表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレスキル【フライドチキン】で脳汁無双 〜追放された治癒師、揚げた鳥がうますぎて冒険者ギルドに囲われる〜  作者: あゆと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/24

金羽キジ

金羽キジの袋を、ギルド裏の台へ運んだ。


ロイドは袋の口を押さえているだけに見えた。

けれど、中の金羽キジがどれだけ暴れても、袋の向きは一度も変わらない。


クルルルルッ!


ギルドマスターが袋を見た。


「雑にやるな。素材としても高い。試験品としては、もっと高い」

「はい」


僕は袋の中を確認した。


羽はきれいだ。

傷も少ない。

肉の張りが、ツノコッコとも鉄嘴ガラスとも違う。


生きたまま、ほとんど傷なしの金羽キジ。

今までで一番、条件がそろっていた。


ロイドが短く言った。


「森の奥の沢沿いで捕まえた。逃げ足は速い。傷はつけていない」


ギルドマスターがうなずく。


「影縫いの名は伊達じゃねぇな」

「依頼だからな」


ロイドはそれだけ言って、袋から手を離さなかった。


僕は金羽キジにとどめを刺し、羽を処理した。


刃を入れた瞬間、分かった。

肉がきれいだ。


麦羽鶏より香りが強い。

ツノコッコのような硬さはない。

鉄嘴ガラスのような癖もない。


肉として、ちゃんとうまい鳥型魔物だ。


僕は塩を振り、衣をつけた。


急ぎたい。

今すぐ揚げたい。

でも、ここで雑にしたら台無しだ。


油の温度を見る。

衣の厚さを見る。

肉の大きさを見る。


それから、金羽キジを油へ入れた。


じゅわっ。


音が違った。


衣が立つ。

油の中で、肉の香りがふくらむ。

甘い匂いの奥に、森の鳥らしい強さがある。


外で待つ冒険者たちがざわついた。


ギルドマスターが入口へ向かって言う。


「入るな。まだ試験中だ」


僕は鍋から目を離さなかった。


麦羽鶏の極み。

ツノコッコ。

鉄嘴ガラス。


どれとも違う。


揚がった一切れを取り上げる。

衣は今までで一番きれいに色づいていた。

切ると、肉汁が出た。


僕は確認用をかじった。


熱い。

衣が割れて、肉汁が出た。


「うっま!」


思ったより大きな声が出た。


リリカさんが、紙皿を持ったまま僕を見る。


「テオさん?」


僕はもう一口食べた。


「やっべ……これ、うまいです。めちゃくちゃうまいです!」


肉がうまい。

魔物としての強さもある。

そこに、僕の手順が全部乗っている。


とどめ。

下処理。

衣。

油。


全部だ。


「リリカさん、これ、すごいです。ほんとにすごいです」

「テオさん、すごく明るい顔してます」

「だって、うまいんです。これ、ほんとにうまいんです」


僕は紙皿を見た。

金羽キジのフライドチキンが、まだ残っている。


「飛ぶって、こういうことだったんですね」


外の冒険者たちが騒ぎ出した。


「今のテオか!?」

「飛ぶって聞こえたぞ!」

「裏で何が起きてんだよ!」


僕は次の部位を見た。


もっと揚げたい。

まだ食べたい。

今すぐ、次の一切れを揚げたい。


「リリカさん、次の部位、揚げてもいいですか」

「成功者用を先に分けてからです」

「はい!」


リリカさんが、成功者用の皿を手で守った。


「確認用もそこまでです」

「もう一口だけ」

「成功者用が減ります」

「……それはだめです」


ギルドマスターが確認用を食べた。


一口で、顔が変わった。


「……テオ」

「はい」

「お前が飛ぶって言った意味は分かった」

「ですよね」

「ああ。これは、麦羽鶏の極みを超えてる」


僕は、空いた皿を見た。

まだ一切れ残っている。

食べたい。

揚げたい。

もう一回、同じ音を聞きたい。


「リリカさん、やっぱり次、揚げましょう」

「成功者用です」

「分かってます。分けたあとです」


リリカさんが笑った。


「はい。分けたあとなら」


影縫いのロイドは、金羽キジのフライドチキンを見ても騒がなかった。

ただ、一口食べたあと、しばらく黙った。


そして、短く言った。


「捕まえた甲斐はあった」


その一言だけで、十分だった。


ギルドマスターが外へ出る。

僕とリリカさんも続いた。


ギルド前の冒険者たちは、もう何かを察していた。

それでも、ギルドマスターの口から出る言葉を待っている。


「発表する」


ギルド前が静かになった。


「金羽キジは、麦羽鶏の極みを超えた」


一拍。


うおおおおおおおおおっ!


ギルド前が揺れた。


「超えた!」

「ついに出た!」

「金羽キジだ!」

「森だ! 森に行け!」


ギルドマスターが拳を上げた。


「待て」


太い声で、冒険者たちの足が止まった。


「金羽キジはギルド管理にする。勝手に狩るな。勝手に殺すな。勝手に売るな。見つけたらギルドへ報告しろ。生け捕り依頼は、こっちで数を絞って出す」


「数を絞るのかよ!」

「当たり前だ。狩り尽くしたら終わりだろうが」


ギルドマスターの一言で、騒いでいた冒険者たちが黙った。


金羽キジはうまい。

高く売れる。

優先試食権もある。


だからこそ、放っておけば森からいなくなる。


リリカさんが、看板の裏へ書いた。


【金羽キジ 成功】

【麦羽鶏の極み超え】

【ギルド管理】

【乱獲禁止】

【成功者優先】


ロイドが、空になった紙皿を置いた。


「次の捕獲依頼が出るなら、受ける」

「お願いします」


僕はすぐに答えた。


ギルドマスターが笑う。


「即答かよ」

「揚げたいので」


僕は油鍋の前へ戻った。


まだ、金羽キジの香りが残っている。

空いた皿を見ると、また食べたくなる。


でも、森から獲ってくるだけなら、いつかいなくなる。


今日は、生きたまま持ち込まれた。

傷も少なかった。

なら、殺して終わりにしなくてもいいのではないか。


僕は顔を上げた。


「あれ」


リリカさんが振り向いた。


「どうしました?」


僕は、金羽キジの袋が置かれていた台を見た。


「これ、捕まえるだけじゃなくて、育てて増やせませんか?」


ギルドマスターの動きが止まった。


リリカさんも、ロイドも、僕を見た。


「テオ」


ギルドマスターが、ゆっくり言った。


「お前、今、とんでもねぇこと言ったぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