偶然、兄とクレン
クレンはすぐにチャットを打ち込む。
(さすがに寝ているだろうな、それに迷惑だろうし)
しかしクレンには、そうせざるをえない理由があった。父の言葉に絶望を感じ、孤独だったクレンには。
―数時間前。
「クレン、お前、退魔師に戻らないか?」
「は?」
クレンは、頭が混乱した。まさか、こんな言葉をこんなタイミングで言われるとは。
「父さん、何をいっているのかわかっている?それは事実上の強制じゃないか」
「いや、それは……」
「本当は、ここ最近の事件は父さんの退魔の面が強くなった事による弊害だと思っていて、俺が助けようとしていたけれど、父さん、俺にだまって、俺にだまって、退魔の面を隠しもっていたね!!!処分してくれと頼んでおいたのに!!!」
クレンの肩は震えていた。クレンは一刻も早く忘れてしまいたかったのだ。
「それは、俺のせいだと思っている、あの日、僕のかくまっている亡霊が逃げて」
「何をいっている、クレン、それは……」
「けれど信じていたのに、小さいころから辛い思いをして修行して、遊ぶ時間さえ退魔の修行につかって、それで強くなる、これは徐々に自由な時間を手にしていくための手段だと、だから父さん」
父は一度も、クレンにものごとを強要したことはない、だが退魔の仕事だけは、何度も何度も頼み込み、クレンに修行して、将来その仕事を受け継ぐようにと誘導してきた。しかしそれさえも強要ではなかったのだ。
「自分が退魔の面を隠し持っていたことを棚にあげて、退魔師にもどれだなんて!!」
「……すまない、何から説明すればいいか」
「俺は、人から命令されるのが嫌いだって知ってるだろう、兄さんはいつも、俺に仕事をさせていた、それで……かろうじて退魔師補佐をしてたが、霊力なんてなかった!!どれだけ体に負担がかかったか」
「くっ……」
「俺が母さんを殺したって責めてるんだろう!!自分でもわかっているよ」
「……どうあっても、静かに話し合いをする事はできないのか」
「もうかばう事なんてしない!!退魔の力なんて使わない!!助けてやらないからな!!」
生善は、お茶をすすっていた湯のみを勢いよくテーブルにたたきつけた。
《ゴンッ》
「……いいにくい事だから、お前が信じてくれるかわからない、だから言いづらいことなんだ、だが、今は“退魔の力”を継ぐ、とだけいってくれないか……」
クレンは、あまり怒らない父がおこったことに、少し驚き、怒りが少しどこかへ消えていくのを感じた。
「ほとんどのことを強制しなかった、だからいいじゃないか、俺にあの言葉を信じさせてくれ」
よくみると生善の片手には、母の写真がにぎられていた。
「ごめん……」
逃げるようにクレンはその場をあとにした。




