裏切り
「そうね、私のウソで、すべて変わってしまった」
「……」
「あなたにも取返しの憑かないことの一つや二つくらいあるでしょう?いくら、優れた人間で、英雄扱いされていたとはいえ、後ろ暗い事ひとつや二つあるはず、私は彼女の愛を失ってはじめて、事の重大さに気づいたのよ」
仮面の女が、叫ぶ。
「その先に何があったのか、お前なら、“気を読める”だろう?ク、レーン」
クレンが尋ねる。
「あんたそれでもいいのか?」
「私にはもう、これしかない、彼女に許しを得るには」
「まるで傀儡だな、心まで乗っ取られたのか?」
「あの子の苦しみに比べたら、こんなもの、私もかつてはあなたをみて、あなたのような人に憧れたのだけれど」
「って、俺の事をうばいあったってこと?」
「違うわよ!!!」
「……」
苦々しい顔をしてクレンが目を細める。
(突っ込む余裕はあるんだな……それにしても妙だ)
クレンは、女の様子をみる。確かに悪霊に憑かれているから体が動かないのかもしれないが、それにしても一向に後ろを見ようとしない―悪霊と目を合わせるのを避けているようだ。
「なあ悪霊さん」
「私はヨギだ!!!」
「あんた、どうしてそんなに気配を消しているんだ?もしかして、彼女に取りつく条件があるのか?」
「……」
悪霊は、苦虫をかむような顔をした。
「だからなんだという」
「お前たちは、信用しあっているのか?」
「……」
悪霊も女も黙り込んだが、しばらくして
「アッハッハッハ!!」
悪霊が笑いだした。
「だから何だというのだ、お前、先ほどからこいつの心に訴えかけたり、私に喧嘩をうったり、まったく見え透いたことばかり!!」
その瞬間、クレンは悪霊の懐にもぐりこむ。悪霊が叫ぶ。
「うっとおしい!!」
大きく手をふりおろした。すんでのところでよけたが、クレンは頬に傷をおった。サノンはその様子をみて、おびえた表情をみせた。
(やはり、思ったより繊細だ、動揺を誘えれば、けれど少し、気を使いすぎた……あの仮面の女との闘いも考慮して気を温存しておきたいが……)
「よそ見をするなあ!!」
クレンがふと仮面女をみていると、悪霊がおこって襲い掛かってくる。クレンは、無意識にサノンの首にまきついたペンダントに手を触れた。サノンが叫んだ。
「キャア!!」
「……どんだけ繊細なん……!!」
クレンは、ふと感づいた事があった。そしてニヤリ、と笑うと、悪霊に告げた。
「お前一匹はなんとかなりそうだ、悪霊さん、宿主がいないと何もできない、化け物め」




