お、メニュー増えてる
ギルド横の屋台には、開店前から人が並んでいた。
油鍋には、まだ火を入れていない。
それなのに、列の前の冒険者たちは、看板を見ながら財布を出していた。
─── メニュー ───
【定番フライドチキン】
【特製フライドチキン】
【極みフライドチキン】
「お、メニュー増えてる」
列の先頭にいた盾役の冒険者が言った。
昨日、二個目を買えなかった人だ。
今日は開店前から来ている。
「極みってなんだ」
「なんでもいいから、早くしてくれ!」
「まだ揚げねぇのか。待ちきれねぇ!」
リリカさんが、看板の前に立った。
「定番は買いやすい一個です! 特製は今日のおすすめです! 極みは数が少ないので、お一人様一個までです! 全部合わせて、お一人様二個までです!」
列の前の方で、財布を握り直す人が増えた。
極みと特製。
極みと定番。
特製と定番。
定番を二個。
客たちは看板を見ながら、先に組み合わせを決め始めた。
肉屋の主人の分は、リリカさんが先に一つ紙包みにして、売り皿から外していた。
コレットは、油鍋の横で麦羽鶏を部位ごとに分けている。
「定番の分、こっちです! 薄いところを先に分けました!」
「助かります!」
「特製は厚みがあります。こっちは後で揚げた方がいいです」
「分かりました!」
昨日まで、僕は肉皿と油鍋を何度も往復していた。
今日は違う。
リリカさんが注文を聞く。
コレットが肉を切る。
僕は油の前から動かない。
「開店します!」
リリカさんの声で、列が前へ詰まった。
「極みと特製!」
「定番二つ!」
「特製と定番!」
「極みと定番!」
最初から、二個ずつの注文が続いた。
コレットが肉皿を出す。
「極み、こっちです! 特製は次です!」
僕は極み用の肉に衣をつけて、油へ入れた。
じゅわっ。
列の前の冒険者たちが、油鍋を見た。
「今の、極みか!」
「音だけで腹が鳴るぜぇ!」
「昨日のあれだ……脳汁が出るやつだ……ハァ、早く揚げてくれ」
最初の極みが揚がる。
紙皿にのせると、盾役の冒険者が両手で受け取った。
「熱いので気をつけてください!」
「あぁ、わかってるよ! なんていい匂いだ! 並んだ甲斐があるぜ!」
盾役の冒険者は一口かじった。
すぐに、残りの肉を見る。
「……うっめええええ!!」
そのまま二口目を食べた。
列の後ろから声が飛ぶ。
「どうなんだ!」
「先に買え! 極みからだ!」
その一言で、極みの残りが一気に減った。
「極みと特製!」
「極みと定番!」
「極みをくれ! 頼む!」
リリカさんがすぐに手を上げた。
「極みはお一人様一個までです! 全部合わせて二個までです!」
僕は次の肉を油へ入れた。
じゅわっ。
特製の肉は、油の中でゆっくり色が変わる。
定番の肉は、その横で先に揚がる。
「定番、揚がります」
「定番二つ、こちらです!」
リリカさんが紙皿を渡す。
定番を買った冒険者が、その場でかじった。
「定番もうまいぞ!」
特製を食べた冒険者は、口を拭く前にもう一度財布を出した。
「特製、もう一つ! 頼む! 早くくれ!」
「二個目ですね! 今日はここまでです!」
三個目を頼む客もいた。
リリカさんは、全部断った。
「今日はお一人様二個までです! 明日お願いします!」
それでも、列は短くならなかった。
僕は手を止めなかった。
定番の肉。
特製の肉。
極みの肉。
皿が分かれている。
大きさもそろっている。
次に揚げる肉がすぐ分かる。
コレットが入っただけで、油鍋の前が止まらない。
極みはすぐになくなった。
「極み、完売です!」
残った客は、すぐに特製と定番を選び直した。
「じゃあ特製と定番」
「定番二つ」
「特製を二つ」
極みがなくなっても、人は減らなかった。
少し遅れて、特製もなくなった。
「特製、完売です!」
残った客が、すぐ定番に流れた。
定番は数を出すために用意した。
それでも、最後の皿まで早かった。
最後の定番フライドチキンを紙皿にのせる。
リリカさんが受け取り、最後の客へ渡した。
「定番、完売です!」
通りが騒がしくなった。
「もうないのかよ!」
「くそぉ! まだ食べてぇよぉ!」
「倍出す! 俺にも極みをくれ!」
「極みそんなにやべーのか?」
「極みも特製も定番も全部やべーよ! 今までのフライドチキンはなんだったんだ!?」
客たちは、まだ看板の前に残っている。
─── メニュー ───
【定番フライドチキン】
【特製フライドチキン】
【極みフライドチキン】
全部売り切れた。
コレットが、空の肉皿を抱えていた。
「テオさん! 私、どうでしたか!?」
「はい。かなり助かりました。ありがとうございます」
「ほんとですか!?」
コレットが、ぱっと顔を上げる。
「はい。コレットさんがいなかったら、途中で止まっていました」
「今日、屋台が止まらなかったのはコレットさんのおかげです!」
リリカさんも言った。
コレットは空の肉皿をぎゅっと抱え直した。
「……嬉しい」
「明日もお願いしますね」
「はい! 明日はもっと切ります!」
リリカさんが売上袋を持ち上げた。
「昨日より、ずっと売れました! 明日は麦羽鶏をもっと買えます!」
その時、太い声がギルド横に響いた。
「お前ら……ギルドの横で何を騒いでんだ!」




