056.鋼鉄の皮膚《異世界》
すみません。投稿ミスしましたmm 加筆して再投稿しています。
《とある異世界にて》
(キュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン)
突き出した右腕の中程からせり出した細い三本の筒が音を立てて回転している。
右目には着弾地点を示す四角いポインタが浮かんでいる。
私のいる高台から前方50メートルほど先の湿地帯には、前世の3階建てビルに相当するほどの体高を持つトロールと呼ばれる化け物が4体、彼奴らをおびき寄せるために置いておいた牛の亡骸に群がっている。
普段は群れないトロールだが、子育ての時期は番と子供で一緒に過ごす。
子供といえど親との違いは、親の緑色に対して体色が少々白っぽいぐらいで、人間にとっては十分な化け物だ。
一瞬の逡巡もなく、ポインタを左端のトロールに合わせ、私は小声で呟く。
「(ショット)」
呟き終わると同時に無数の金属の礫が標的に打ち込まれていく。
トロールの特徴は身体欠損すら瞬時に修復する回復力だ。完全に沈黙するまで入念に打ち込む。
標的が完全に沈黙したことを確認しつつ、ポインタを右へと移していく。
音と硝煙の匂いに反応して、残りのトロール3体が水しぶきを上げながらこちらへと突進してくるのが見える。
スピードは大したことないが、あの巨体だ。一歩の歩幅が広い。
ここまでたどり着くのもそう時間はかからないだろう。
ポインタを少し下げ、3体の足を狙って掃射する。
何かにつまずくかのように一斉に転倒するトロールが倒れ込んだ先には地雷が仕掛けてある。
でっぷりと太った腹がぬかるんだ地面へとに到達した瞬間、爆発音と共に泥と水が吹き上がり、その体は引きちぎられながら一瞬宙に浮いた。そしてそのまた一瞬後には落下し、再び爆発を起こす。
爆発が落ち着いた頃にスコープで確認すると、地雷が反応しないほど引きちぎられた肉が不気味に蠕動しているのが見える。
放っておけばそのまま息絶えるのだろうが、念を入れておこう。
残ったわずかな地雷の回収は手間だし、一石二鳥だ。
「(炸裂弾モード)」
再び呟くと、弾丸のモードが変わり、スコープの四角が大きくなる。
地雷原の左端にスコープを合わせ、そこから右方向へ掃射。
炸裂弾の小規模な爆発と地雷の爆発により、肉片はさらに細切れになった。
「(最初から炸裂弾モードにしておけば良かったな・・・・・・)」
そんな反省をしながら、牛のそばで倒れているトロールの肉片にも炸裂弾を打ち込んでおく。
■■■
転生後、目覚めたのはゴブリンの巣の中だった。
元々は別の場所で倒れていたのかもしれないが、私が目覚めるよりも早くゴブリンが私を見つけたようだ。そして寝ている間に、その巣穴へと連れ込まれたらしい。
どうやら私は全裸で手足は縛られているようだ。目の前では(私を手篭めにする順番でも争っているのか)複数のゴブリンが殴り合っている。
転生というのは、少なくとも目覚めるまでは安全なのがテンプレだと思うのだけど、あの神様ちょっとひどいんじゃないかと思いつつも特に危機感は覚えなかった。
この世界でも私の見栄えは前世と同じ人間の女性のようだ。ただ肌が異様に綺麗で、目に見えるお腹や下半身には傷どころか染み一つない。
視界には湿度や気温、気体成分、体の状態、ゴブリンの脅威度や次の行動予測などの情報が小さく表示されていて、私が注視すると表示が拡大された。
この眼がゴブリンは私の脅威足り得ないと教えてくれるので、人間だったころなら泣き出しそうな状況にも平然としていられる。ゴブリンの巣穴はほとんど明かりもないのに、昼間のように見えるのもこの眼の機能によるものなんだろう。
手足に少し力を込めると、私を縛っていた粗末な縄は簡単にちぎれた。
その音に気づいたゴブリンたちがこちらを見てギャーギャー言っているが、私の眼は脅威度は低いと教えてくれる。
