焦燥と対処
「はっ!!」
ふと意識は現実に戻る。別に隠す必要もないのだが、父には退魔師をやめると話している以上都合が悪い。それにできれば内密にトラブルを処理したかった。これは退魔師だったころの名残とでもいうのか、善行であれ、自分の姿や名前をさらして人のために何かをやるのは苦手だった。できれば隠れて仕事をしたい。
(バタバタバタッ)
そそくさとその部屋の押し入れに逃げ込もうとする、あわてていたので、ポケットに入れていたスマホがおちて、勢いよく拾い上げて押し入れへ。
(クスス)
まさか、とふりかえる。クレンにはその時このダレスという男が笑った気がしたのだ。しかし、たしかに彼の気は和やかになっているが、表情は無表情だった。
(そろそろ彼の目覚めも近いか)
静か押し入れの戸を閉め終える。と同時に障子をあけて部屋にはいってくる生善の足音が聞こえた。
「おーいクレン、部屋にいないのか……どこいったんだ……」
(げっ)
タイミングが悪くどうやら自分を探しているらしい。
「クレーン、クレン……」
普段は何をしていようが信用があるせいか、奔放にさせてくれているのに、今日に限ってなぜ自分を探すのか。クレンは何かピンとくるものがあった。
(父さん……何かたくらんでいる?)
その時は、普段やめている酒を隠れて飲んでいるとか、もらいものの高級な食べものを一人でたべようとしているとか、クレン専用の棚に隠しているお菓子を食べようとしているだとか、そんな疑いを立てたのだ。
(うーん……いないなあ……)
じろじろと周囲を見渡す。生善は人の気を感じとる能力があまり優れていないはずだ。残留思念をとる能力も弱い。
「ふう……」
安心しきったその時だった。クレンは先ほど能力をつかったせいか小腹がすいていたのだ。お腹をおさえ、とどめようのないその感覚がキューと胃に迫り、締め付けるのを感じた。
「ま……まずい、これは……」
“キュルルルル~”
勢いよくその音はなった。空腹を訴える腹の虫が鳴く。
“これはいよいよばれた!!”
その時だった。目をつむったクレンの中に、雲に包まれたような白い世界―瞑想次元―の景色がうかび、いじわるそうに、しかし情けない人間を同情して笑うように、ダレスが微笑んでいるのが見えた。
外では生善が当たりを見渡す。そして押し入れに、一歩、二歩と近づいていく
「……この辺から音がしたような?」
取ってにてをかけた、その時だった。
「う……うう……腹が、腹がすいた……」
生善の背後から男の声がした。




