コレット
「麦羽鶏を、もっとだと?」
肉屋の主人は、店先に吊られた麦羽鶏を見てから、僕たちを見た。
「はい。生け捕りの麦羽鶏を増やしたいです」
「数だけなら、なんとかなる。だが、お前さん一人で処理できる数じゃねぇだろ」
リリカさんが一歩前に出た。
「はい! なので、手伝ってくれる人も探しています! 肉を扱える人に、心当たりはありませんか!?」
「肉を扱えるやつか……」
主人が店の奥を見た。
「私、やります!」
店の奥から、女の子が飛び出してきた。
僕たちより少し下に見える。髪は後ろでまとめ、袖をまくっている。白い前掛けには、麦羽鶏の羽が一枚くっついていた。
「コレット!」
主人が低い声を出した。
「お前は奥で肉を分けてろ」
「聞こえたもん! 人、探してるんでしょ!」
リリカさんが、コレットをじっと見た。
「あ、昨日のお客さんです」
「覚えてるんですか?」
「忘れませんよ! 昨日、売り切れの看板の前で止まってましたから!」
コレットの顔が赤くなった。
「止まってました! だって、匂いだけ残ってたから!」
それから、コレットは僕の方へ詰め寄った。
「フライドチキンのお店ですよね! テオさんですよね!」
「は、はい」
「昨日食べました! あんなにおいしいの、初めてでした!」
距離が近い。
リリカさんが、少しだけじとっとした目で見ている……気がする。
コレットは気づいていない。
「衣が軽いのに、噛んだら麦羽鶏の味が出てきて、でも普通の麦羽鶏じゃなくて……あの、すみません、もう一回食べたいです!」
「手伝いたい話ではなかったんですか」
「手伝います! でも食べたいです!」
「お前はうちの店があるだろ」
「お願い、パパ!」
「パパ言うな。店先だ」
「じゃあ父さん! お願い!」
「言い直しても同じだ」
コレットは引かなかった。
「麦羽鶏なら、毎日触ってます! 部位分けもできます。肉の大きさもそろえられます!」
「食い意地だけで仕事はできねぇぞ」
「食い意地もあります! でも仕事もできます!」
リリカさんが、にこっとした。
「正直でいいですね!」
「まだ決めるな」
主人は僕を見た。
「おまえのフライドチキン、そんなにうまいのか?」
「三日連続完売です!」
「それは聞いた。だが、俺は食ってねぇ」
主人は奥から処理済みの麦羽鶏を一枚出した。
「うちの麦羽鶏なんだろ? なら、作ってみろ」
リリカさんが、もう勝った顔をした。
「食べれば分かります!」
処理済みの肉なら、僕の関与は浅い。
それでも、ただの揚げ鳥にはならない。
僕が塩をして衣をつけると、コレットが横から手元をのぞき込んできた。
「衣、厚くないんですね」
「厚くすると、衣ばっかりになるので」
「あ、分かります。麦羽鶏、そういう時あります」
油に肉を入れる。
じゅわっ、と音が立った。
揚げ上がったフライドチキンを紙皿にのせ、主人の前に出す。
「熱いので気をつけてください」
「肉屋に熱い肉の注意をするな」
主人はそう言って、一口かじった。
主人は二口目をかじる前に、皿の肉を見た。
「……うめぇな」
低い声だった。
すぐに二口目をかじる。
「いや、待て。うちの麦羽鶏で、なんでここまで変わる」
コレットがぱっと笑った。
「でしょ!?」
「お前、これを昨日食ったのか」
「食べた!」
「なんで俺に言わねぇ!」
「言ったら父さんも食べたくなるでしょ! でも売り切れだったんだもん!」
主人は空になった皿を見てから、僕を見た。
「これで、うちの処理済みの肉か」
「はい」
僕は店先の麦羽鶏を見た。
「生け捕りなら、もっとおいしいですよ」
主人の顔が変わった。
「……これで、まだ上があるのか?」
「あります!」
リリカさんがすぐに言った。
「だから、生け捕りの麦羽鶏が必要なんです」
「それと、人手もです!」
コレットが前に出る。
「私、やります。麦羽鶏なら毎日触ってます。雑にはしません」
「勝手に決めるな」
主人の声は、さっきより弱かった。
「お願い、父さん。売り切れの看板の前で立ってるだけは、もう嫌なの」
「うちの店はどうする」
「朝の仕込みはやる。戻ったら店も手伝うから!」
主人は頭をかいた。
「……しかたねぇな」
「いいの!?」
「ただし、うちの仕込みを放り出したらすぐ戻す」
「やる!」
「それと、俺にもフライドチキンを寄越せよ」
リリカさんが、すぐにうなずいた。
「もちろんです! 毎日一つ、取り置きます!」
コレットは僕の方を向いた。
「私、がんばります! 麦羽鶏なら任せてください!」
リリカさんが満足そうにうなずいた。
「採用です!」




