幻想
「委員長……いやシノメさん、あんたは、夢をみている、長い夢を、自覚しているんだろう?“その仮面”をつけているのだから、聞いたことがある、白い退魔面をつけた人間は、面のいいなりになり、まるで悪霊のように一つの目的を達成するために動く、その執着心は、現実をごまかし、妄想をつくるほどだと」
シノメは自分の仮面にふれた。まるで触れられたくない傷を覆いかくすように。
クレンの傷には生善も驚いていた。しかし、カノンが先に小声で口にする。
「クレン、レンちゃん、もしかして退魔の力をずっとひっそりつかって……」
生善は責任感からかごくりと生唾をのんだ。
「だ、だから何なのよ」
「お姉さんがいっていたんだよ……君には弱点があると」
「あの女あああ!!!」
シノメはふたたびどこからか帯状のものをひきだし、サーベル状のものをにぎって、クレンにむかって切っ先をあわせた。
「なぜ、そんなに過去の事を恨む?なぜ、まるですべての原因が姉にあると思い込むんだ?」
「思い込んでなんていない!!」
「じゃあなぜ、あんなに“普通”の日常が送れていたんだ、僕ら、クレン、セイヤ、カノンとともに」
「それは!!!……」
「ひとつ、お姉さんのために、事実を話しておかないといけないね、お姉さんは、別にすべてを話していない、僕に“ヒント”を与えただけだ、なら公平じゃないか、だって君は“カルマテイカーの試練”を受けているのだろう?僕も今、試練をうけているんだ、“過去の清算”という」
「フッ……」
不敵に笑うシノメ。そして彼女は、邪悪な一言を口にした。
「クレン、ヒーロー気取りの人殺し、私も“ヒント”をもらったのよ、あなたのお兄さんから、あなたは“お母さん”を殺したのでしょう?自分の母親を!!!」
クレンは、一瞬ピタリ、と呼吸をとめた。シノメは、してやったりと笑う。
(動揺している、図星なのね、きっとこのあと激高して私を襲いにくる、クレン、元退魔師とはいえ、孤独な闘いを続けてきたのだもの、心の整理なんてつかなくて当然……)
《スッ!!》
「なっ!!!」
シノメは、一瞬何がおきたのかわからなかった。先ほどまで数十メートルほどはなれていたクレンが、自分の直ぐ傍にあらわれたからだった。しかも、恐ろしいほど近く、真横に、それも“恐ろしいほど冷静な表情”をして。
「くああ!!!」
シノメは勢いよくクレンを切り裂いた。だが、切り裂いたというには感覚がともなわなかった。重さも、切れる感覚も、何もなかった。




