店舗
「これ、捕まえるだけじゃなくて、育てて増やせませんか?」
僕がそう言うと、ギルドマスターは黙った。
外では、まだ冒険者たちが騒いでいる。
「金羽キジ、次は俺が見つける!」
「勝手に狩るなって言われただろ!」
「じゃあ報告すればいいんだな!?」
「報告したら食えるのか!?」
ギルドマスターが、低くうなった。
「うるせぇ……」
それから、僕を見た。
「テオ。育てるって、どうやってだ」
「え」
「鳥型魔物だぞ。餌も知らねぇ。逃げたら町が騒ぐ。世話するやつもいねぇ。場所もねぇ」
僕は返せなかった。
金羽キジはうまかった。
森から獲り続けたら、いつかいなくなる。
だから育てられたらと思った。
でも、どう育てるかまでは分かっていない。
ギルドマスターは、金羽キジの袋が置かれていた台を指した。
「考えは悪くねぇ。だが、順番が違う」
「順番」
「店を持て。金を作れ。人を増やせ。育てるのは、そのあとだ」
店。
その言葉に、リリカさんが先に反応した。
「お店、ですか?」
声が跳ねた。
「このフライドチキンの、お店ですか?」
「ああ」
「ギルドの中ではなくて?」
「違う。お前らの店だ」
リリカさんは、屋台の台を見た。
空になった紙皿を見た。
油鍋を見た。
それから、外でまだ騒いでいる冒険者たちを見た。
「テオさん」
リリカさんが、僕の袖を軽く引いた。
「お店です!扉があって、看板があって、お客さんが入ってくるお店です!」
「はい」
「メニュー札、作り直しです。定番と特製と極みも、ちゃんと出せます。雨の日も売れます。肉も、今より多く置けます」
「雨の日も……」
「はい。あと、ギルドの入口をふさがなくて済みます」
最後だけ、リリカさんはギルドマスターを見て言った。
ギルドマスターが鼻を鳴らす。
「そこだ」
ギルド前を見ると、依頼板の前に冒険者がたまっていた。
受付の前にも人がいる。
鳥を入れる袋を持った冒険者が、入口の横で待っている。
網を持ったやつまでいる。
ギルドマスターは、外を指した。
「テオ。屋台はもう無理だ」
「す、すみません」
「謝れって話じゃねぇ。ギルドの前でこれ以上やるなって話だ」
外から、また声が上がった。
「店出すのか!?」
「フライドチキンの店か!?」
「俺、一番に並ぶ!」
ギルドマスターが怒鳴った。
「まだ並ぶな! 店もねぇ!」
リリカさんは、すぐに看板の裏へ大きく書いた。
【今日の営業は終わりです】
【金羽キジは勝手に狩らない】
【お店はまだありません】
その看板を見た冒険者たちが、さらに騒いだ。
「まだってことは、できるんだな!?」
「いつだ!?」
「明日か!?」
「明日は無理です!」
リリカさんが即答した。
「まだ建物も決まっていません!」
「じゃあ早く決めろ!」
「あなたたちに言われなくても決めます!」
ギルドマスターが少し笑った。
「いい返事だ」
それから、僕たちに言った。
「ギルド通りの外れに、空いてる飯屋がある。前は冒険者相手に朝飯と酒を出してた店だ。今は閉まってる」
「ギルドの店ですか?」
「違う。持ち主は別だ。俺から声はかけられる」
リリカさんは迷わなかった。
「すぐ行きましょう」
僕も、油鍋を見てからうなずいた。
「ここで作れるか、確かめたいです」
外から声が飛ぶ。
「店できたら呼べよ!」
「一番に並ぶ!」
「席取っとく!」
「まだ席もありません!」
リリカさんが返すと、冒険者たちは笑いながら少しずつ散っていった。
僕は油鍋の火を落とした。
金羽キジを育てるのは、まだ先だ。
でも、店なら今から動ける。
店ができたら、もっとちゃんと作れる。
肉を切る場所も、皿を分ける場所も、揚げたものを出す場所もできる。
リリカさんは、看板を片付けながら、もう次のことを考えていた。
「店名、いりますね!」
「店名ですか?」
「はい。ずっと『フライドチキンあります』のままでは、看板が弱いです!」
「たしかに......」
「でも、分かりやすさは残したいですよね!」
「フライドチキンの店だと、分かった方がいいですよね」
「もちろんです」
リリカさんは少しだけ笑った。
「テオさんのお店ですから」
その言葉で、手が止まった。
僕の店。
僕とリリカさんの店。
フライドチキンを出す店。
まだ建物も決まっていないのに、早く肉を切りたくなった。
早く衣を作りたくなった。
早く、店の中でフライドチキンを揚げてみたくなった。
その日の夕方。
僕たちは、ギルド通りの外れにある空き飯屋の前に立っていた。
古い木の扉。
くすんだ看板。
閉まった窓。
でも、窓の奥には、広い調理場がある。
壁際には棚が残っている。
奥には水場もある。
リリカさんは窓に近づき、店の中をじっと見た。
「テオさん」
「はい」
「ここ、いけそうです。鍵、開けてもらいましょう」
僕も扉の前に立った。
定番。
特製。
極み。
金羽キジは、まだ特別な試験品。
ここで作れたら、屋台とは違う。
「ここで作れるか、確かめましょう」
リリカさんが、すぐにうなずいた。
「はい!」
その時、店の奥で何かが動いた。
ぎい、と床板が鳴った。




