雷鳴ホロホロ鳥
第27話 酒を持ってこい!!
皿の上で、雷鳴ホロホロ鳥の試し揚げが青い火花を散らしていた。
ばちっ!
「もう食っていいか!」
グレンさんが手を伸ばす。僕はすぐに皿を引いた。
「最初は僕が食べます」
「捕まえたのは俺たちだぞ!」
「調理したのは僕です。危険だった時に、グレンさんを最初の被害者にはできません」
「俺なら平気だ!」
「それを今から確かめるんです!」
「分かった! 早く食え!」
《暁の牙》の残る四人も、火花を散らす肉を囲んでいる。
「本当に食べるの?」
「匂いだけなら絶対にうまいぞ」
「皆さん、少し下がってください!」
リリカさんに言われても、全員が半歩しか下がらなかった。
僕は試し揚げを小さく割る。衣の中まで火は通っていた。
「いきます」
小さい方を口へ入れた。
ばりっ!
ばちばちばちっ!!
「っっっ!?」
舌から頭の奥まで、強い刺激が一気に駆け抜けた。
頭の中がバチバチする。
考えていたことが全部吹き飛び、肩が大きく跳ねた。
「テオさん!?」
「吐き出せ、テオ!」
リリカさんとギルドマスターが叫ぶ。
その直後、硬い衣の中から熱い肉汁があふれ出した。
濃い鳥肉のうまみ。
脂の甘さ。
強烈な刺激の後だからこそ、その味が何倍にも大きく感じる。
「うっっっま!!!!!」
思わず、作業場中に響く声が出た。
「やっばい!!! なんですか、これ!!! 舌も頭もバチバチなのに、肉汁がめちゃくちゃ濃い!!!」
「大丈夫なんですか!?」
「大丈夫です!!! むしろ、もう一口ほしいです!!!」
「作ったの、お前だろ!」
ギルドマスターに言われても、残った肉から目を離せなかった。
刺激が少しずつ引いていく。
すると、さっきまでバチバチしていた頭の中が、急にすっきりした。
体の力は抜けたのに、気分だけは妙に高ぶっている。
「これ……すごいです!」
「何が起きてるんですか!?」
「頭の中が全部すっきりします! それなのに、また食べたくなるんです!」
「次は俺だ!」
グレンさんが迷いなく手を出した。
「まだです! 揚げた直後は刺激が強すぎます!」
皿の上では、残った肉からまだ大きな火花が散っている。
ばちっ。
少し待つと、火花の間隔が長くなった。
僕は残りをもう一度、小さくかじる。
ばりっ!
舌へ軽い刺激が走り、すぐに肉汁が広がった。
「うっま!!! 今です!!!」
「何が違うんですか?」
「火花が弱くなった今が食べ頃です! 痛くないのに、舌と頭だけ気持ちよくバチバチします!」
「よし! 次は俺だ!」
グレンさんが手を差し出す。
「小さく食べてください!」
「任せろ!」
僕が渡した一切れを、グレンさんは半分まとめて口へ放り込んだ。
「全然任せられない!」
ばりっ!
ばちばちばちっ!!
「おおおおおおっ!!!」
グレンさんが目を見開き、肩を大きく跳ねさせた。
「だから小さく食べろって言われただろ!」
「グレン、顔がすごいことになってるわよ!」
仲間たちが笑う中、グレンさんは無言で肉を噛み続ける。
肉汁があふれた瞬間、その顔が一気に笑った。
「うっっっま!!!!!」
残りも一口で消える。
「やっばい!!! 雷ごと食ってるぞ、これ!!! 頭の中が全部吹き飛んだ!!!」
刺激が引き始めると、グレンさんは大きく息を吐いた。
「はああああ……!」
しばらく天井を見上げた後、急に皿を突き上げる。
「酒を持ってこい!!!!」
「待ってろ!!」
真っ先に走ったのは、ギルドマスターだった。
「止める側じゃないんですか!?」
「その二人の顔を見りゃ分かる! こいつは絶対、酒に合う!」
ギルドマスターはギルドへ駆け込み、抱えるほど大きな酒瓶を持って戻ってきた。
「秘蔵の酒だ! おい、テオ! 俺にも食わせろ!」
「まだ試験中です!」
「だから俺も試すんだろうが!」
「絶対、飲みたいだけですよね!?」
「食いたいし飲みたい! 両方だ!」
「私たちの分もあるんでしょうね?」
「肉も酒も全員分だ!」
「次は私よ!」
「いや、捕まえる時に一番蹴られた俺が先だ!」
《暁の牙》の四人まで、一斉に作業台へ詰め寄る。
リリカさんが全員を指さした。
「食べていい時間はテオさんが決めます! それまでは酒だけにしてください!」
「分かった!」
「早く揚げろ!」
「もう杯を出していいか!?」
返事だけは全員早かった。
僕は残った肉を部位ごとに分ける。胸肉、脚肉、皮。中でも皮には強い雷が残っていた。
「次は皮です! これが一番、刺激が強いです!」
衣をつけ、油へ入れる。
じゅわあああっ!
青い火花が油の上を走った。
ばちばちばちばちっ!!
「おおおおっ!」
「見てるだけで酒が飲めるぞ!」
ギルドマスターが酒瓶の栓を抜く。
ぽんっ!
甘く強い香りが広がり、杯へ琥珀色の酒が注がれていく。
「俺も飲む!」
「ガイは一杯だけ」
「飲んでいいのか!?」
セラの言葉に、ガイが嬉しそうに杯を受け取った。
僕は揚がった皮を油から引き上げる。ばりばりの衣から、青い火花が噴き出した。
ばちんっ!
「まだか、テオ!」
「あと少しです!」
大きな火花が三度弾ける。
ばちっ! ばちっ! ばちっ!
次の火花は、小さかった。
「今です!」
グレンさん、ギルドマスター、《暁の牙》の四人が一斉に皮へかじりついた。
ばりっ!!
「っっっ!!!」
全員の肩が同時に跳ねた。
誰も声を出さない。
頭の中を走る刺激と、その後にあふれる肉汁を、目を見開いたまま味わっている。
刺激が引いた瞬間、全員が一斉に息を吐いた。
「はあああああ……!」
作業場が一瞬だけ静かになる。
そして次の瞬間、全員が杯へ手を伸ばした。
「うっっっま!!!!!」
「やっばい!!!」
「頭の中がすっきりした!!!」
「酒だ!!! 酒を流し込め!!!」
ギルドマスターが秘蔵の酒を一気にあおる。
「くぅぅぅぅっ!!!!」
杯を作業台へ叩き置き、もう一切れへ手を伸ばした。
「これだ!!! 生き返る!!!」
「次を揚げろ、テオ!!!」
「私の分も!」
「皮をもっとくれ!」
「酒もだ!」
「順番に並んでください!!!」
リリカさんの声も、もう誰にも届いていなかった。
こうしてギルド裏では、昼間から雷鳴ホロホロ鳥と秘蔵酒の宴会が始まった。




