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053.プログラミング

二話完結の一話目です。

 「異世界の魔術がどれほどのものだと言うのです……?」

 

 

 

 《(…)》『(…)』『ははは…』

 

 


■■■■■


 

 ここは地球人の転生を担当する異世界転生事務局。私はその転生事務局長で、神である。

 異世界転生事務局は、クライアント(異世界神)のニーズに合う人材(死者)を、異世界へ派遣する財団法神である。 限られた予算をうまく切り盛りしつつ、気持ち良く転生してもらうのが我々の仕事だ。

 


 ある事情から猫の姿をしている。今日は、ターキッシュアンゴラ。細身で引き締まったその佇まいはどこか気品や風格を感じさせるように思う。

 毛色はホワイト、目はこれまた神秘性を感じさせるオッドアイ。

 隣には一転、フワフワした佇まいで見るものを笑顔に変える犬の姿をとった神がいる。助手のケセランパセラン。犬種はビションフリーゼだ。


 事務局はあえてカフェのような形態をとっており、人材(死者)がリラックスして転生を検討できるように配慮されている。



 半面、これまでは死者にここが神界であることを説明するのに毎度苦労していたのだが…

 

 

 カフェ店員の姿をしたダークエルフが、人材(死者)を私の前まで連れてくる。

 どうやら、これから始まることの説明もしてくれているようだ。人材の目線は彼女の顔に注がれている。耳や髪色が見慣れないのもあるだろうが、人間の感覚では彼女は浮世離れした美しさのはずだ。

 少なくともここが彼が生きていた世界とは異なることを感じてもらえるだろう。

 

 人材が椅子に腰かけたことを確認してから声をかける。

 

 

 《はじめまして。ああ、驚かないでください。わかりづらい姿ですみません。私はあなたの異世界転生を担当します<猫神>です。どうぞよろしく。まずはコーヒーでも飲んで落ち着かれてください。》



 私が挨拶したタイミングで、そっとコーヒーカップが差し出される。本当に良くできる店員さんだ。

 

 

 《先ほど彼女、あのダークエルフの店員、名前はそうですね…ダークとでもお呼びください。そのダークから簡単な説明があったかと思いますが、あなたは残念ながらお亡くなりになりました。自宅の階段で足を滑らせてしまったようですね。ご愁傷様です。このまま輪廻に御還りいただき地球での生まれ変わりを待つこともできますが、現世の記憶を持ちながら異世界に転生することも可能です。こちらの提案をしたく輪廻に変える前にお時間を頂戴しております。ここまででご不明点ありますか?》

 

 

 特に否定も肯定もない様子を確認してから、私は助手のケセランへ水を向ける。

 

 

 《実は、あなたの隣に座っている、犬。そうそのフワフワの犬です。そちらも神の一柱で、私の助手のケセランにです。以降の説明はケセランより差し上げます。》



 相手の視線が自身に向いたことを確認したケセランが話始める。



 『では、私・・・ケセランから説明いたします。ご不明点あれば都度お声掛けください。』

 

 

 そういってケセランが異世界転生の概略について説明を始める。記憶のこと、言語のこと、特典のこと、転生する異世界の状況などである。


 特に今回のクライアントの世界については、今まさに創世中の非常に若い世界で多くの人材を求めていること、地球のシステムエンジニア、特に要件定義など上流工程経験者を求めており、システム開発の経験を活かして、魔術による世界開発に携わって欲しいことを詳しく説明していた。

 なんだか地球の求人広告のような内容だな…

 実際、今回の人材もエンジニア経験者だ。バックオフィス?というのか事務方のシステム構築を、社内SEと呼ばれる立場で20年間行ってきたらしい。最近リモートワークが導入され、自宅で悠々と仕事ができる環境を手に入れた矢先になくなってしまったようだ。


 そういえば転生する人材には不慮の事故に合ったエンジニアが多いななどと益体もないことを考えていると、丁度ケセランが説明を終えて人材へ質問をしているところだった。


 

 『特典もお付けできますが、あなたの経験や知識を魔術スキルに転換することで更に自由に魔術行使いただけます。何か特に得意なことなどございますか?』

 

 

 転換システム。上位神に至ったこと、神力の裁量が増えたことで導入できた新型システムだ。これでコストを削減しつつ、人材の特典強化にも繋がる良いシステムであるはずなのだがーーーーこれまで静かに話を聞いていた人材が顔を強張らせて話し出す。

 

 

 「異世界の魔術がどれほどのものだと言うのです……?」

 

 

 『え?』

 

 

 「失礼ですが、あなた方はプログラミングの経験ありますか??」



 『えっと、、猫神様いかがです?』

 

 

 《(・・・あるわけないだろうが) 不勉強ながら私は経験ありませんが…何か懸念点ありますか?》

 

 

 「はあ。やっぱりそうだと思ったよ。何もわかっていない。

  いいですか?まずプログラミングはコードを書いて実行するなんて単純なものじゃないんです。例えば対象の業務をしっかり理解すること、その理解を前提にユーザーからしっかり要件を聞くこと、必要に応じて業務フローの提案だってするんです。その上で必要な技術調査して、設計。そしてようやくコードを書く。これはコーディングです。その後に必要なテスト設計して、テスト。単体や結合、機能テストがありますが、詳細は省きます。開発、テストした環境と実際に動作させる本番環境が異なるなら、本番環境に移行して実装します。

 これはシステム開発の一連の流れだろうと言う人もいるでしょう。ですが、ちゃんと動かなければプログラミングに意味ないんです。だから一連を意識するのは当然だし、テスト設計のないプログラミングは、ただのコーディングです。

 そんな複雑な工程を内包したプログラミングの、私の血と汗と涙の滲んだ経験と知識を簡単に転換などと言わないでいただきたいものです!!」

  


 《(確かに自信持ってやってきたことを簡単に転換だなんて言われると気分悪いな……ウラノースにやられて嫌だったことを私が人材に対してやってしまうとは。申し訳ない。)

 気分を害してしまったのでしたら申し訳ないです。あなたの異世界での生活が豊かになるようにと思っての提案でして、決してご経験を軽視したわけではないのです。》


 

 こう伝えると幾分落ち着いた様子だったが、それでもまだ納得はいっていないようだ…このままでは輪廻還りを選択される可能性もありそうだ。思案していたところ、ケセランが声を上げた。


 

 『では、完全な転換ではなく、あなたの経験に魔術を寄せる形での転生ではいかがでしょうか?』

 



 ─────次話に続く。

 

 

次話は、異世界転生編です。

ウラノースいないので、転生後の話+事務所反省会の予定です。

ケセランの黒い部分を出していく予定です。

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