勧誘
雷鳴ホロホロ鳥の最後の一切れが、グレンさんの口へ消えた。
皿に残ったのは骨だけだった。ギルドマスターが持ち出した秘蔵の酒も、空になった瓶が一本転がっている。
「はああああ……」
誰かが深く息を吐くと、全員が続いた。
「まだ頭の奥がバチバチするわ」
「なのに、妙にすっきりしてる」
「もう動きたくねぇ」
「でも、もう一切れ食いたい」
さっきまで肉を奪い合っていた《暁の牙》の五人も、今は椅子や木箱へ座り込んでいた。
《眠り姫》ことヴィオラさんが、満足そうに目を細める。
「このまま眠れたら、最高でしょうね」
「自分の魔法で眠れないんですか?」
「自分には効かないの。残念だわ」
僕も骨だけになった皿を見た。
試し揚げのつもりだった。胸肉も脚肉も皮も、部位ごとの刺激を確かめながら揚げていたはずなのに、一切れも残っていない。
「本当に、全部食べきりましたね」
「ああ」
グレンさんは椅子へ深く座ったまま、満足そうに天井を見上げた。
「黒の塔を攻略した夜より、満たされているかもしれん」
「そこまでですか!?」
「あの夜は祝杯どころじゃなかったからな。塔を出るまで、硬い干し肉と水だけだ」
「頂上で食べた干し肉は、ひどかったわね」
ヴィオラさんが顔をしかめた。
「俺は歯が欠けた」
「魔物には勝ったのに、干し肉には負けたのか」
「笑うな。あれは強敵だった」
《暁の牙》の仲間たちが笑う。
ギルドマスターは空瓶を持ち上げ、逆さに振った。
「十年隠してた酒が、一刻で空になりやがった」
「後悔してますか?」
「するわけねぇだろ! 今日開けなきゃ、いつ開けるんだ!」
空瓶を置いたギルドマスターが、骨の残った皿へ手を伸ばす。
「どこかに肉が残ってねぇか?」
「さっきギルドマスターが最後の皮を食べましたよ」
「もう一枚くらい隠しておけ!」
「試験用の肉を隠してどうするんですか!」
「次の遠征にも持っていきたいな」
グレンさんが名残惜しそうに皿を見る。
「持っていくだけでは、今日と同じ味にはなりませんよ」
「なぜだ?」
「食べる直前に揚げて、火花が弱くなる瞬間を見ないと駄目なんです」
「なら、テオも連れていけばいいじゃない」
ヴィオラさんが当然のように言った。
グレンさんが僕を見る。
「……それだ」
「何がですか?」
グレンさんが立ち上がった。
「テオ。《暁の牙》に入れ」
「えっ?」
冗談かと思ったが、グレンさんはまっすぐ僕を見ていた。
「お前の【フライドチキン】は最高だ!」
大きな声が、ギルド裏へ響いた。
「雷鳴ホロホロ鳥を、こんな料理にしたのはお前だ。ただ食えるようにしただけじゃない。俺たち五人とギルドマスターが、一羽を奪い合って食った!」
「でも、捕まえたのは皆さんです」
「捕まえるだけなら俺たちにもできる!」
グレンさんが骨だけになった皿を指した。
「だが、雷を出す魔物を、もう一羽捕りに行きたくなるほどの料理にはできん!」
「それは……」
「最初に自分で食い、強すぎる刺激を確かめ、うまい瞬間を見つけたのもお前だ。スキルがあれば、誰にでもできることじゃない!」
《暁の牙》の仲間たちも立ち上がった。
「賛成よ」
ヴィオラさんが僕を見て笑う。
「次の遠征は、食事まで楽しみたいもの」
「捕った魔物を、その場で食えるんだろ?」
「硬い干し肉だけの遠征には戻れないな」
「テオがいれば、今まで食えなかった魔物も試せるぞ!」
「最高のスキルを使いこなす、お前も最高だ!」
グレンさんが、僕へ手を差し出した。
子どもの頃から憧れていた英雄の手が、目の前にある。
「来い、フライドチキンの帝王テオ!」
返事ができなかった。
「《暁の牙》の六人目になれ!」




