055.鋼鉄の皮膚
二話完結の一話目です。
「もう痒みになんて悩まされたくないんです!!!!!!」
《『『(デスヨネ・・・)』』》
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ここは地球人の転生を担当する異世界転生事務局。私はその転生事務局長で、神である。
異世界転生事務局は、クライアントのニーズに合う人材を、異世界へ派遣する財団法神である。 限られた予算をうまく切り盛りしつつ、気持ち良く転生してもらうのが我々の仕事だ。
ある事情から猫の姿をしている。今日は、バリニーズ。サイアミーズ(シャム)が突然変異し生まれた猫種で、インドネシアのバリ島の優雅なダンサーを思わせる姿からバリニーズと呼ばれている。アレルゲン物質の生成が少なく、猫アレルギーの方でも飼える可能性のある猫種である。
隣には一転、フワフワした佇まいで見るものを笑顔に変える犬の姿をとった神がいる。助手のケセランパセラン。犬種はビションフリーゼだ。こちらも毛が抜けづらく、犬アレルギーの方にも優しい特徴を持っている。
今回の人材は、29歳女性。幼少期からアレルギー体質で非特異的IgE値は成人した今でも1万越え、花粉、ハウスダスト、カビ、牛乳、卵、そばのアレルギーを持っている。喘息とアトピー性皮膚炎もひどく、吸入薬の吸引にかゆみ止めの内服、塗り薬が欠かせなかったそうだ。
死因は花粉症による激しいくしゃみの後、道路に転倒。運の悪いことにそこにスピード違反の車が突っ込み事故死。。。ケセランから経緯や異世界転生について説明したところ、本人は、喘息で呼吸困難とかじゃなくて良かったなんて笑っていた。
(その横では、ダークが豆乳ラテを差し出しながら「豆乳は大丈夫ですか?」と確認している。本当に気が利く店員さんだ。)
余程、その体質に苦しめられてきたのだろう。冒頭の叫びにも頷ける。
《ご要望はわかりました。確かに転生にはアレルギー発生の可能性は残ります。もちろん輪廻転生した場合も同様です。一番現実的な提案は特典スキルによる対応です。例えば各種耐性スキルや回復スキルです。》
そう伝えると彼女は黙って少し考え込んでいる様子だった。私もどのようなスキルが良いか、その組み合わせを頭の中でシュミレーションしてみる。できればアレルギーじゃない場合にも活用できるものが良いだろう。
透過するものを任意に選択できる防護膜のようなものはどうだろうか。花粉やハウスダストだけでなく、菌やウィルス、毒ガスなども排除できそうだ。
だがこれだけだと食物アレルギーへの対応は難しい。となると合わせて自動治癒スキルはどうだろう。アレルギー反応は免疫が過剰反応して、結果として腫れや炎症を引き起こす。ならば炎症を即座に収める治癒スキルがあれば対応可能だ。
防護膜も治癒スキルも汎用的だし、そこまで強力なスキルではないからコストも抑えられる。よし、これで提案しようと考えていると、先にケセランが口を開いた。
『死霊系生物や無機生物の人外転生はいかがでしょうか?例えばヴァンパイアやグールなら肉はありますが細胞の活動は停止していますのでそもそも免疫働いてませんし、スケルトンなら肉も皮膚もないです。無機生物だとゴーレムやパペットなどですが、生物学的な疾患は皆無です。』
《(おいおいおいおい。何言ってるんだこいつは。人外転生がファーストチョイスになるわけないだろうが。しかも既に死んでるか、そもそも生きてない物質の二択だと。いかん、早くフォローしなければ・・・)す、すみません。部下が失礼を 「なるほど!それは確かにいいですね!」 えっ・・・??》
「確かに、そもそも生物に転生しなければアレルギーの心配ないですね。でもどうしようか・・・腐肉は嫌だな。ヴァンパイアも人の血液飲むのには忌避感がありますし、万が一人化なんて事になっては本末転倒です。無機生物一択か・・・」
《い、いや、ちょっとお待ちを。例えば防護スキルや自動治癒を組み合わせせれば、アレルギー反応への対応も可能かと思います。無機生物に選択を狭めなくても大丈夫かと・・・》
「ゴーレム、ゴーレムか・・・。どうしても動きの遅さや一文字消すだけで死ぬ弱点の大きさが気になりますね・・・」
《(あ、全然耳に入っていない。一人でぶつぶつ言い始めてしまった・・・)》
「いっそ、人型ロボットか。現代火器を搭載した人型ロボットで異世界無双とかいいかもしれない。そうなると、気になるのは補給線か。動力は近未来的なリアクターとか原子力として、弾薬の補充や破損した場合の部品交換はどうしよう。いっそ武器は動力由来のレーザーだけにするか。部品交換は部品の耐用年数を人間の寿命を目安に100年くらいに設定してもらって、あとは運命に身を任せよう。実際、現世でも欠損したら治らないんだし。うん。それでいいや。これで猫神様にお願いしてみよう。えっと、猫神様・・・」
《あ、全部聞こえてましたので(大丈夫じゃないけど)大丈夫ですよ。それにしてもロボットですか・・・高い戦闘能力を持っての転生となりますとそれなりに危険な世界が対象になりますし、そこで多少優位に立ちたいとなると文化レベルも下がってきます。当然、ロボットなどに理解が及ばず魔物認定される可能性もあります。また先ほどもお伝えしましたが、人として転生してもアレルギーに苦しまないようなスキルも提案できると思いますよ。本当に良いのですか?》
「はい。いいんです。少しでも可能性があるとやっぱり不安ですし、短いし大変だったけど人間の生は謳歌できたと思うので。それに人外転生モノの小説好きで、実はちょっと憧れてたんです。」
その後も説得を続けたが彼女の意思は変わることなく、それならばと少し特典を追加して、彼女は異世界へと旅立っていった。
─────次話に続く。




