トラブル
「おい、まて……」
クレンは男をおいかける。男はクレンに気づいて入り組んだ道を走りはじめた。女の方はいつの間にか姿を消した。クレンが彼を追いかけるのには訳があった。彼の記憶を探るには、彼に触れる必要がある。だが“残留思念”ですら極端に気の相性が悪い場合それも難しい。
(ひとまず、あの男を追跡してみるか、何か他にヒントはないものか……)
クレンが、あたりを見渡すと、かすかに例の女の気配があり、それを追跡してみる事にした。だがクレンはその奇妙な女の輪郭、顔に現実で覚えがあり、あまり追及したくはないのだった。入り組んだ道を通りすぎ大通りを何度か横切ると、現実ではあまり立ち寄らない郊外近くの教会で、彼女の気配は終わった。そして教会に立ち入ると、小さな少女―件の少女によく似た少女―が、ピアノを弾いているのがわかった。ほかに人はおらず、少女だけ、クレンが立ち入り、目を閉じ立ち止まり、そのピアノの戦慄に耳を傾け、聞き入っていると、ふと戦慄はとまった。
(ん?)
片目をひらいて、様子をさぐる、女の子はまるで恐ろしいものをみるように口手を当てて、ピアノの椅子に座りふりかえりこちらをみていた。
「どうして……この夢に、人が……純粋な魂が……」
「??」
クレンは、ゆっくりと近づこうとする。
「こないで……」
「どうして?」
「私は、悪い人間なの、私は、人をおかしくしてしまう……だから、あなたのような綺麗な魂が近づいてはいけない、私は闇の中に隠れ、悪い人間と悪いものに囲まれて、罪を償い続けなければ……」
クレンがそれでも近づこうとすると、ぴょいと椅子からとびおりて、少女は教会の奥へとはしっていってしまった。クレンがピアノの付近に近づき少女の気をたどる。(そんなに、悪い感じはしないけどな……)
ピアノを眺めていると、教会の裏口のドアが開き閉まる音が聞こえた。
「しまった」
その時、天から、頭に響くような声がきこえた。きっと自分にしか聞こえてないだろうと思える空気に反響していないイメージとしての声が。
「おい、クレン……」
「ん?お前は?」
「俺だ、ダレスだよ」
「ちょ、いまいいところなんだ、もう少し彼女の情報を……」
そういいながらクレンが少女のいた椅子をみると、花柄の小さな髪飾りがそこに落ちているのがわかった。
「おまえの父親がこっちにきているぞ」
「こっちってどこ」
「この部屋、現実の話さ」
「……!!」
クレンは急いで瞑想をとこうと、意識の中の自分の座禅をとき、集中をといた。




