050.犬と飼い主の人外転生-7
ちょっと長くなりました。
《Side トート》
(開戦しないな・・・・・・)
ライカンより開戦が早まったとの報告を受けて、猫神様への挨拶もそこそこに両親と共に主戦場近くの海域まで移動した。
お伝えしたときの猫神様の表情を見るに、何か猫神様のご事情も関係しているのかもしれないと思う。
ワンコは久しぶりの遠出にはしゃぎすぎたせいか、今は他の狼首の上で仰向けになって鼾をかいている。寝ながらもひれ足で水をかいておりおり沈むことはない。この世界に水球があったら、スキュラは名プレーヤーになれただろうと益体もないことを考えてみる。
話を戻すが、急報からのぎりぎりの到着だったはずが、まだ戦争は始まっていなかった。どうやらケンタウロス陣営がごたついているようだ。
前世の感覚だと、ごたついてる内に専制攻撃をしかけたらいいと思うんだけど、ライカンの流儀は違うらしい。報復の際は苛烈は彼等だが、基本的には無駄な殺生を好まない。殺すときは食うか守るか報復。それ以外はライカンから手を出すことはない。
そんなわけで、今もケンタウロス側からの開戦を待っている。
「ライカンから何か追加の情報上がってきてますか?」
今は海上で一緒に漂っている父に聞いてみる。開戦すれば父も母も陸上の主戦場へと飛び込んでいく予定だ。
「どうやらケンタウロスは巨人による遠隔からの先制攻撃の後、得意の特攻を予定していたらしい。だが、先ほどから巨人が全く動かなくなってしまい、それで混乱している様だ。今のうちに巨人だけでも叩けとと進言してるんだが、ライカンの頑固王は流儀に悖るの一点張りで話にならん。勝手に手を出せば誇りを傷つけられた云々で、こちらとの決闘を言い出しかねんから余計な手出しもできんし、変わらず待機しかないな。
トート、開戦しだいこちらかも遠隔攻撃をしかけたい。ここからブレスで巨人を狙えるか?」
(巨人が動かないか・・・・・・ひょっとしたら猫神様が何か動いてくださっているのかもしれない。猫神様大丈夫だろうか・・・・・・)
父の問いかけに肯定の意を返しながら、そんなことを考えていた。
《Side 猫神》
(何が起こっているのだろうか・・・・・・)
ウラノースの後に現れたのは、エクスを派遣したクライアントだった。
その後ろからも続々とクライアント達が現れ、私とウラノースを取り囲んでいる。 クライアントの中に混じって、何故か慈母神に成ったケセランパセランの姿も見える。あいつは何してるんだ・・・・・・
《さて、早速ですが、タイミングよく猫神様の希望が聞けたところで我らの希望を伝えましょう。ウラノース、相応を神力を我らが負担しますので、地球と猫神を迅速に引き渡しなさい。猫神には引き続きあの希少な惑星の異世界転生事務局を担当していただきます。》
そんな交渉の「こ」の字もない直球な要求で始まったウラノースとクライアント達の会話は、完全に私を無視して進められている。時折、ウラノースの「奴の先を考えろ!」「飼殺すつもりか!」「あいつは私の後継だ!」などの言葉、クライアントの「彼の希望を第一に考えるべきだ!」「あなたの独善がどれだけの迷惑をかけているのかわからないのか!」「ハラスメントも甚だしい!」などの言葉が断片的に聞こえてくるが、徐々に何も聞こえなくなった。
否、私が聞くことを止めた。
―――そして私は本日に二度目の激昂に至る。
「好き勝手言うな・・・・・・」
怒りが頂点に達すると意外に冷静になるものだ。私の静かな切り出しに、喧々囂々の議論を続けていた神達の声がぴたりと凪いだ。
自分の声しか響かない空間の中で、私は淡々と言葉続けた。
「・・・・・・私はきっと感謝すべきなのでしょうね。そこに後を継がせたい、良い人材を提供し続けて欲しいなど、仮に色んな思惑があるとしても、私はきっと感謝するべきなのでしょう。
職務を自分勝手に放り出し、地球を遠く離れた惑星に引きこもった私を直々に訪ねてくれたウラノース様に感謝と謝罪をするべきなのでしょう。
私の仕事を評価し、私が仕事を続けられるように取り計らってくれたクライアントの皆様方に感謝するべきなのでしょう。」
「ですが・・・・・・」
「私の内を勝手に語るのは止めて頂きたい。」
