を一個ずつ!」
「帝王印バーガーもくれ!」
「バーガーと酒だ!」
注文が次々と厨房へ届いた。
「《定番》十五個です!」
「《特製》十二個!」
「帝王印バーガー、六個お願いします!」
「分かりました!」
僕は衣をつけた肉を、熱した油へ入れた。
ジュワアアアアッ!
香ばしい匂いが広がった瞬間、客席から歓声が上がる。
「この音だ……!」
「五日間、これを待っていたんだ!」
「早く食わせてくれえええ!」
揚がった《定番》の油を切る。
パチパチパチ……。
「《定番》、できました!」
店員が最初の皿を運ぶと、客は両手でフライドチキンを持ち、勢いよくかじりついた。
ザクッ!
「うまい……!」
客の目から、大粒の涙がこぼれた。
「五日ぶりだ……! 生きていてよかった……!」
隣の客も《特製》へかじりつく。
ザクッ!
「これだ! 俺が食べたかったのは、この味だあああ!」
「もう休業しないでくれえええ!」
店のあちこちで、フライドチキンを持った客が歓喜し、涙を流していた。
帝王印バーガーも客席へ運ばれる。
ガブッ!
ザクザクッ!
「パンの中から肉汁が出てきたぞ!」
「酒をくれ! これは酒が必要だ!」
「帝王印をもう一個!」
「合わせて三個までですよ!」
リリカさんが即座に止める。
「なら、《特製》を一個減らしてバーガーに変える!」
「注文したあとで変更しないでください!」
新人たちは客席と厨房を走り回った。
バタバタバタッ!
昼を過ぎるころ、ようやく開店直後の勢いが落ち着いた。
そのとき、街道から何台もの馬車が近づいてくる。
ガラガラガラガラッ!
「テオ! 開店には間に合ったな!」
先頭の馬車から、グレンさんが飛び降りた。
その後ろにはヴィオラさん、レオンさん、ドーガさん、セシルさんもいる。依頼を終えた《暁の牙》が、開店祝いに駆けつけてくれたのだ。
「《暁の牙》だ!」
「本当に、この店を第二拠点にするのか!」
客席が騒がしくなる。
グレンさんたちは店内へ入ると、空いた大きなテーブルへ並んで座った。
「開店おめでとう、テオ! 依頼を早めに片づけてきたぞ!」
「ありがとうございます!」
「まずは本店限定の料理を全部頼む! 酒もだ!」
「全部ですか!?」
「五人いるんだ。問題ないだろう!」
リリカさんがすぐに注文を受ける。
「帝王印バーガーとお酒、五人分です!」
「その名前を普通に使わないでください!」
僕は《特製》用の骨なし肉へ衣をつけ、油へ入れた。
ジュワアアアアッ!
揚げたてをパンへ挟み、《暁の牙》のテーブルへ運ぶ。
グレンさんが大きくかじりついた。
ザクッ!
「うまい! 依頼帰りに、これは最高だな!」
「酒にも合う」
ドーガさんは一口食べると、すぐ杯を空けた。
「この店へ帰ってくる楽しみが増えたわね」
ヴィオラさんも、もう二口目を食べている。
五人が食事を終えたころ、グレンさんが裏口を指した。
「テオ。開店祝いは、もう一つあるぞ」
「まだあるんですか?」
「依頼先で珍しい鳥型魔物を見つけた。生け捕りにして、解体場へ運んである」
僕が裏の解体場へ向かうと、荷車から長い尾羽がはみ出していた。
尾羽の先が、赤い炎のように揺れている。
「この鳥、まだ生きていますよね?」
「ああ。とどめは帝王の仕事だからな!」
「開店祝いにしては、大きすぎませんか!?」




