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ハズレスキル【フライドチキン】で脳汁無双 〜追放された治癒師、揚げた鳥がうますぎて冒険者ギルドに囲われる〜  作者: あゆと


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3/13

ツノコッコ

 翌朝、ギルドの依頼板はいつもより広く見えた。


 依頼板そのものは、昨日と変わらない。

 変わったのは、僕の後ろだ。


「これ楽そうじゃねえか!」と勝手に紙をはがすガイはいない。

 報酬と危険度を見比べるセラもいない。

 地図の端を指で押さえるルッツもいない。

 矢の残りを小声で数えるフィオもいない。


 静かだった。


「……静かだな」


 口に出すつもりはなかった。

 でも、出てしまった。


 僕は依頼板の前で、低ランク依頼の端を見た。


【畑荒らしのツノコッコ、一羽以上の討伐または追い払い】

【推奨ランク、E】

【場所、東の麦畑】

【報酬、少額】

【備考、肉は硬いため買い取り不可】


 ツノコッコ。


 額に小さな角がある小型魔物だ。

 麦を食べるより、踏み荒らす量の方が多い。


 走ると速い。蹴ると痛い。肉は硬い。

 冒険者に人気はない。


 Eランク推奨。


 Cランクになったばかりの冒険者が選ぶ依頼ではない。

 でも、効果不明の祝福を持った治癒師が一人で受けるなら、これくらいがちょうどよかった。


 無理な依頼は受けない。

 勝てないと思ったら逃げる。

 怪我を隠さない。


 昨日まで、みんなに言っていたことを、今日は自分に言う。

 言う相手が減っただけだ。



 東の麦畑は、朝から騒がしかった。


「また来てる! あっちだ!」

「麦を踏むな! そっちは植え直したばっかりだぞ!」


 畑の持ち主らしい男たちが、木の棒を持って走っている。

 その前を、三羽のツノコッコが駆け回っていた。


 大きさは、普通の鶏の倍くらい。

 足が太い。

 目つきが悪い。

 額の角は短いが、刺されると普通に痛そうだ。


「冒険者さん、本当に一人で大丈夫かい?」

「危なくなったら下がります」


 僕はそう答えて、畑に入った。


 ツノコッコの一羽が、麦を踏みながらこちらを見た。


「コッコォ!」


 鳴き声は、ほぼ鶏だった。

 でも、突っ込んでくる速さは鶏ではなかった。


「速っ」


 僕は横に転がる。

 ツノコッコの角が、さっきまで僕の足があった場所を通った。


 土が跳ねる。

 麦が折れる。


「これ、Eランク推奨だよね」


 誰に言ったわけでもない。

 答える人もいない。


 二羽目が横から来る。


 僕は腰の短杖を抜き、炎を集めた。


 治癒師だからといって、攻撃手段をまったく持たないわけではない。

 前に出たガイが倒れた時。セラの魔力が切れた時。逃げ道をふさぐ相手がいた時。

 その時に、何もできない治癒師では困る。


 僕の炎魔法は、セラみたいに派手ではない。

 Cランク以上の主力にもならない。


 でも、低ランクのツノコッコ一羽を止めるくらいなら、できる。


「炎弾」


 短杖の先から炎が走り、ツノコッコの胸元に当たる。


「コッコォッ!」


 ツノコッコは跳ねた。

 麦の穂を散らしながら、二歩、三歩と走る。


 それから、前のめりに倒れた。


 僕は短杖を下ろさなかった。

 ツノコッコは、倒れたふりをして足をばたつかせることがある。


 まだ近づかない。


 そう思ったところで、匂いが来た。


「……何の匂いだ」


 香ばしい。


 畑の土でもない。

 焦げた羽でもない。

 市場の屋台に近い。


 いや、もっと濃い。


 焼けた皮。

 脂。

 ほんの少しの塩気みたいなもの。


 僕は短杖を構えたまま、倒れたツノコッコに近づいた。


 羽は落ちている。

 額の角は、焦げた皮の横に残っている。

 見た目だけなら、ただ炎で倒しただけだ。


 なのに、匂いがおかしい。


 こんがり焼けた皮から、ありえないほどいい匂いがしていた。


「焼いただけのはずなんだけど.....」


 返事はない。


 畑の持ち主たちも、棒を持ったまま固まっていた。


「冒険者さん、それ、何だい?」

「......僕が聞きたいです」


 残りのツノコッコが、距離を取ってこちらを見ている。

 一羽が、じりっと後ずさった。


 僕も後ずさりたい。


 でも、登録書類に写された文字が頭に浮かんだ。


【フライドチキン】


 説明できないなら、確かめるしかない。

 僕は焼けたツノコッコの前にしゃがんだ。


 見た目は食べ物だ。

 匂いも食べ物だ。

 むしろ、かなり強い食べ物だ。


 だが、元はツノコッコである。

 炎魔法を受けて、いきなりこんな匂いになった肉だ。


「……」


 僕は焼けた皮を見た。


 湯気が立っている。


 脂が、皮の端で小さく弾けた。


「......このままでは冷めてしまうな」


 違う。

 そこではない。


 僕は自分で自分に首を振った。

 冷めるかどうかを気にする場面ではない。


 だが、もう一度、脂が弾けた。


 香りが強くなる。


 僕は、しばらく焼けたツノコッコを見ていた。


 残りのツノコッコが、そろって畑の外へ逃げていった。

 追い払いとしては、たぶん成功だ。


 これが僕の祝福スキルの効果なら。

 僕が食べて何が起きるかを確認しないと、何も分からない。


 僕は手袋を替えた。

 焼けた肉の端を持つ。


 熱い。

 でも、持てないほどではない。


 皮が指先で少し崩れた。


 ぱり、と小さな音がした。


「音がいいな」


 だから違う。


 僕は肉を顔の前まで持ち上げた。


 匂いが近い。

 近すぎる。

 理性に悪い。


「......一口だけ」


 自分にそう言い聞かせた。


 安全確認だ。

 検証だ。

 食欲ではない。


 僕は、ほんの少しだけかじった。


 ぱりっ。


 焼けた皮が破れた。


 香ばしい脂が、舌の上に落ちた。

 硬いはずのツノコッコの肉が、嘘みたいにやわらかい。


 噛むたびに、肉の味が出る。

 塩も、香草も、何も足していないはずなのに、足りないものがない。


「うっま」


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