その言葉を受けてウラノースが口を開こうとするが、周囲のクライアントに遮られ、また私の言葉を待つ空気が出来上がる。消滅の覚悟は先ほど決めたばかり。半ば自暴自棄になりながら、私は続けた。
「私が求めるのは、上級神への存在進化でも、今の職に齧りついていたいわけでもない。私が望むのは、私が送り出す人材の幸せと彼等からの少しの感謝の気持ちだけだ。」
「エクスの世界の神なら知っているだろう。彼が何を望んだか。彼が望んだのは、異世界での成功ではなかった。チート特典で楽な人生を送ろうとも、ハーレムを作りたいとも、何かを見返したいとも思ってなかった。
ただ小さな感謝がもらえる生き方を望んだんだ。」
「人畜無害という称号を知っているか。その名の通り、他者に敵意を向けない、嫌な感情を向けない、そんな効果のあるだけの称号だ。決して敵意や反意を隠すわけじゃない。そういうものを抱こうとしたときにはっと冷静になれる、ただそれだけの称号だ。ただそれだけの称号を持って、異世界に旅立った人材もいる。
現世の日常の便利さや生活に拘りを持って転生した人材もいる。
私自身、共感できないシーンも経験したが、それ以上に、人や神それぞれお互いに思いもつかないような拘りや願いがあることを知っている。」
「あなた方が私の処遇を勝手に話すのは構わない。その動機が何であれ構わない。嫌ならば逃げる。ただ一点、私の価値観をあなた方に決めて欲しくはない。」
そこまで言い切ったところで周囲を見渡すと、皆一様に次の言葉を待っている顔をしている。
「言いたいことはわかったけど、で、どうするの?」、そんな表情だ。
(やはりこの感覚は伝わらないか・・・・・・もうどうでもいい―――)
『よろしいですか?』
最早あきらめの境地に至っているところに、ケセランパセランから声が上がった。
『先輩は・・・・・・あ、すみません。以前猫神様より神としての指導を受けておりましたので。
では改めて。猫神様のご意向としては、クライアント様方のお考え通り、地球人の異世界転生事務局を続けることかと思います。
先輩、ごほん、猫神様は奥ゆかしいので先ほどから直接は主張なさってないですが、 追加するならば、転生者の幸福のためにある程度、神力の裁量権をいただきたい点、後は猫神様ばかりに業務が集中する現行の体制の改善といったところでしょう。』
(おいおい、何を勝手にまとめてるんだ・・・・・・でも周囲は異様に納得しているな・・・・・・こいつまた魅了使ってないよな・・・・・・)
『私からの提案といたしましては、ウラノース様並びにクライアント様共同出資の独立機関《異世界転生特別室》を立ち上げることを進言します。
地球からの人材を、ウラノース様並びにクライアント様へ効率的に公平にお届けするための機関です。
経験豊富な猫神様の視点から、人材にあった惑星を選び出し人材に提案、皆さまより出資いただく神力を使って特典を設定します。これならば、猫神様とウラノース様の軋轢も、皆様のニーズも、猫神様のQOLの向上も全て叶えることができるかと思います。』
そこまで言い切ったところで、ケセランパセランは周囲に質問を促した。
おいおい、私の忙しさは変わってないか、むしろ業務量増えてるぞと聞こうとしたところで、クライアントから質問が上がった。
『猫神のことは信用しているが、ウラノースや他のクライアントが秘密裏に圧力をかけることもあるだろう。出資する神力が少ないクライアントだって存在するだろう。公平性をどう担保する?』
『私が助手兼監査役として、特別室に入ります。』
(は?)
すぐ様切り替えしたケセランパセランに唖然としていると、立て続けにその正当性を主張し出した。
『皆様ご懸念の通り、私は確かに猫神様の差配によって生まれた神です。一時期指導も受けており、癒着を疑われても仕方ないでしょう。ですが、私はウラノース様の参加ではないですし、管理している二つの星の上位神もそれぞれ違います。加えて特別室に入るにあたっては、この二つの星の管理権も返上するつもりでおります。
つまりどの派閥にも属しておりません。公平な目線から猫神様を支え、また厳しく監査いたします。』
(お前の暴走は誰が監査してくれるんだ・・・・・・)
そんな私の想いとは裏腹にあれよあれよと特別室の話は決まり、私の逃亡生活は唐突に終わりを迎えることになった―――
次回で「犬と飼い主の人外転生」は終わります。




