岩冠コカトリス
「運ぶ前に、血を抜きます」
僕は岩冠コカトリスの首を処理した。
「持ち上げればいいか?」
「お願いします」
ドーガさんが牛より大きな巨体を持ち上げる。
小川から少し離れた場所で血を抜き、その間に刃を洗った。
「これで運べます」
「では、店へ戻ろう」
ドーガさんが岩冠コカトリスを担ぎ、僕たちは町へ戻った。
牛より大きな鳥を、これから僕の店で料理する。
そう考えると、歩いている間も落ち着かなかった。
「おい、あれ……コカトリスじゃないか?」
「岩冠種だぞ!」
「《暁の牙》が倒したのか?」
「前を歩いてるの、帝王テオだろ?」
「帝王は関係ありません!」
通りに出てきた人たちが、次々と岩冠コカトリスを見上げる。
「これ、食うのか?」
「この町なら食うんじゃないか?」
「牛よりでかいぞ……」
店の裏へ回ると、コレットとリリカさんも巨体を見上げた。
「……大きいですね」
「厨房には入りませんね」
「あんたたち! 人の店の裏に何を持ち込んでるんだい!」
マルタさんが飛び出してきた。
「岩冠コカトリスです」
「見れば分かるよ! どうして牛より大きな魔物を丸ごと持ってくるんだい!」
「食べるので」
「迷いなく答えるんじゃないよ!」
「すぐに解体します」
「羽も肉も散らかすんじゃないよ!」
僕は岩冠コカトリスを見た。
胸の奥。翼を動かす筋肉の下に、柔らかな肉がある。
腿の付け根には、脂の乗った部位が見えた。
あそこは、絶対にうまい。
早く揚げてみたい。
「そこが一番うまいのか?」
レオンさんに聞かれ、僕はうなずいた。
「はい。この二か所です」
ドーガさんに巨体を押さえてもらい、胸奥と腿の付け根を自分の手で切り出す。
「コレット、残りは頼んだ」
「はい。任せてください!」
コレットは牛より大きな魔物を前にしても、迷わず刃を入れた。
「ドーガさん、少し持ち上げてください!」
「このくらいか?」
「もう少し上です!」
ドーガさんが巨体を動かし、コレットが翼、腿、胸と部位を分けていく。
もう、僕が隣で一つずつ教えなくても大丈夫だ。
これなら僕が遠征に出ても、店を任せられる。
「この量、どうするんですか?」
リリカさんが、積み上がり始めた肉を見た。
「ギルドで買い取る」
ギルドマスターが答える。
「肉だけじゃない。羽、鶏冠、爪、骨も素材になる。解体が終わったものから職員に運ばせる」
「全部ですか?」
「お前の店だけで使い切れる量じゃねえだろ」
「では、買い取り代金は新しい店の資金に回せますね!」
「まだ査定もしてねえ!」
「最高額でお願いします!」
「俺と値段交渉を始めるな!」
ギルドから職員が呼ばれ、コレットが切り分けた肉や素材を次々と運んでいった。
僕は切り出した二つの部位へ下味をつける。
衣をまとわせ、油へ入れた。
ジュワアアアアアッ!
店の外まで濃い香りが広がった。
「何を揚げてるんだ?」
「さっきのコカトリスじゃないか?」
「もう食うのか!?」
「売り物ではありません!」
今日は、僕たちの分だけだ。
陽が傾く頃、ようやく解体が終わった。
「終わりました……!」
コレットが包丁を置いた。
「お疲れさま。こっちもできたよ」
金色に揚がった胸肉と腿肉を、大皿へ盛る。
「岩冠コカトリスの極みです」
僕とリリカさん、コレット、レオンさん、ドーガさん、セシルさん、ギルドマスター、マルタさんで席についた。
「テオさんも、ちゃんと食べてくださいね」
「うん。みんなで食べよう」
僕は胸肉を一つ取り、かぶりついた。
ザクッと衣が砕ける。
胸の奥にあった肉は驚くほど柔らかく、噛んだ瞬間に濃い肉汁があふれた。
「うまい……!」
レオンさんが落とし、ドーガさんが押さえ、僕が仕留めた。
《暁の牙》の仲間として、初めて手に入れた鳥だ。
「本当に、うまいです!」
「腿もおいしいです!」
コレットが目を輝かせた。
腿肉はしっかりした弾力があるのに、力を入れなくても噛み切れる。
「さすがに、ほかの部位とは違うな」
レオンさんが断面を見た。
「迷わず切り出していたが、うまい場所まで分かるのか?」
「見たら、分かりました」
「鳥型魔物に関しては、頼りになる六人目だな」
六人目。
そう呼ばれるだけで、さっきまでとは味まで違って感じた。
「グレンが聞いたら悔しがるでしょうね」
セシルさんが笑う。
「王都へ行っている間に、新しい極みができたからな」
ドーガさんが二つ目へ手を伸ばした。
「それ、僕の分です」
「まだある」
「一番うまい部位は少ないんです!」
「食べながら取り合うんじゃないよ」
マルタさんに叱られたところで、ギルドの職員が大きな袋を持ってきた。
「岩冠コカトリスの買い取り代金です。正式な査定前なので、今日は仮払いになります」
袋が台へ置かれ、ずしりと重い音がした。
「こんなにですか!?」
リリカさんが真っ先に袋を開く。
「希少な成体です。正式な査定では、さらに上がる可能性があります」
「新しい店の土地代に回しましょう!」
「まだ土地の値段も決まってねえぞ」
「では、値段が決まり次第です!」
「先に使い道を決めるな!」
硬貨の詰まった袋を見る。
広い厨房。大きな保存庫。鳥を育てられる場所。
昨日まで話していただけの新しい店が、少しだけ近づいた。
「倒した鳥のお金で、鳥を育てる店を建てるんですね」
「ややこしい言い方をするな」
「あんたたち」
マルタさんが裏口を指さした。
「金の話は、片づけが終わってからにしな」
「もう全部運びましたよ?」
「羽が店の裏じゅうに落ちてるだろうが!」
外を見ると、大きな羽が何十枚も風に転がっていた。
「……あれもギルドで買い取れませんかね?」
「先に拾いな!」




