祝福スキルはフライドチキン
「Cランク! Cランク! Cランク!」
ギルドの受付前で、ガイが子どもみたいに拳を突き上げていた。
やめてほしい。気持ちは分かるけど、やめてほしい。周りの冒険者が見ている。
「テオ、顔が暗いぞ! 俺たち、ついにCランクだぞ!」
「暗いんじゃなくて、君の声が大きいんだよ」
「今日は大きくていい日だろ!」
「手首をひねってる人が、拳を突き上げながら言うことじゃないよ」
「今それ言う!?」
ガイが右手を隠した。
隠すのが遅い。
「平気だって! 今日くらい騒いでもいいだろ!」
「騒いでもいいけど、手首は治してからにして」
僕はガイの手首に治癒魔法をかけた。
赤くなっている。骨は大丈夫。でも、このあと調子に乗ったら悪化するやつだ。
「今日は終わったら帰るよ。セラは魔法禁止、ルッツは水、フィオは矢を補充。ガイは叫ばない」
「最後だけ難しいな!」
「一番大事だよ」
「母親かよ!」
「母親なら、もっと怒ってるよ」
「じゃあ何なんだよ!」
「リーダー」
言ってから、少しだけ恥ずかしくなった。
でも事実だった。
僕は治癒師で、この幼馴染パーティのリーダーだ。
ガイが前に出すぎれば止める。セラが撃ちすぎれば休ませる。ルッツが黙っていれば水を渡す。フィオの矢は、僕が数える。
そうやって、五人でCランクまで来た。
「皆さん、昇格おめでとうございます!」
受付嬢のリリカさんが、書類を抱えて飛び出してきた。
いつも元気だけど、今日はさらにうるさい。
「ついでに、報告書が読みやすいパーティ第一位です!」
「そんな賞あるんですか」
「今作りました!」
「作らないでください」
「でも本当に助かっております! 討伐数、素材提出、負傷箇所、撤退理由まできっちり書いてくれるの、テオさんくらいですから!」
「まあな! 俺たち、真面目だからな!」
「主にテオさんが!」
「そこは全員って言ってくれよ!」
ガイが騒ぎ、セラが笑い、フィオもつられて笑った。
ルッツだけは涼しい顔をしていたけど、口元は少し上がっていた。
ガイみたいに叫ぶ気はない。
でも、手の中の銀札は、さっきから何度も見てしまう。
「テオ、それ、何回見るんだよ!」
「確認してるだけだよ」
「浮かれてるだろ!」
「君よりは静かにね」
「浮かれてるじゃねえか!」
否定はできなかった。
銀札の端を、親指でなぞる。
Cランク。
何度見ても、その文字は消えなかった。
◇
祝福の間は、ギルドの奥にあった。
中央には、青く光る祝福盤が置かれている。
壁際では、リリカさんが銀色の札を五枚並べていた。
「では、祝福スキルの授与手続きへ移ります!」
リリカさんの声が、祝福の間に明るく響いた。
「Cランク以上の冒険者には、固有の祝福スキルが授けられます! 強い祝福なら、Sランクも夢じゃありません!」
「Sランク!」
「ガイ、声」
「Sランクだぞ、テオ!」
「声を下げてSランクって言って」
最初はガイだった。
ガイが祝福盤に手を置くと、青い光が強くなった。
【竜斬り】
「来たああああ!」
「まだ竜どころか、大トカゲにも会ってないけどね」
「会ったら斬る!」
「会わないように依頼を選ぶのが僕の仕事だよ」
次はセラ。
【紅蓮詠唱】
「火力型ね。悪くないわ」
「セラさんにぴったりです!」
「受付嬢が太鼓判を押していいんですか」
「今日は祝いの日なので押します!」
ルッツは【影渡り】だった。
ガイが横から札をのぞき込む。
「影渡りって、なんか暗そうだな!」
「便利そうと言え」
「便利そう!」
「遅い」
フィオは【必中の目】。
「フィオ、すごいじゃないか」
「えへへ。これ、遠くても当たるかな」
「当たると思う」
「じゃあ、逃げる鳥にも?」
「まず依頼中に鳥を追わないで」
ガイはまだ拳を握っている。
セラは祝福盤を見ながら、もう次の魔法の撃ち方を考えている顔だった。
ルッツは涼しいふりをして、銀札を裏返したり戻したりしている。
フィオは、自分の札を両手で持って笑っていた。
強い。
分かりやすい。
たぶん、みんな同じことを考えていた。
これなら、もっと上へ行ける。
僕は、自分の銀札を握り直した。
ガイが斬って、セラが焼いて、ルッツが道を探して、フィオが外さない。
そこに僕の治癒があれば、たぶん、もっと上へ行ける。
そう思った。
思ってしまった。
「最後、テオさんです!」
リリカさんに呼ばれて、僕は祝福盤の前に立った。
「お前は治癒師だからな! 範囲回復とか来たら最強だぞ!」
「高速治癒でも十分よ。あなた、いつも無茶したガイの尻拭いしてるんだし」
「毒抜きでも助かる。俺が変な草を踏んだ時とか」
「テオくんらしい祝福が出るといいね」
僕はうなずいた。
派手じゃなくていい。
竜を斬れなくてもいい。
ただ、置いていかれない祝福が欲しかった。
「緊張してますか、テオさん!」
「少し」
「大丈夫です! 私の勘では、すごいのが来ます!」
「リリカさんの勘、当たるんですか」
「たまに!」
「不安ですね」
僕は祝福盤に手を置いた。
青い光が強くなる。
祝福盤が、静かに文字を浮かべた。
【フライドチキン】
神聖な祝福盤に、揚げ鶏屋の看板みたいな名前が出た。
ガイの口だけが、笑う形で止まっている。
セラは祝福盤を見て、僕を見て、もう一度祝福盤を見た。
ルッツは目を細めた。
フィオは小さく首をかしげた。
リリカさんは、手元の書類を一枚落とした。
「.......すみません。読み間違いとかありますか?」
「祝福盤は読み間違えません.......」
「表示不良は?」
「祝福盤は表示不良もしません......」
「じゃあ、ほんとうに....?」
しーん。
【フライドチキン】
何度見ても、同じだった。




