クレンのとまどい
そのとき、気が動転して珍しく平常心を失い、クレンはもう一度繰り返し激高する。
「お前がやったのか!!!」
ソネコが、わなわなとふるえている。
「わわわ、私は、ついに私の能力は……こんなふうに……はっ!!」
ソネコは何かに気づいたように、寺のほうをみる。ふと、生善が自分の前にたち、自分をうしろにつきとばした。次の瞬間、木陰になった場所で大きく光りが放たれた、クレンは生善が力をつかったのだと思い、すぐに父のもとへかけよる。
「父さん……大丈夫か」
「クレン……母さんのところにいくよ……いやな予感がする、あの亡霊もそこに……大丈夫、クレン、深い傷じゃない、あとで何があったかちゃんと説明する」
そういって、父が傷口をみせるとたしかに表面を少しきりつけられているだけでそれほど深くに達していなかった。心配してあちこちみたし、“気”によって全身をチェックしたが、たしかにかすり傷だけだった、クレンが、修行場をみて呆然としていると、父は、“お前もあとからきてくれ”といいのこし、すぐさま寺へ向かった。
クレンが立ち尽くし修行場をみつめていると、しばらくすると狸とカッパもこちらを心配してのぞいていたが、クレンは自分をせめ、彼らから顔をそらしたのだった。
クレンが寺につくと、瘴気が寺の裏、家の母屋からでていた。母の寝室はそこにある。天に届くほど黒い瘴気で、まるで黒い火をあげる火事のようだった。家にいかなければいけないのに、いくのが憚れるような……クレンは不吉な気配がしたのをよく覚えている。
「……!!」
父が、何かを叫んでいるのがきこえた。
「リンネ!!リンネ!!!しっかりしろ!!」
母の名前だった。クレンは、まさかとおもった。まさか自分のかくまっていた霊が悪霊化して、母をおそったのか……、急いで母の寝室に向かう。父は、血を吐いて倒れている母を、必死に看病していた。だが母の息はほそく、だれがみてもひん死の状態だった。
「か、母さん……まさか、僕のせいで……」
次の瞬間、生善がクレンをみて叫んだ。
「どうだっていい!!早く、早く救急車を!!クレン!!こんな、こんなはずじゃなかった、お前を大事にそだてたのは、母さんと一緒にお前を……こんな……」
父は、いつも繊細でクレンの失敗を責めることもなかった。その父がこんなに動揺して、クレンは、こぶしをにぎると急いで走り、救急車をよんだ。
その後のことは、ほとんど記憶にない。父は、もともとおり悪く悪化していた母の病が、悪霊がきてより悪くなったのだと説明したが、細かいことは教えてくれなかった。いまでもクレンの心の中にはこの事件がわだかまりとしてのこっている。




