生善の苦悩、トウマとクレン
カノンを追いかけるクレン。
「ちょっと、カノン」
「ジャマしちゃったね!」
「?何が?それより聞きたいことがあるんだよ」
「?」
カノンが立ち止まり、振り返る。他に誰もいない廊下、夕日の元で、静寂が走る。
「委員長ってさ、お姉さんいたよね?俺の勘違いじゃなければ」
少し間をおいて、カノンが答える。
「いたよ、でもいつしかお姉さんだけ転校して、たしか離婚が原因だったんじゃないかしら」
今はなき人、いとおしい人の声、口元、香り、そして雰囲気が、街中を歩いていく生善の隣で感じられた。そこは人通りの多い交差点、勘違いかと思いつつ、振り返る。その人は振り返りニコリと笑う。やはりそっくりだ。そしてその人は、聞き覚えのあるフレーズを繰り返す。
「お願いあの子を……して、お願い、最後のお願いよ」
「ハッ」
生善は、ふと机に突っ伏し、前かがみになっていた上半身をおこし目を覚ます。
「リンネ……やはり君のいうことを信じるべきか」
生善は、蔵にある退魔の面のことを思い出す。
「君の言葉を守るならば、あの面は処分しなくてよかったのだが、クレンの気持ちを考えるのならば、処分した方がよかったのかもしれない、それに確かにあれの力は日に日に強くなっていて邪なるものを集めているようにみえる、リンネ、本当にこれでよかったのだろうか、それとも君は……僕を恨んでいるだろうか」
「ただいまー」
クレンが帰宅する、生善はすぐに部屋にいき、着替える用意をした。今の今まで法衣と袈裟をつけたままだったからだ。クレンはその日遅くなったのですぐに風呂をわかし、食事の用意をするためキッチンでエプロンをつけた。
食事の用意を終え何となくテレビをつけていると、生善が風呂からでた。そしていつになく真剣で、浮かない顏をしていた。
「話があるんだ……」
そう、タオルで髪の毛をふきながら、リビングの扉前に立っていた。
話をきいたクレンは不機嫌だった。今までになく、まるで両親が豹変したかのように、一人でソーシャルゲームをやって、スマホのチャットツールの連絡すらみていなかった。夜も更け、深夜2時をすぎるころ、ようやく心がむかむかするのも落ち着いて、スマホをとりだし、チャットツールを見る、セイヤから12件、カノンから2件、そして……トウマという人から1件の通知がきていた。
「トウマ……」
クレンは、心に突然焦りや、罪悪感が駆け巡るのを感じる。そう、トウマという人こそが、クレンをかつていじめからかばい、転校していった親友だったのだ。




