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ハズレスキル【フライドチキン】で脳汁無双 〜追放された治癒師、揚げた鳥がうますぎて冒険者ギルドに囲われる〜  作者: あゆと


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2/11

リーダー失格

 ギルド奥の面談室は、六人で座るには少し狭かった。


 机が一つ。

 椅子が六つ。

 壁には、Cランク以上の依頼を受ける時の注意事項が貼られている。


 リリカさんは扉を閉めてから、分厚い帳面と登録書類を机に置いた。


 登録書類の祝福スキル欄には、さっき祝福盤に浮かんだ文字が写されている。


【フライドチキン】


 何度見ても、同じだった。


「確認しました。食べ物名の祝福スキルは、前例がほとんどありません」

「ほとんど」

「はい。少なくとも、このギルドでは初めてです」


 それは、たぶん、喜ぶところではない。


 リリカさんが帳面を開く。


「登録上、効果が分からない祝福は“その他”になります」

「その他」

「現時点では、テオさんの祝福スキルは、その他です」


 その他。


 治癒でも、支援でもない。

 どこにも入らない欄だった。


 ガイが帳面をのぞき込んだ。


「その他って弱いのか?」

「弱いとは限りません! ただ、効果不明です!」

「効果不明!」

「ガイ、声」

「ごめん!」


 リリカさんは、僕を見た。

 いつもの明るさが、少し落ちていた。


「テオさん。Cランク以上の依頼では、祝福スキルの効果も見られます」

「はい」

「Cランクからは、依頼の危険度が変わります。祝福スキルは、Cランクの体でなければ受け取れません。ギルドの秘宝です」

「その秘宝で」

「はい」

「フライドチキン」

「・・・はい」


 しーん。


 ガイが咳払いをした。

 セラは笑わなかった。

 ルッツは帳面を見ている。

 フィオは、膝の上で両手を握っていた。


「効果が確認できるまでは、上位依頼で説明できる祝福として扱えません」

「つまり、僕をCランク依頼に同行させる理由としては、説明できないんですね」

「・・・そうなります」


 リリカさんの声は小さかった。

 でも、部屋の中ではよく聞こえた。


 セラが、机の上の登録書類から目を離した。


「テオ」

「うん」

「今までみたいに、あなたを真ん中に置いて進むのは無理だと思う」


 ガイがすぐに振り向いた。


「何でだよ! テオは治癒師だろ! 今までだって普通に治してたじゃねえか!」

「うん」

「なら問題ないだろ!」

「問題はあるよ」


 僕は、ガイの手首を指さした。


「今の僕は、今までの僕と同じ治癒しかできない。ガイたちは祝福で先に進める。でも僕の祝福は、何をしてくれるのか分からない」

「そんなの、これから分かるだろ!」

「分かるまでの間に、誰かが死んだらどうするの」


 ガイは口を開いた。

 でも、すぐには言い返せなかった。


 Cランクからは別世界。

 それは、僕が一番言ってきたことだった。


 無理な依頼は受けない。

 撤退は早く決める。

 怪我を隠すな。

 勝てないと思ったら逃げる。


 そう言って、みんなを止めてきたのは僕だ。


 だから分かってしまう。

 効果不明の祝福を持った僕を、Cランク依頼に連れていくのは危ない。


 それが、僕自身でも。


「でもよ!」


 ガイが机を叩いた。


「テオがいなかったら、俺たちはDランクで三回死んでるぞ!」

「ガイ」

「本当のことだろ! 依頼を選んだのも、撤退を決めたのも、俺の手首を毎回見てたのもテオだろ!」

「毎回はひねってないよ」

「そこじゃねえ!」


 ルッツが低い声で言った。


「必要だった。だから、ここまで来た」

「だったら、いいだろ!」

「でも、次の依頼で聞かれるのは、テオの判断じゃない」

「何を聞かれるんだよ!」

