表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレスキル【フライドチキン】で脳汁無双 〜追放された治癒師、揚げた鳥がうますぎて冒険者ギルドに囲われる〜  作者: あゆと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/44

午後の部

 テオ・フライドチキンは、開店初日から二部制にした。


 午前は、店で仕込んだ分を売る通常販売。

 午後は、冒険者が捕まえた鳥型魔物の生け捕り仕入れ受付。


 食べに来た客の列と、生け捕りの袋を抱えた冒険者を同じ時間に並べたら、店の前が飯屋ではなく魔物置き場になるからだ。


 だから、コレットにも最初から午後まで来てもらう約束をしていた。

 開店前に肉屋の親父さんへ頼みに行ったら、親父さんは腕を組んで言った。


「極み二つ」


 それで話は決まった。


「父ちゃん、朝からずっと楽しみにしてました!」

「絶対に失敗できないやつだ……」

「だから私も、本気で手伝います!」


 昼休憩が終わる前から、店の外では袋が跳ねていた。


「午後だぞ!」

「生け捕りだ!」

「帝王に見せろ!」

「袋、噛まれた! 誰か押さえろ!」


 リリカさんが扉を少し開けて、すぐ閉めた。


「テオさん。すでに魔物置き場です」

「早いですね!?」

「早いです! でも、想定内です!」


 店の外から、ギルドマスターの怒鳴り声が飛んできた。


「店の前に積むな! まずギルドで確認だ! 袋を開けたやつは、その場で依頼失敗にするぞ!」


「でも帝王に見せたい!」

「帝王の店を壊す気か!」


 外が少し静かになった。


「……それはまずい」

「帝王の店は守る」

「ギルド行くか」


 僕は油鍋の前で笑ってしまった。


「ギルドマスター、帝王呼びを使いましたね」

「使えるもんは使う」


 ギルドマスターは店に入ると、入口の横に立った。


「午後は俺も見る。生け捕りの魔物を店先で暴れさせたら、飯屋じゃなくなる」

「助かります!」


 リリカさんは注文帳を抱えて、店の前へ出た。


「午後の部を始めます! ここからは、生け捕り仕入れ受付です!」


 冒険者たちが一斉に袋や籠を掲げた。


「ツノコッコ!」

「鉄嘴ガラス!」

「名前分かんねぇけど鳥!」

「鳴かないけど鳥!」


「順番です!」


 リリカさんの声が通った。


「まず大事なことを言います! 持ち込まれた鳥型魔物は、お店で買い取ります!」


「俺の鳥なのに!?」

「買い取ります! ここからはお店の仕入れです!」


 冒険者たちがざわついた。


「じゃあ食えねぇのか!?」

「食べたい人は、持ち込み特典で予約できます!」


 リリカさんは指を三本立てた。


「定番、特製、極みです!」


「定番なら、状態がよければ今日一皿出せることがあります!」

「今日食えるのか!?」

「はい! ただし、残りはお店が買い取って仕込みに回します!」


「特製と極みは?」

「明日以降です! 下処理と肉選びに時間がかかります!」


 冒険者たちの声が一段上がった。


「極み!」

「俺も極み!」

「俺のも極みで頼む!」


「極みは高いです!」

「高くていい!」

「俺の鳥だぞ! 一番うまくしてくれ!」

「帝王に任せるなら極みだろ!」


 リリカさんが注文帳を抱え直した。


「極み、人気が強すぎます!」


 コレットが作業台の前から声を上げた。


「極みは、肉を選ぶところから違います! 一羽ぜんぶ極みにはできません!」


「なんでだ!?」

「全部が一番おいしい場所じゃないからです!」


 冒険者たちは、変に納得した顔をした。


「たしかに」

「俺にも一番うまい部位と、そうでもない部位がある」

「お前の部位の話はしてねぇ」


 リリカさんが注文帳を開いた。


「一件目! 鳥の種類、捕まえた人、希望のうまさランクを言ってください!」


 前に出たのは、ボルグという大柄な斧使いだった。

 両腕で抱えた袋の中から、ぐるる、と低い鳴き声がする。


「ツノコッコ! 俺が捕まえた! 今日食いたいから定番で!」

「ツノコッコ、定番、即日一皿希望ですね!」


 リリカさんがすぐ書く。


「残りは買い取りで、お店の仕込みに回します!」

「分かった! 金も入って、食えるなら文句ねぇ!」


 ギルドマスターが袋を見る。


「弱ってはいねぇな。暴れすぎてるくらいだ」

「じゃあ、店の裏に回します!」


