面と面
「お願いって、何を?」
「私の言う言葉を復唱してください」
「退魔の面を解放し、九十九霊に譲る」
クレンは戸惑いながらも、復唱する。考えれば、クノハは一度だってクレンを裏切らなかったしクレンの力になってくれた。もはや、怖れや疑いなどどこにもなかった。
「……退魔の面を解放し、九十九霊に譲る」
その瞬間、クノハは、以前のように輝く羽衣をまとった。しかし今度は、さらに奇妙なことに、見覚えのある面を、頭、おでこのあたりにつけていた。クレンはつぶやく。クレンの父が隠し持っていた面。いま父の胸元に隠れているであろう面。長い年月を一緒に仕事をした面。黒く、天狗のような装飾をほどこされ、鋭い目つきをして、梵字のような文様が書かれている。
クレンが言葉を復唱したその瞬間、クノハは目をキリッとさせ、正面にいるシノメをにらんだ。
「クノハ……お前……」
「クレン様、今までだまっていてすみません、私は、今まで黙っていましたが、確信に近いものはあったのです、私は“何”の九十九霊なのか、私は……あなた方の大事にしている“退魔の面”の九十九霊なのです!!」
「!!」
クレンが驚いた次の瞬間、クノハはすさまじい速度で飛び去り、シノメのすぐそばまできた。
「キィイイウワアアアア!!!イヤアアアア!!!」
(退魔の面にとりこまれている、このままじゃ……妖魔になる!!)
クノハは左手で面に手を伸ばし、そして何か聞き取れない速度で詠唱をした。
「~~~~!!」
その瞬間、クレンは生善のあたり、それも胸元あたりが光輝くのを見た。クノハは叫び、気合をいれる。
「はあああ!!」
負けじと、まるで何かにあてられたように白目をむき、叫び続けるシノメ。
「クワアアアアア!!」
「クノハ……何を!」
「大丈夫、安心して」
振り返るりながらクノハは笑う。その笑みの真後ろで何かが白くはじけた。
「クハッ!!」
《ボコンッ!!》
その音は、先ほどまでシノメがまとっていた鎧のようなものと、サーベルが、一瞬にしてはじけ飛んだ音だったのだ。それもまるで液体のように溶けて、どろどろになって散らばった。
「クノハ……」
うしろをふりかえり、にっこりとほほ笑むクノハ、しかしクレンは瞬時に怖れと背筋に走る寒気と危険を感じて、叫んだ。
「危ない!!避けろ!」
クノハの背後ではクノハの真後ろで、先ほどより小型化した鎧をまといなおして、シノメが剣をふりあげて、たった今振り下ろす瞬間だった。




