044.犬と飼い主の人外転生-1
猫神様の逃亡譚。犬と飼い主の人外転生です。
034.犬と飼い主の人外転生、035.犬と飼い主の人外転生《異世界》をお読みになってからの方がお楽しみいただけます。
《Side トート》
最近ワンコが『待て』を覚えた。
前世ならかわいいなこんにゃろうと思うところだが、今世では違う。
待たされているのは僕の方だ。
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わんこと僕は<スキュラ>として生まれた。
上半身は人間の体で、下半身は魚、更にお腹から6つの黒い狼の首が生えた異形の存在だ。僕の意識は、<残り>5つの狼のうちの1つに宿っている。
件の飛竜との戦闘で僕は一度死んだ―――そのはずだった。
でも次に意識が戻った時には、ワンコの狼首は全部で5本になっていて、そのうち1本が僕だった。
ワンコは僕を見てニコニコしていた。これは褒めて欲しいときの顔だ。
顔をペロっとなめてやりながら、僕が助かったこと、ワンコの首が減っていることを聞いてみると、それが猫神様がくれた特典であることを教えてくれた。
僕がスキルと共にワンコに取り込まれて意識がない間に猫神様に<おねがい>したらしい。
この転生先に、特典まで、本当に猫神様には頭が上がらない。
両親にも、あの後のことを確認してみた。
竜化したハルピュイアと僕が衝突した瞬間、僕のブレスはハルピュイアを凍り付かせ、ハルピュイアのブレスは僕の首を半ばから吹き飛ばしたらしい。
僕の首は、吹き飛ばされた勢いのまま凍ったハルピュイアの頭部に齧りつき、かみ砕いたそうだ。
僕の首とハルピュイアは揃って海へ落ちていったが、僕の首は海面に落下する前に光の粒子になって消えてしまったらしい。
両親が、ワンコになんて説明しようか苦悩しながら巣に帰ると、ワンコに巻き付いてすやすや寝息を立てる僕を見つけて驚いたそうだ。
そして翌日、僕と共にワンコから説明を聞いて更に驚きつつも、僕の無事を喜び、ワンコの能力を褒めてくれた。こんな異常事態に直面しても動じない、本当に懐の深い両親に感謝の想いしかない。
話は戻るが、死に際にハルピュイアを取り込んだことで僕は更に強化されたようだ。
首だけだったところに猛禽類の足が追加されて、更にハ〇様染みた姿になったし、炎のブレスも吐けるようになった。
ただ困ったことに肉食獣の闘争本能も強化されたようだ。
元々、ワンコを守るために強い敵(の肉)を求めていたのだが、索敵に少しでもひっかかったものに一目散に特攻するようになってしまった。犬がボールを追いかける感覚に似ているかもしれない。
悔しいが、そこでワンコが『待て』を覚えてくれた。
首が1本減ったからだろう。ワンコにとって制御に割けるリソースが増えたおかげで、ワンコが全力で『待て』すると、僕は逆らうことができない。
ただ今回はそのおかげで本当に助かった。
一瞬ワンコの待てが遅れていたら、僕は猫神様を丸かじりしているところだった・・・・・・
《Side 猫神》
エクスのところを出て、いくつか世界を経由した。
ウニャーバックスのダークエルフにもしばらく営業できないことを謝りに行ったし、J〇veのラーメン屋にもしばらくラジオ流せないことも謝りに行った・・・・・・私のせいではないのになんて理不尽な事態だ。
それでも彼らがこちらの身を案じてくれる言葉はとても嬉しく、いつか落ち着いて彼らの元を訪ねてみたいとも思った。
世界をめぐる中で、そういえばと、閉ざされた島で暮らす二人がいたことを思い出した。あそこならしばらく見つからずにのんびりできるかもしれない―――
砂浜に突き出た大岩の上にそっと着地した。
ここはスキュラの縄張りだ。
転生した彼らに会うまでは慎重に行動しないと、余計な刺激を与えて戦闘になってしまうかもしれない。
身を守るためとはいえ、異世界の生物を加害する意思はないのだ。
大岩から地面にこれまたそっと着地して、森の中を進んでいく。
エジプシャンマウの毛並みは森にとても「映える」。
肉食獣の子供が狩りの練習でもしているように見えるかもしれない。
殊更に気を付けて進んでいると、急に視界に影がかかった。
私の索敵をすり抜けるなんて――と思いながら見上げると、口を大きく上げた白龍の姿が見えると同時に、吠え声ともつかない大声が響いた――――
『待て!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』




