ギルド
「テオ、詳しく聞かせろ」
ギルドマスターは、ギルドの扉を開けた。
僕は油鍋の火が消えていることを確認した。
火を見ないまま、屋台を離れるわけにはいかない。
コレットが、空の肉皿を抱えたまま僕を見た。
「あの、私は……」
「コレットさんは、今日はここまでで大丈夫です。これを、お父さんにお願いします」
僕は、屋台の奥に置いていた紙包みを渡した。
肉屋の主人に約束していた分だ。
「明日の麦羽鶏も、相談しておいてください」
「はい! 明日はもっと大きさ、そろえます!」
コレットは紙包みと肉皿を抱えて、肉屋の方へ走っていった。
リリカさんは看板を屋台の内側へ寄せて、売上袋を持った。
ギルドマスターがリリカさんを見る。
「お前も来い。売る方を見てるやつがいないと、数の話にならん」
「はい!」
僕とリリカさんは、ギルドマスターの部屋に入った。
ギルドマスターは椅子に座ると、すぐ僕を見た。
「フライドチキンという祝福スキルだ。テオ、お前が知っていることを言え。分からんことは、分からんでいい」
僕はうなずいた。
全部分かっているわけではない。
でも、分かっていることはある。
「端的に言うと、フライドチキンを美味しく作れるスキルです。ただし、同じ鳥でも同じ味にはなりません。美味しさには条件があると思っています」
「一つ目は、僕の関与度です。買った肉を僕が調理するだけでも、普通より美味しくなります。でも、弱いです」
「生きた鳥を、僕がとどめを刺して、下処理をして、衣をつけて、油で揚げると強く出ます。今日の極みはそれです。麦羽鶏を、僕がとどめから揚げるところまでやりました」
リリカさんが横でうなずいた。
「二つ目は、鳥の格です。麦羽鶏と白羽鶏では違いました。白羽鶏は高い鳥です。ただ、その時は僕が全部やったわけではありません」
ギルドマスターの太い眉が動いた。
「鳥の格ってのは、値段か」
「そこは、まだ分かりません」
僕は言い切らなかった。
言い切れるほど、試していない。
「肉そのものの美味しさは関係あると思います。脂とか、香りとか、肉の強さとか。でも、それだけかは分かりません」
「ほかには」
「魔物としての格も、関係するかもしれません」
リリカさんが、僕の顔を見た。
「最初に強く反応したのは、ツノコッコでした。僕が倒しました。でも、あの時は焼いただけです。今みたいに、衣をつけて油で揚げたわけではありません」
ギルドマスターは、すぐにそこを拾った。
「魔物の鳥で反応は出た。だが、今の極みの手順では試していないってことだな」
「はい」
「たしかに祝福スキルなら、普通の鳥より魔物の鳥に強く乗る可能性はある」
「でも、未検証です」
「ツノコッコを、今の手順でやったらどうなる?」
「分かりません」
「白羽鶏を、お前が全部やったらどうなる?」
「それも、まだ分かりません」
「ツノコッコより格上の鳥型魔物なら?」
「……分かりません。でも、上があるかもしれません」
ギルドマスターは、腕を組んだ。
「わくわくしてきたじゃねぇか……俺も食いてえ」
リリカさんがすぐに言った。
「確認用ですね?」
「そうだ。当たり前だろ。確認用だ!」
「今、食べたいって言いました」
「それも当たり前だ」
ギルドマスターは、まったく悪びれなかった。
僕は少し笑いそうになったけれど、すぐに考え直した。
格上の鳥型魔物。
それは、屋台の仕入れでどうにかなる話ではない。
僕一人で倒せるかも分からない。
生け捕りにできるかも分からない。
リリカさんが、先にそこを言った。
「それを試すには、屋台だけでは無理です。普通の仕入れでは、鳥型魔物は集められません」
「ああ」
「討伐依頼か、生け捕りが必要です。危ない素材なら、客に出す前に確認も必要です」
ギルドマスターが、待っていたように言った。
「だから、ギルドの出番だ」
「ギルドが、ですか」
「ああ。鳥型魔物の依頼を探す。捕獲が得意な冒険者も当てる。危ない相手なら、お前一人で行かせん」
僕は、すぐには返事ができなかった。
ギルドが協力する。
それは、ただ屋台の場所を貸す話ではない。
祝福スキル【フライドチキン】のために、依頼と冒険者が動くということだ。
ギルドマスターは、僕を見たまま言った。
「勘違いするな。お前を縛る話じゃねぇ」
「はい」
「パーティを抜けたばかりのやつを、また誰かの都合で囲うつもりはねぇ」
ギルドマスターは、ふっと笑った。
「良かったじゃねぇか」
「え?」
「明るくなったな、テオ」
「僕が、ですか」
「ああ。受付に顔を出さなくなったって聞いて、少し気にしてた。だが、今日のお前は肉を揚げて、客に囲まれて、ちゃんと笑ってた」
僕は、すぐには返事ができなかった。
「……はい。今は、楽しいです」
「なら続けろ。邪魔するやつがいたら、ギルドを通せ」
リリカさんが、売上袋を抱え直した。
「試験用なら、最初は売りません。数も絞ります」
「それでいい。客に出す前に確認しろ」
「確認するのは、ギルドマスターですか?」
「騒ぎの原因を調べる必要がある」
「食べたいだけでは」
「それも当たり前だと言っただろう」
ギルドマスターは、まったく隠さなかった。
「だが、依頼前に食えるフライドチキンが増えるなら、ギルドにも得がある。腹を空かせた若いやつが、変な携帯食だけで森に入るよりいい」
そこで、ギルドマスターは少しだけ声を強めた。
「何より、食いてえじゃねぇか!」
「……はい。僕も、試したいです」
「私は食べたいです!」
「なら、決まりだ」
ギルドマスターは立ち上がり、書類棚の前へ行った。
「まずは低ランクの鳥型魔物からだ。ツノコッコ。ほかにも、この町の近くに出ている鳥型魔物を順に試すぞ」
ギルドマスターは、依頼票の束を引き抜いた。
「安心しろ、テオ。お前のスキルには、まだ上がある」
太い指が、依頼票の束を僕へ向ける。
「ギルドが協力しよう」