 僕は店の裏へ出た。


 ツノコッコは袋の中でまだ暴れている。

 ギルドマスターが押さえ、僕がとどめを刺した。


 客席で暴れられるより、ずっといい。

 でも、これを毎回その場で全部さばくのは無理だ。


「テオさん、こっちお願いします!」


 コレットがすぐに動いた。

 包丁を持つと、声がさっきより少し低くなる。肉屋の娘の声だ。


「この子、足が硬いです! 前と同じで、足は薄め。胸は小さめ。定番一皿なら今日いけます!」

「頼む!」

「残りは明日の仕込みに回します!」


 コレットが一皿分を切り分ける。

 僕はそれを受け取り、衣をつけた。


 油へ入れる。


 じゅわっ!


 外から、待っていた冒険者たちの声が上がる。


「午後の音だ!」

「持ち込みの音だ!」

「帝王、頼むぞ!」


 午前とは違う。


 これは、店が仕入れた鳥だ。

 捕まえた人がいて、買い取って、僕がとどめを刺して、コレットが肉を見て、いま油の中にある。


 揚がった定番を皿に乗せると、ボルグが両手で受け取った。


「俺のツノコッコか……!」

「もうお店のツノコッコです!」


 リリカさんがすぐ訂正する。


「でも、最初の一皿はボルグさんです!」

「おう!」


 ボルグがかぶりついた。


 ばりっ!


「うめぇ!」


 店の外が一気に沸く。


「持ち込み、いけるぞ!」

「捕まえた鳥がフライドチキンになるぞ!」

「定番でこれかよ!」

「今日食えるの強ぇ!」


 ボルグは口の端に油をつけたまま、拳を上げた。


「帝王! 俺のツノコッコ、うめぇ!」


「テオです!」


 僕が返す前に、外から合唱が返ってきた。


「帝王!」

「帝王!」

「帝王!」


 リリカさんはもう笑っていた。


「次の方! 種類と希望ランクをお願いします!」


「鉄嘴ガラス! 極みで!」

「極みは明日以降です!」

「待つ!」


「ツノコッコ! 極み!」

「極みは枠が少ないです!」

「取る!」

「取れるかは順番です!」


「じゃあ特製!」

「特製も翌日です!」

「それでもいい!」


「今日食いたい!」

「それなら定番です! 状態を見てからです!」


 注文帳がどんどん埋まっていく。


 その時、冒険者の一人が手を止めた。


「待てよ」


 周りの冒険者たちが、その男を見た。


「今日、鳥を持ち込むだろ」

「持ち込むな」

「極みで予約するだろ」

「するな」

「明日、その極みが食えるんだよな?」


 リリカさんがうなずく。


「予約できれば、食べられます。持ち込み特典ですから!」


「で、明日の午前も、俺は普通に並んでいいのか?」


 リリカさんの動きが止まった。


「……並べます」

「通常販売は、一人二個までだったよな?」

「……二個までです」


 男が指を三本立てた。


「三個いけるじゃねぇか!」


 店の前が爆発した。


「鳥捕まえてくる!」

「極み予約だ!」

「普通に並ぶより強ぇ!」

「俺の鳥、絶対に極みにする!」

「帝王! 俺の鳥も頼む!」


「だから順番です!」


 リリカさんが叫んでも、冒険者たちはもう止まらなかった。


「通常販売二個!」

「持ち込み極み一個!」

「三個!」

「三個食える!」

「明日の俺、勝った!」


 ギルドマスターが頭を抱えた。


「気づきやがった……」


 コレットは次の袋を見ながら、袖をまくり直した。


「テオさん、これも足が硬そうです! 定番なら薄め、特製なら下処理に時間ください!」

「分かった。リリカさん、特製は明日で!」

「聞こえました! 特製は明日です!」


 リリカさんが注文帳をめくった。


「テオさん! 明日の極み枠、埋まりました!」

「早すぎませんか!?」

「次、特製も埋まります!」


 外で、誰かが叫んだ。


「帝王! 俺の鳥も極みにしてくれ!」


「極みはもう埋まりました!」

「じゃあ特製!」

「特製も順番です!」


「定番なら今日いけるんだよな!?」

「状態を見てからです!」

「見てくれ! めちゃくちゃ元気だ!」

「店の前で袋を開けないでください!」


 僕は次の一皿を油へ入れた。


 じゅわああっ!


「帝王!」

「三個!」

「鳥捕まえろ!」

「ギルド通してから来い!」


 ギルドマスターの怒鳴り声に負けないくらい、次の袋が店の外で跳ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