幽霊
「あの机……クレンの?だけどクレンは今日、先に帰ったはずだけど……」
「ネエ……私、私ね、痛かった、つらかったノ……」
亡霊は、ゆらゆらと、まるですがりつくかのようにセイヤに忍び寄る。セイヤの背中にひんやりとしたものが通りすぎる。
“亡霊、でもなぜ、いま?それに……なんのために……”
「ひ、ひえっ……」
セイヤは、一目散に窓際に走る。まるでこれまで望んでいたことを拒絶するかのように、だが窓辺まできたとき、その反応に自分自身がなさけなくなり、立ち止まった。そして、ふりかえる。
「……た、助けがいるのか?……俺は何もできないが……俺の友人なら……」
「……退魔師クレン、私と因縁をもつもの、何らかの縁……」
「そ、そうだよ、知っているのか、だったら話は早い、あいつが、あいつが何とかしてくれるから、すぐ連絡するよ」
そういってスマホをとりだす。内心はとりみだしていて、あわてて自分の机に移動し、バックからスマホをとりだしたがいいが、その手がふるえていて、スマホが自分の手の内で二、三度跳ねて落としそうになって余計慌てた。
「い、今……大丈夫だから」
(どうしてだ、こんなシチュエーション、何度も考えたのに、この世にあらざるもの、幽霊や亡霊、彼らを救うために、聖書だって思いをこめて読む練習をしたのに、いざ目の前にすると恐怖しかでてこない、こんな時あいつなら……)
セイヤは頭をフル回転させて、動揺をかきけそうとして気づかなかったが、その時教室のドアの後ろ側からはいってくる人影があり、そしてコツコツと上履きの音をたてていた。やがて人影はセイヤの前にたつ。
「どうしたの?」
声がして顔を上げたセイヤは、わけもなくその人影にびっくりした。
「う、うわああああ!!!」
そこには、にこにこと、しかし次には少し気遣いをこめた焦りの表情をうかべた、委員長シノメの姿があった。
「い、いや、そそそそ、そこに……ゆゆゆ!!!」
「ゆ?」
首をひねる委員長。うつくしい顔だちに、思わずめをそらす。こんな時なのに、別の考えが頭をよぎる。
(クレンのやつ、よくもまあこんな美人と話を、いや、よくまともに向き合って話ができるものだ)
そんなことを考えると、なぜか笑いがこみあげてきて、ふきだしてしまった。
「プッ……」
「?」
「い、いやいや、なんでも、ただ見間違いです、幽霊を見た気がして……」
そういって、幽霊のいた場所、教室の後ろの入り口をみると、人影はもういなかった。
「ああ、やっぱり間違いだ……」
そういいかけたとき、委員長はセイヤの額に一刺し指をあてていった。
「今見たものは、内緒ね」




