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「今朝からずーっとよびかけてたんですよ、クレンさま、一体何があったんです?」

 クレンはクノハに正直に話した。退魔師をやめるきっかけとなった“母の死”にかかわることを。

 それはクレンが中学にあがったばかりのことだった。もともと病弱だった母は、その時も長引く風邪にかかっていた。

「クレン、修行はちゃんとやってる?」

「やってるって」

 おかゆを床に臥せている母の寝床にもっていく。それを飲みながら咳き込む母。

「大丈夫?かあさん」

「あ、ああ、大丈夫、すまないねえ、家のことも二人にまかせて」

「気にしないで、母さんに大変なときがあるのは理解しているから」

 母には、本来の陰陽師の家系からくる体質だときいていた。父も母も退魔師の家系だったが、母の家系の方が退魔師の根源をなしていたとされる陰陽師の家系の色が強い、そのせいで、神通力が強い男女が生まれるかわりに、女の方は病弱という特色があるのだという。いつものことだ。ただその時は奇妙な感覚があったのを覚えている。母親の気が、弱まっているような。まるで母親もそれを悟っているような、今思えばそれに“アレ”は付け込んだのかもしれない。もしくは自分の弱さに。

 クレンは母が心配だったが、父とともに修行に励んだ。父がいないときは自分で修業をしたし、その頃にはクレンの天才的能力は、この界隈では有名になっていた。そんな中でクレンは一人で仕事を任されることも増えてきたのだった。

「静穏流の仕事は、幽霊や憑き物、魔物に妖怪の悪しき姿を見抜き、悪しきをみては罰すること」

 そう教えられたクレンは、基本的にはその通りにしていた。そしてその判断を父も母も、信じていた。彼の中の正義感を。

 しかし、クレンには別の側面もあった。優柔不断な面も。彼には専用の修行場があった、それは、寺の裏にある山のふもとの一角だった。立ち入り禁止の札と囲いがしてあるが、実はクレンの修行場でクレン意外は入れなかった。そこに、クレンはことあるごとに出入りした。特に落ち込んだ時や、疲れた時などに。

「よお、河童のカーちゃん、化け狸のトンスケ……それと新入りの……」

 クレンが見つめる先に、一人の女性型の幽霊がいた。

「新人の……ソネコさん」

 クレンには悪い癖があった。それは、それほど悪いことをしていない妖怪や幽霊、魔物を自分の手で裁ききることができず、ある時は逃がし、ある時は、かこってしまうのだ。おまけにこの場所は、閉鎖的でクレン意外が立ち入ることはなかった。そのため、クレンは優柔不断な“正義”をそこではぐくんでいた。

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