「祝福が何をするかだ」


 ルッツはガイに返したあと、ようやく僕を見た。


「依頼選びも、撤退判断も、負傷管理も、今まで頼ってきた」

「なら」

「でも、それは【フライドチキン】の効果じゃない」


 僕は、机の上の登録書類を見たまま聞いた。


「僕がしてきたことは、足りなかったのかな」


 ルッツは、すぐには答えなかった。


「足りていた」

「なら」

「でも、これから先は、それだけでは通らない」


 短い言葉だった。

 だから、逃げ場がなかった。


 セラが一歩前に出た。


「依頼選びは、私がやるわ」

「セラ」

「撤退はルッツと決める。ガイは、私が止める」

「待てよ!」

「魔力の管理も自分でやる。フィオの矢は、フィオが数える」


 フィオが小さく肩を揺らした。


「私、数えるよ」

「フィオ」

「数える。ちゃんと数えるから・・・」


 声が細くなった。

 でも、言い切った。


 僕の仕事が、ひとつずつほどかれていく。


 依頼選び。

 撤退判断。

 負傷管理。

 補給。

 矢の数。

 ガイの暴走。


 僕が抱えていたものを、みんなが自分たちの手に戻していく。


 僕は口を挟めなかった。

 それは全部、僕がみんなに教えてきたことだったからだ。


 セラが僕を見た。


「テオ。あなたを、パーティから外すわ」


 ガイが、セラを見た。


「おい、セラ!」


「言いたくないわよ!」


 セラの声が、初めて揺れた。

 でも、目はそらさなかった。


「依頼を選んだのも、撤退を決めたのも、私たちをここまで連れてきたのもテオよ」

「だったら!」

「だからよ!」


 セラは、強く唇を結んだ。


「テオに守られてるだけのままじゃ、Sランクには行けない」


 ガイが何か言おうとした。

 でも、言えなかった。


 ルッツは黙っていた。

 フィオは、膝の上で両手を握ったまま下を向いていた。


 僕はうなずいた。


 うなずけてしまった。


 無理な依頼を止めてきたのは、僕だ。

 怪我をした仲間を下げてきたのも、僕だ。

 だから、ここで首を横には振れなかった。


「分かった」


 ガイが僕の肩をつかんだ。


「分かるなよ!」

「分かるよ」

「分かるなって言ってんだよ!」

「ガイ」


 僕はガイの手を外した。

 今朝ひねった方ではない手だ。


「勝てない依頼を止めるのが、僕の役目だった」

「だから何だよ」

「今度は、僕が止まる番だ」


 ガイの顔が、くしゃっと歪んだ。


「追い出すってことじゃねえだろ」

「でも、次の依頼に僕はいない」

「違う!」

「違わないよ」


 僕は登録書類を見た。


【フライドチキン】


 軽い名前だった。

 子どもが店の前で足を止めるような、昼飯の名前だ。


 でも、机の上では重かった。


「今日で、僕は抜けるよ」


 セラが目を閉じた。

 ルッツは何も言わなかった。

 フィオだけが、小さく僕の名前を呼んだ。


「テオくん・・・」


 僕は口元だけを上げた。


「大丈夫。効果が分かったら、また報告に来る」


 ガイが首を振った。


「そんな話じゃねえだろ」

「うん」

「だったら」

「でも、今はこれしかない」


 リリカさんが、帳面を閉じた。


「今日は、昇格登録だけ完了にしておきます。依頼の受注は、明日以降で大丈夫です」


 僕はうなずいた。


「ありがとうございます」


 リリカさんから登録書類の控えを受け取って、道具入れにしまおうとした。

 でも、手が止まった。


 いつもの道具入れには、包帯、薬草、小瓶、予備の手袋が入っている。

 そこは、治癒師としての僕の場所だった。


 その横に【フライドチキン】の文字を入れるのは、何か違う気がした。


 僕は登録書類の控えを、上着の内側に入れた。


【フライドチキン】


 そこだけ、やけに重かった。


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