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054.プログラミング《異世界》

二話完結の二話目です。前話の最後を少しだけ書き換えてます。

(ペースが遅くてすみません...

《とある異世界にて》

 

 

 カチカチカチカチカチカチ───────────。

 

 

 枕もとに置いた貝殻が口をパクパクさせて、地味に嫌な音を立てている。

 起床する時間なのはわかってるんだけど、頑張れば無視できる程度の貝殻の主張と、このところの天候不順からくる頭痛のせいで寝床から出ることができない。


 勤務開始時間遅らせるにしても一回起きなきゃ・・・

 やっとの思いで寝床から手を伸ばし貝殻を掴むんで呟く。

 

 

 「氷板起動」

 

 

 中空に表示された半透明で薄水色の板に二時間後に出社する旨を叩いて送信する。

 

 送信後、痛みに蹲りたい気持ちをぐっと堪え、《鎮痛の魔術》を呼び出す短縮魔言を叩く。

 氷窓から一筋の光が溢れ、頭に吸い込まれていく。額の奥のズクズクとした痛みがほんの少しずつ治まっていくように感じる。後、一時間も横になっておけば治まるだろう。

 

 また一時間後にカチカチするように魔言を叩いておかなくちゃ。なんで《鎮痛の魔術》なんて便利な魔術を組めるのに、緩やかな振動を起こすとか、心地よい音を奏でるとか、朝に優しい魔術はないのだろうか───


  そんなことを考えて蹲っていると、また貝殻がカチカチ言い始めた。早い・・・

 

 

 「はあ。」

 

 

  幾分すっきりした頭にほっとしながらため息一つ。今日も楽しい楽しい労働の一日が始まる。

 

 

■■■

 

 

 

 ここ《力殻》は神様が創生中の世界。

 

 転生後、気づいたら僕は異民局という名の役場に立っていて、窓口でこの《力殻》という世界についての説明を受けた。前世のことが断片的にしか思い出せないことには少なからず動揺したけど、言葉は通じるし、初老の職員さんの物腰がとても柔らかくて落ち着いて話を聞くことができた。


 《力殻》は神様が大枠(広大な土地と自然環境と先住民)を作った後、《初期転生者》の人たちが開発を進めている世界で、凡その開発が進み100年程経過したところだそうだ。


 《初期転生者》さん達は《探究の魔術師》と呼ばれていて、探究・構築した魔術は彼らの通り名に合わせて分類される。始まりの五術と呼ばれる《殻術》、《志術》、《紅術》、《琲術》、《視術》、新進気鋭の《蛇術》、五術から派生した《琲文術》、《琲瓦術》、《視文術》などが広く知られてるみたいで、僕の記憶の中にもこのなかのいくつかのものがあった。初期以外の魔術師も全て異世界からの転生者で、《力殻》の先住民の方々は魔術を使うことはできないそうだ。


 先住民の方々は獣人という種族らしい。狼や虎、鼠や象などの哺乳類だけでなく、爬虫類、両生類、鳥類、昆虫や魚類に至るまで、様々な生物と人間を掛け合わせた姿の人々が暮らしているのが、この《力殻》という世界。

 職員さんも鰐の獣人とのことだが、特に違和感を感じなかった。改めて記憶をたどると鰐は危険な肉食獣だったと思うのだが、忌避感も恐怖感もなく親しみを感じた程だった。


 説明を受けてる異民局の窓から見える景色は何となく見慣れたような気がするものだった。四角くてピカピカする枠がいくつもある建物。ピカピカの枠から反射する光が眩しい。三角屋根の建物の上には波打つような曲線を描く部品が互い違いにいくつも重ねられている。記憶を探ると、前者はビルで後者の部品は瓦って名前であることが分かった。


 「ああいうのも全部魔術で作ったんですか?」という質問に、軽くええそうですよと返されて驚いてしまった。職員さんは驚いた僕に優しく微笑んで、まだまだ細かいとこまでは行き届いてないので期待してますよと言ってくれた。

 

 後になって知ったのだけど《探究の魔術師》達は人間向けの世界開発は進めてくれたものの、獣人の種族特性にあった細かな要望には応えてくれてはいなかった。


 僕のような直近の転生者の仕事はそんな世界と獣人のギャップを埋める、身近な便利屋さんといったところだ。

 そして僕は《殻術》の魔術結社の末席に所属して仕事を始めることとなる。

 

 

■■■

 

 

 重い頭を引きずりながら出勤していたところ、貝殻がパクパク言い始めた。氷板を起動して確認すると、急ぎの案件が入り現場へ直行せよとのお達しだった。

 

 体調悪いし今日は<内勤>が良かったと毒づきながら向かった先で待っていたのは、体高3m超え、体重は1tに迫るんじゃないかと思える巨漢の熊人さんだった。


 

 「朝からすんまね。前おたくのとこで家の強化かけてもらったんだけど、今日階段上ってたら床が抜けるは慌てて掴んだ手摺はずれるわでさ。あ、怪我とかはないし、俺の体が成長してるのが原因だと思うから、おたくらを訴えようとかはないよ。ただこのままだと困るからさ。改修と強化お願いしたくてね。」

 

 

 大きな体に似合わず人当たりの良い雰囲気と声にほっとする。

 家は2階建ての一軒家で、魔術師向けの住宅を建物も調度品も1.5倍にしたような作りだ。彼のような大型の哺乳類種族に多い構成だ。二足と四足歩行を併用し指の短い手を持つ熊族が生活し使いやすいように、手をかざすだけで開いたり水が出るような魔術が組み込んである。

 問題の階段は床が抜けたどころか崩れ落ちていて、元の形状をうかがい知ることすらできない有様だった。


 本来なら熊人向けに最適化された住宅を用意すべきだと思うんだけど、《探究の魔術師》達は人間向けの開発しかしてこなかったから、大きさや強度を上げたり、便利機能を追加することで何とか生活してもらっているのが現状だ。

 

 定型的な住宅は、氷板から魔言を叩けば簡単に作成できる。これは《探究の魔術師》達が開発した住居作成用の魔術をこの世界の記憶領域に保存していて、それを氷板に登録している固有の鍵で呼び出して発動しているからだ。定期的に彼等へのお布施(使用料の支払い)が必要だけど、一から魔術開発する時間やコストを考えると随分割安になる。

 ちなみに火を熾したり、水を出すような単純な物理現象を起こす魔術は神様が開発してくれていて、こちらは無料で呼び出すことができる。

 

 

 「少し質感が悪くなってしまうかもしれませんがより強固な材質に変更して改修してよろしいですか?…はい。わかりました。それでは。(…魔言《インヴォーグレスト<ビルド:00000102035;材質:50411;強化;再構成;座標:目線誘導>》送信)」

 

 

 氷板から魔言を叩き、改修箇所に目を向ける。一瞬光った後、時間を巻き戻すかのように壊れた階段が元の姿へと戻っていく。今となっては見慣れた光景だが、最初は感動したものだ。

 

 

 「おお、いつ見ても魔術はすごいねえ。ちょっと確認させてもらうよ・・・うん。これなら壊れなそうだ。助かるよ。お代はいくらだい?」

 

 

 「いえ、前回の改修から時間も経ってないですし、今回は無償で対応させていただきます。後少し検証作業が残ってますが、他にご不便なところはありますか?」

 

 

 「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ。そうだなあ、できれば冬眠用の地下シェルターとか大型冷蔵庫とか用意して欲しいけど予算がなくてね。単純なところだと、床の材質をもう少し固くしてくれないかな?魔術師さん用の床だと僕らの爪に負けてしまうんだよ。」

 

 

 彼の目線の先を見ると、確かに床が傷ついて捲れている。こちらも同じように改修を行う。


 

 「じゃ、これ床の分のお代ね。本当に助かるよ。僕の爺さんの時代だと森の中で穴掘って暮らしてたらしいんだけど、今じゃやそんな暮らし想像もできないよ。」

 

 

 熊人さんからのお礼を受けながら、改修内容や使用した魔術をまとめつつ強度や構造の検証を行っていく。熊人さんの成長速度も加味しなければ・・・前回の担当者はこの検証が甘かったのかもしれない。最後に作業内容を報告書にまとめ熊人さんにサインをもらって完了だ。


 こんな作業を日々何件も繰り返しながら、帰宅の途に就くころには日もとっぷり暮れている。

 

 獣人さん達にはとても感謝されるし、やりがいもあるんだけど前世ではもっと違うことを望んでいたような・・・霞がかかった記憶に首を捻りながら今日も一日が終わっていく────

 

 

■■■

 

 

《とある神界にて》



 『では、今回の異世界転生の振り返りを始めましょう。ダークさんは書記をお願いいたします。』



 ケセランのそんな宣言と共に打ち合わせが開始されることになった。なるほど、一人のときは時間もアイディアもなくて実施できていなかったが、改善点を洗いだし次回に生かすのは非常に重要なことだ。(他の思惑もありそうで諸手を上げて賞賛はできないが)こういう取り組みが部下発信で行われるのは良い組織と言えるだろう。


 

 『まず当初予定していた惑星への転生が叶わなかったことは反省点として挙げられます。事前の書類審査が甘かったことが原因と考えております。申し訳ないです。次回は・・・』


 

 確かに今回の問題点としてはクライアントとのマッチングに問題があったように思う。わかっていたことだが安易に人材のスキルだけ判断するのはリスクが高い。

  


 『・・・クライアントの保有する別の新興惑星への転生が実現でき、結果として高評価を頂いております。課題はありましたが概ね良い案件だったと考えております。』

 

 

 《確かにそうなんだが彼は大丈夫かな?元々田舎でのリモートワーク望んでて運悪く死んでしまったのに、転生先は技術営業みたいになってるような・・・》

 


 『彼の望んでいる通り、大層なご経験が生きる仕事ですし問題ないでしょう。記憶も多くはスキルに変換されてますし出戻りのリスクは低いでしょう。』

 

 

 《(こいつ人材に食ってかかられたの根に持っとるんじゃないだろうな・・・)いや出戻り心配してるわけじゃないんだがな・・・まあいい。法神化して初の案件だ。アフタフォーローもきっちりしておきたい。ダーク、すまないが同じ転生者の目線でしばらくモニタリングしてくれないか?必要に応じて出張してもらってもいい。何かあったら知らせてくれ。》

 

 

 『はい!わかりました!地球時代に近い上に獣人のいる世界なんですよね?どんな感じなのか今から楽しみです!』

 

 

 目を輝かせて応えてくれるダークがとても眩しい反面、ケセランは無表情でどこか不満そうだ。今後の転生業務に支障ないと良いのだが──────

 

 

 

 

─ 続く ─


別で書こうかなと思っていた短編とつなげたので、少し流れが悪かったかも。

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