三つの袋
ギルド前に、三つの袋が並んだ。
どの袋も動いている。
鳴き声も違う。
コケェェェェェッ!
ギャアッ、ギャアッ!
クルルルルッ!
冒険者たちは、袋ではなく僕を見ていた。
「テオ、次は俺だ!」
「生きてるぞ! ちゃんと生きてる!」
「優先試食権、あるよな!」
ギルドマスターが、手を一度だけ叩いた。
「袋をその場で開けるな。受付を通せ。成功者名、捕まえた場所、鳥型魔物の名前、傷の有無を書く。試験する袋だけ、順にギルド裏へ運ぶ」
リリカさんが受付机を借り、紙を広げた。
【生け捕り受付】
【成功者名】
【鳥型魔物名】
【状態確認】
【呼ばれるまで待機】
「弱って死んだら、優先試食権は消えます! 袋を叩かないでください!」
その一言で、冒険者たちの手が袋から離れた。
一羽目は、またツノコッコだった。
さっきと同じように、僕がとどめを刺し、下処理をして、衣をつけて揚げる。
じゅわっ。
二回目でも、結果は変わらなかった。
肉は硬い。
でも、衣の中から強い味が出る。
「麦羽鶏の極みと同じくらいです。味は、やっぱり別です」
ギルドマスターがうなずいた。
「二回続いた。ツノコッコは使えると見ていい」
成功者の冒険者が食べた瞬間、ギルド裏で叫んだ。
「うまっ! ツノコッコだよな、これ!? 俺、昨日こいつ焼いて後悔したんだけど!」
外で待つ冒険者たちが、声だけで騒ぎ出した。
二羽目は、鉄嘴ガラスだった。
黒い羽をした鳥型魔物で、くちばしが硬い。
肉は少なく、匂いも少し強い。
僕は同じ手順で処理し、衣をつけた。
油へ入れると、ツノコッコより鋭い匂いが立った。
うまそうではある。
でも、定番で並べる匂いではない。
確認用をかじる。
「……うまいです。でも、定番に出す味じゃないです。好きな人は好きです」
成功者の弓使いが食べた。
すぐには叫ばなかった。
ゆっくり噛んで、目を開く。
「濃い。これ、酒がほしい」
外から笑い声が上がった。
ギルドマスターは短く紙に書き込んだ。
「鉄嘴ガラスは試験品だな。列の先頭に出す味じゃねぇ」
「はい。でも、これはこれで食べたい人がいます」
リリカさんが別の紙に書いた。
【鳥型魔物試験】
【ツノコッコ 極み同等/別味】
【鉄嘴ガラス 癖強め/試験品】
そこで、三つ目の袋が大きく跳ねた。
クルルルルッ!
袋の口から、黄色い羽が少し出ている。
ツノコッコより大きい。
鉄嘴ガラスより、肉の張りがある。
その袋を持ってきた冒険者を見て、ギルド前の声が一段落ちた。
革鎧に大きな傷はない。
息も乱れていない。
ただ、袋の口を押さえる手だけが、まったく揺れていなかった。
誰かが、小さく言った。
「……影縫いのロイドだ」
冒険者たちが、袋と男を見比べた。
「Aランクじゃねぇか」
「ロイドが捕まえてきたのか」
「逃げる魔物を、傷つけずに止めるやつだろ」
ロイドは周りを見ずに、袋を受付台の前へ置いた。
「森の奥で捕まえた。金羽キジだ。傷はつけていない」
ギルドマスターの顔が変わった。
「お前が持ってきたなら本物だな。……おい、それは普通に高級素材だぞ」
冒険者たちがざわついた。
「金羽キジ!?」
「よく生け捕りにしたな」
「それ、焼いてもうまいやつだろ!」
僕は袋を見た。
肉質のいい鳥型魔物。
しかも生きている。
それを、Aランク冒険者が傷をつけずに捕まえてきた。
ツノコッコは、肉がよくないのに麦羽鶏の極みに並んだ。
鉄嘴ガラスは、癖が強いのに別のうまさが出た。
なら、肉質のいい鳥型魔物を、僕が全部やったらどうなるのか。
僕は、まだ何も言われていないのに、衣を置く場所を空けていた。
リリカさんが僕を見て、少し笑った。
「テオさん、揚げたい顔をしています」
「……揚げたいです」
ロイドが、初めて僕を見た。
「優先試食権はあるんだな」
「あります」
リリカさんが即答した。
「ただし、確認後です。成功者用の皿は分けます」
ロイドは短くうなずいた。
「それでいい」
ギルドマスターも笑った。
「よし。三羽目は慎重にやれ。今日の本命かもしれん」
外の冒険者たちが静かになる。
今度は、叫びが聞こえる前から、全員が待っていた。




