午後の部
テオ・フライドチキンは、開店初日から二部制にした。
午前は、店で仕込んだ分を売る通常販売。
午後は、冒険者が捕まえた鳥型魔物の生け捕り仕入れ受付。
食べに来た客の列と、生け捕りの袋を抱えた冒険者を同じ時間に並べたら、店の前が飯屋ではなく魔物置き場になるからだ。
だから、コレットにも最初から午後まで来てもらう約束をしていた。
開店前に肉屋の親父さんへ頼みに行ったら、親父さんは腕を組んで言った。
「極み二つ」
それで話は決まった。
「父ちゃん、朝からずっと楽しみにしてました!」
「絶対に失敗できないやつだ……」
「だから私も、本気で手伝います!」
昼休憩が終わる前から、店の外では袋が跳ねていた。
「午後だぞ!」
「生け捕りだ!」
「帝王に見せろ!」
「袋、噛まれた! 誰か押さえろ!」
リリカさんが扉を少し開けて、すぐ閉めた。
「テオさん。すでに魔物置き場です」
「早いですね!?」
「早いです! でも、想定内です!」
店の外から、ギルドマスターの怒鳴り声が飛んできた。
「店の前に積むな! まずギルドで確認だ! 袋を開けたやつは、その場で依頼失敗にするぞ!」
「でも帝王に見せたい!」
「帝王の店を壊す気か!」
外が少し静かになった。
「……それはまずい」
「帝王の店は守る」
「ギルド行くか」
僕は油鍋の前で笑ってしまった。
「ギルドマスター、帝王呼びを使いましたね」
「使えるもんは使う」
ギルドマスターは店に入ると、入口の横に立った。
「午後は俺も見る。生け捕りの魔物を店先で暴れさせたら、飯屋じゃなくなる」
「助かります!」
リリカさんは注文帳を抱えて、店の前へ出た。
「午後の部を始めます! ここからは、生け捕り仕入れ受付です!」
冒険者たちが一斉に袋や籠を掲げた。
「ツノコッコ!」
「鉄嘴ガラス!」
「名前分かんねぇけど鳥!」
「鳴かないけど鳥!」
「順番です!」
リリカさんの声が通った。
「まず大事なことを言います! 持ち込まれた鳥型魔物は、お店で買い取ります!」
「俺の鳥なのに!?」
「買い取ります! ここからはお店の仕入れです!」
冒険者たちがざわついた。
「じゃあ食えねぇのか!?」
「食べたい人は、持ち込み特典で予約できます!」
リリカさんは指を三本立てた。
「定番、特製、極みです!」
「定番なら、状態がよければ今日一皿出せることがあります!」
「今日食えるのか!?」
「はい! ただし、残りはお店が買い取って仕込みに回します!」
「特製と極みは?」
「明日以降です! 下処理と肉選びに時間がかかります!」
冒険者たちの声が一段上がった。
「極み!」
「俺も極み!」
「俺のも極みで頼む!」
「極みは高いです!」
「高くていい!」
「俺の鳥だぞ! 一番うまくしてくれ!」
「帝王に任せるなら極みだろ!」
リリカさんが注文帳を抱え直した。
「極み、人気が強すぎます!」
コレットが作業台の前から声を上げた。
「極みは、肉を選ぶところから違います! 一羽ぜんぶ極みにはできません!」
「なんでだ!?」
「全部が一番おいしい場所じゃないからです!」
冒険者たちは、変に納得した顔をした。
「たしかに」
「俺にも一番うまい部位と、そうでもない部位がある」
「お前の部位の話はしてねぇ」
リリカさんが注文帳を開いた。
「一件目! 鳥の種類、捕まえた人、希望のうまさランクを言ってください!」
前に出たのは、ボルグという大柄な斧使いだった。
両腕で抱えた袋の中から、ぐるる、と低い鳴き声がする。
「ツノコッコ! 俺が捕まえた! 今日食いたいから定番で!」
「ツノコッコ、定番、即日一皿希望ですね!」
リリカさんがすぐ書く。
「残りは買い取りで、お店の仕込みに回します!」
「分かった! 金も入って、食えるなら文句ねぇ!」
ギルドマスターが袋を見る。
「弱ってはいねぇな。暴れすぎてるくらいだ」
「じゃあ、店の裏に回します!」
僕は店の裏へ出た。
ツノコッコは袋の中でまだ暴れている。
ギルドマスターが押さえ、僕がとどめを刺した。
客席で暴れられるより、ずっといい。
でも、これを毎回その場で全部さばくのは無理だ。
「テオさん、こっちお願いします!」
コレットがすぐに動いた。
包丁を持つと、声がさっきより少し低くなる。肉屋の娘の声だ。
「この子、足が硬いです! 前と同じで、足は薄め。胸は小さめ。定番一皿なら今日いけます!」
「頼む!」
「残りは明日の仕込みに回します!」
コレットが一皿分を切り分ける。
僕はそれを受け取り、衣をつけた。
油へ入れる。
じゅわっ!
