条件
「答えを聞こう、テオ!」
翌朝。開店前の店内には、《暁の牙》の五人とギルドマスターがそろっていた。僕の隣には、リリカさんとコレットもいる。
「《暁の牙》に入りたいです」
「おお!」
グレンさんが笑い、僕へ手を差し出した。
「ただし、条件があります」
「条件だと!?」
ギルドマスターが椅子から立ち上がった。
「お前、《暁の牙》に条件を出すつもりか!?」
「……はい」
グレンさんは差し出していた手を引っ込めた。怒るどころか、面白そうに僕を見ている。
「いいだろう。聞こう!」
昨夜、僕が《暁の牙》を断ると決めた直後、リリカさんは泣きながら言った。
『《暁の牙》に入ってください』
『でも、僕が入ったら、店はどうするんですか?』
『店も続けます。それに、《暁の牙》に入ることは、この店のためにもなります』
『店のため?』
『今まで出会えなかった魔物を探せます。テオさんのスキルだって、もっと成長するかもしれません』
『そこで見つけたものを、この店へ持って帰るんです。新しい料理を作って、もっと大きなお店にしましょう』
さらに、リリカさんは僕が遠征している間の営業まで考えていた。
『テオさんが出発前に、定番に必要な鳥を仕留めておくんです。その肉を味を落とさず保存できれば、コレットが店で揚げられます』
『今のままでは、何日分も置いておけません』
『だから、保存する方法を作るんです』
『僕たちだけで?』
『向こうはテオさんを欲しがっているんですよ?』
リリカさんは涙を拭いながら、それでも強く言った。
『だったら、《暁の牙》にも協力してもらいましょう』
「僕がいなくても店を続けられる見通しが立つまで、長い遠征には参加しません」
ギルドマスターが再び声を上げそうになったが、グレンさんが手で止めた。
「必要なのは、肉の味を落とさず保存する技術です。専門家を探すことと、その技術を作ることに協力してください」
「冷凍か?」
「はい。氷魔法で凍らせるだけでは、解かした時に水が出て、味も食感も落ちます」
リリカさんもグレンさんへ説明する。
「冷凍した後もテオさんのスキルの効果が残るのか、何日保存できるのか、そこから確かめる必要があります」
「成功すれば、僕が遠征している間も定番を出せます」
僕はグレンさんを見た。
「僕が一番大事にしたいのは、この店です。この店を捨てなければ入れないなら、《暁の牙》への加入は断ります」
ギルドマスターが腕を組み、グレンさんの返事を待つ。
「話はそれだけか?」
「……はい」
グレンさんは狭い客席と、小さな厨房を見回した。
「足りんな」
「え?」
「冷凍設備を入れる場所がない。保存庫も解体場も足りん」
「設備を小さくすれば――」
「駄目だ!」
グレンさんが即座に却下した。
「俺たちが捕らえた魔物を、どこで解体する?」
「魔物を丸ごと持ってくるつもりですか!?」
「当然だろう! 厨房も広げる。冷凍庫と倉庫も必要だ。大きな魔物を運び込める裏口もいるな」
「待ってください!」
リリカさんが止めに入った。
「私たちがお願いしたのは、冷凍技術への協力です! 店を全部作り直してほしいなんて言っていません!」
「今の店では設備が入らん。なら、別の場所を用意するしかない」
「そんな簡単に言わないでください!」
グレンさんはギルドマスターへ向き直った。
「この町に、大きな空き店舗はあるか?」
「魔物を運び込める裏口に、解体場、冷凍庫、倉庫だと? そんな空き店舗、この町にはねえよ」
「なら建てる!」
「建てるんですか!?」
僕とリリカさんの声が重なった。
「ちょうど今の拠点も手狭になってきたところだ! どうせなら豪華に建てよう!」
「まさか……」
「俺たちの新しい拠点も兼ねるぞ! 全員、この町へ移住だ!」
「待て待て待て!」
ギルドマスターがグレンさんの前へ立ちはだかった。
「《暁の牙》が王都から丸ごと移住したら、王都のギルドマスターが黙ってねえぞ!」
「そうか?」
「そうか、じゃねえ! 貴族どもも騒ぐ。下手すりゃ王様まで口を出してくる!」
「面倒だな」
「お前が面倒を起こそうとしてるんだ!」
ギルドマスターはグレンさんの肩をつかんだ。
「移住はやめろ。せいぜい第二拠点にしておけ」
「第二拠点か! よし、それでいこう!」
「私の部屋もあるのよね?」
魔法使いの《眠り姫》ヴィオラさんが、当然のように話へ加わった。
「お風呂は広くしてちょうだい」
「解体場の床は頑丈な方がいい」
盾騎士の《不落》ドーガさんまで希望を出し始める。
「もう建てる前提で話していますよね!?」
「周辺の地形なら俺が調べる」
レンジャーの《天眼》レオンさんも止める気はなかった。
「街道へ出やすく、魔物を運び込んでも町の邪魔にならない場所がいい」
「治療室も必要ですね」
治癒術師の《白耀》セシルさんまで続く。
「遠征帰りの怪我人を、そのまま治療できます」
「話がどんどん大きくなってます!」
「問題ない!」
グレンさんは僕たちへ向き直った。
「俺たちには第二拠点ができる。お前たちには広い店と、保存技術を試す設備が手に入る」
「でも、建物も技術も、いくらかかると……」
「投資だ!」
リリカさんの言葉を、グレンさんが遮った。
「お前の料理には、それだけの価値がある!」
「グレンさん、さすがに話が大きすぎます!」
「店も続けたい。俺たちとも冒険したい。なら、両方できる場所を作ればいい!」
グレンさんが僕の肩を強く叩いた。
「二つ欲しいなら、二つともつかめ! 足りないものは、これから作ればいい!」
「だから、建物より先に冷凍技術です!」
リリカさんに止められ、グレンさんはヴィオラさんを振り返った。
「ヴィオラ。前に、氷を長く保つ魔道具を作っていた奴がいたな」
「ああ、あの偏屈者ね。まだ王都の工房にいるはずよ」
「協力を頼めるか?」
「難しいわね。王宮からの依頼すら三度断った人だもの」
「王宮を三度断った男か」
グレンさんは楽しそうに笑った。
「なら、テオのフライドチキンで落とすぞ」