とりあえず武装でも確認するかと視界を確認すると、両腕に内蔵されたガトリングガンが使用可能のようだ。残弾が気になるが、発射機構は圧縮空気で弾丸は炭素繊維で構成されており、私の体内で内製が可能とのこと。私自身の皮膚は弾丸よりも固く柔軟な組成で跳弾も問題ないとの情報を確認したのち、気兼ねなくぶっ放した。
それなりに大きな規模の群れだったようで次から次に湧いてきたが、特記することもなくゴブリンの屍の山を築くことになった。
そんな大きな群れだからか、後に私が所属することになるこの世界の冒険者組合にも情報は上がっていて、それなりにランクの高い冒険者を巣穴に派遣していた。
ガトリングガンの発砲音は「プシュプシュ」程度の非常に小さな音だったが、ゴブリンの断末魔はすさまじく、迅速に冒険者達を私のところまで導いた。
そこからは異世界テンプレだ。事情を聞かれて記憶喪失と答えた後、冒険者組合に連れて行かれて事情聴取。正直によくわからないを連発して、組合の監視下におくため冒険者登録。最初の依頼で大物を仕留め、すぐにスタンピードに巻き込まれて対処、あれよあれよと活躍して今では立派な英雄級冒険者だ。トロールの大量発生なんていう、国難案件も一人で対処できる。
正直、もっとロボット然とした姿での転生を想像していたのだけど、最後まであの神様が頭を悩ませてくれた結果なんだろう。皮膚は弾丸どころか、魔法でもびくともしなかった。
また元素鉱物を除き、ほとんど全ての物質を体内で分解・自身の体に再構築できる私を害することのできるタンパク質など存在せず、食物アレルギーに悩まされることはなかった。
何も気にせずに食物を口にできるなんてなんと素晴らしいことか。牛乳のラッパ飲みなんて前世を含め初めての経験だった。いっぱい飲んで大きくなろう。
つい痒みばかりに気をとられて食を含めた生きる喜びを失念していた。遠い異世界から神様へ感謝の気持ちを届けたいと思う。
■■■
《とある神界にて》
『では、今回の異世界転生の振り返りを始めましょう。ダークさんは書記をお願いいたします。』
ケセランのそんな宣言と共に打ち合わせが開始されることになった・・・・・・
《ちょっといいかケセラン?》
『はい。何でしょうか?』
《今回の転生、なんで人外転生を勧めたんだ?》
『なんで?と言われましても。ご質問の意図がわかりませんが、それが人材の希望要件に合致していたからです。』
《(やはりか・・・・・・)では質問を変えよう。今回の人材の希望要件は何だ?》
『(それこそ愚問だと感じますが・・・)痒みに悩まされない体です。』
《それでは不十分だ。》
『どういうことでしょうか・・・・・・?』
《彼女が手に入れたかったのは、痒みに悩まされない生だ。》
『??? 違いがわかりませんが・・・・・・』
《痒み、いやアレルギーがあったから楽しめなかった経験、人生が要件に含まれるということだ。発作を気にせずに摂れる食事、汗をかいて痒みが起こることを気にせずに体を動かせること、息苦しくない睡眠。そういった人としての楽しみが要件に含まれるのだ・・・・・・そして、それはゴレームの体では実現できない。》
『・・・・・・ですが、選択したのは彼女です。彼女自身も人外転生に乗り気であったと感じました。』
《気づいていなかったのだよ。よく考えてみろ。自分が死んだという受け入れがたい事実を受け止めないといけない、その上すぐに異世界転生の提案だ。表向き冷静でも頭が回る訳がない。もちろん順応し過ぎなくらいこの状況に順応して、チート特典吸い上げるお前みたいなやつもいるが、彼女は違うだろう。
私もまだまだ理解不足だが、ウラノースとの一件で追い詰められ世界をめぐり気づいたのだ。自分が本当に何を望んでいるのか、存外自分自身が一番理解できていないものなのだ。
人材が何を望んでいるか、それを気づかせて上げるのも我々の役目なのだと思うぞ。》
『そういうものでしょうか・・・・・・』
《もちろん、前向きに異世界転生を望む人材はえてして、望みがはっきりしている場合も多いとは思うがね。転生先を提案するなとはいわんが、提案前に少し考えてみて欲しいんだ。》
『(・・・・・・)』
─ 続く ─