外から、待っていた冒険者たちの声が上がる。
「午後の音だ!」
「持ち込みの音だ!」
「帝王、頼むぞ!」
午前とは違う。
これは、店が仕入れた鳥だ。
捕まえた人がいて、買い取って、僕がとどめを刺して、コレットが肉を見て、いま油の中にある。
揚がった定番を皿に乗せると、ボルグが両手で受け取った。
「俺のツノコッコか……!」
「もうお店のツノコッコです!」
リリカさんがすぐ訂正する。
「でも、最初の一皿はボルグさんです!」
「おう!」
ボルグがかぶりついた。
ばりっ!
「うめぇ!」
店の外が一気に沸く。
「持ち込み、いけるぞ!」
「捕まえた鳥がフライドチキンになるぞ!」
「定番でこれかよ!」
「今日食えるの強ぇ!」
ボルグは口の端に油をつけたまま、拳を上げた。
「帝王! 俺のツノコッコ、うめぇ!」
「テオです!」
僕が返す前に、外から合唱が返ってきた。
「帝王!」
「帝王!」
「帝王!」
リリカさんはもう笑っていた。
「次の方! 種類と希望ランクをお願いします!」
「鉄嘴ガラス! 極みで!」
「極みは明日以降です!」
「待つ!」
「ツノコッコ! 極み!」
「極みは枠が少ないです!」
「取る!」
「取れるかは順番です!」
「じゃあ特製!」
「特製も翌日です!」
「それでもいい!」
「今日食いたい!」
「それなら定番です! 状態を見てからです!」
注文帳がどんどん埋まっていく。
その時、冒険者の一人が手を止めた。
「待てよ」
周りの冒険者たちが、その男を見た。
「今日、鳥を持ち込むだろ」
「持ち込むな」
「極みで予約するだろ」
「するな」
「明日、その極みが食えるんだよな?」
リリカさんがうなずく。
「予約できれば、食べられます。持ち込み特典ですから!」
「で、明日の午前も、俺は普通に並んでいいのか?」
リリカさんの動きが止まった。
「……並べます」
「通常販売は、一人二個までだったよな?」
「……二個までです」
男が指を三本立てた。
「三個いけるじゃねぇか!」
店の前が爆発した。
「鳥捕まえてくる!」
「極み予約だ!」
「普通に並ぶより強ぇ!」
「俺の鳥、絶対に極みにする!」
「帝王! 俺の鳥も頼む!」
「だから順番です!」
リリカさんが叫んでも、冒険者たちはもう止まらなかった。
「通常販売二個!」
「持ち込み極み一個!」
「三個!」
「三個食える!」
「明日の俺、勝った!」
ギルドマスターが頭を抱えた。
「気づきやがった……」
コレットは次の袋を見ながら、袖をまくり直した。
「テオさん、これも足が硬そうです! 定番なら薄め、特製なら下処理に時間ください!」
「分かった。リリカさん、特製は明日で!」
「聞こえました! 特製は明日です!」
リリカさんが注文帳をめくった。
「テオさん! 明日の極み枠、埋まりました!」
「早すぎませんか!?」
「次、特製も埋まります!」
外で、誰かが叫んだ。
「帝王! 俺の鳥も極みにしてくれ!」
「極みはもう埋まりました!」
「じゃあ特製!」
「特製も順番です!」
「定番なら今日いけるんだよな!?」
「状態を見てからです!」
「見てくれ! めちゃくちゃ元気だ!」
「店の前で袋を開けないでください!」
僕は次の一皿を油へ入れた。
じゅわああっ!
「帝王!」
「三個!」
「鳥捕まえろ!」
「ギルド通してから来い!」
ギルドマスターの怒鳴り声に負けないくらい、次の袋が店の外で跳ねた。




