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手のひら

 翌日。クノハは朝公園を通りかかったころから呼びかける。クレンは、家にいついてもいいというのだが、ここには縁があるので、といって公園にいついている。

「クレンさまー!!おはようございます」

 だがその日クレンは、うつむいた様子で、何かを悩んでいる様子でまるで他意もなくクノハの挨拶に気づかずに通りすぎてしまった。 


 クノハはクレンを勇気づけようと、トイレにまで顔をだしてよびかける。

「クレンさーん……」

 次は授業中に静まった瞬間によびかけてみる。

「……クレンさま?」

 だがクレンは全く応じなかった。幽霊など眼中にないとでもいうように。


 クレンは、近頃身に迫る危機、というより寺や父を巻き込んでいる出来事をいかに防ぎ、早く解決するかをなやんでいたのだ。そして自分が、力を使い続けるのか、あるいは退魔師に戻るかどうか。 


 そんな様子を気にかけていたのはクノハだけではなかった。カノンも彼に挨拶したり話をしにくることがあったのだが、まったく返事に覇気もなく、ああ、とかうん、とか答えるだけで、そのたび心配して、カノンはうつむき気味に、何かを疑うような顔でクレンを見つめるのだった。


 そんな心ここにあらず、なクレンを始めに理解し、彼に呼びかけを応答させたのは親友のセイヤだった。昼食時。

「なあ、おい……大丈夫かよ?」

「あ、ああ」

「何を悩んでいるんだ?」

 クレンは正直に話した。退魔師の力を、ためらいなく使っている近頃とそれに対する戸惑い。

「お前、あの事を気にしているのか?お前が以前話してくれた、お前をまもってくれた友人のことを……」

「いや、あの事は……」

 あの事、というのは、自分の代わりにいじめられた友人の事だったが、あの話には続きがあった。友人が遠くにいってから、交友関係は薄くなったが、友人がこしてすぐあと、クレンがずっと、友人を、自分の代わりにひどい目に合わせてしまったことを、後悔しつづけ、重く考え続けていたためか、あるとき友人が手紙をくれたのだ。その手紙が、クレンを勇気づけ、辛い修行を何度支えたか、そして“母の死”が起こるまでどれだけ、退魔師であることを誓い続ける理由になったのか、セイヤには話していたのだ。

「ああ、確かに、気になっているかもしれない、“彼は英雄”とは何かおしえてくれた」


 気を取り直したクレンは、放課後、クノハの呼びかけに答えた。

「クノハ、すまなかった、ちょっとぼーっとして」

「いえ、大丈夫です」


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