クノハの迷い
「クレン様の様子を見てきます」
クノハは少しその場を離れた。クレンの様子を見てくるのは建前で、本当は心の中に少しわだかまりがあったのだ。
「私は、本当にいい亡霊なのだろうか?」
―“私は、クレン様に本当の事を隠している”―
そしてこの家族には、私の居場所などあるのだろうか?二人とも、母というものの巨大の喪失から立ち直っていないように見える。少し悩んだあと、このことを少しでも伝えようとクレンの部屋に急いだ。寝ているかもしれないが、午前1時、この時間なら起きていることも多い。
「クレン様」
部屋をあけて、探す。部屋の中央のパソコンの電源はついているが、クレンの影はない。布団をあさっても気配が薄い。ふざけているのかと思い、ニコニコして呼びかける。
「クレン様~??」
そしてトイレかと思って、トイレに向かう。しかしその場所にもいなかった。
「クレン……様?」
その頃クレンは、初めての戦いに戸惑っていた。これだけ好戦的な悪霊との闘いは初めてだし、何より人間を操っているのが質が悪い。それも女性。クレンは、どうにかして女性と悪霊を引きはがす方法を考えた。だが、クノハがいない。クノハがいれば、作戦は簡単だったが。
「セイヤ!!」
クレンが叫んだ。セイヤもカノンも、縛られているが声の届く距離にいる。カノンはぐったりしているが、セイヤのほうはずっとクレンの様子を見て、声援を送っていた。
「どうした!!クレン!!」
「頼みがあるんだ!!俺が気を失ったら、なんとか呼びかけてほしい、戻ってこいとかしっかりしろとか」
「それだけでいいのか!?」
「ああ、頼む!」
クレンは、頭の中で何度も唱えた。
「戻ってこい、しっかりしろ、もどってこい、しっかりしろ」
「何をやっている?」
悪霊の顔が、口が裂けて笑う。口の端は大きすぎるためか、縫い目がついていて、不気味さを際立てている。しかし顔立ちは美しいため、またそれも異様だった。
「セイヤ、すまなかったな」
「??何が!」
「お前の気持ちもわからず、幽霊が見えた事バカにしてさ!!」
「……いまいうことか!」
そういいながらもセイヤはうれしかった。クレンは繊細な人間だ、いわなくても、人の気持ちを悟る。だが、親友だからかわかってても言わなかったのだろう。セイヤが幽霊に対して、両親に対してコンプレックスを持っていることを。
「はあっ!!」
クレンは一度自分に喝をいれた。気をいれた右手を自分の腹部にあてた。
「何をやっている?」
悪霊が尋ねる。




