043.事務魔術-3
041~042話をお読みでない方は、先に041からお読みください。
《side エクス・ヴィヴィアン》
「(どうやら猫神様は眠っておられるようだ。)」
事務所についた私が猫神様の様子を確認すると、丸くなってすやすやと寝息を立てる姿が検知できた。
これも《事務魔術》の能力のおかげだ。
《事務魔術》の中核をなす権能は、空間座標指定魔術。
空間をセルと呼ばれる任意の枠に分けて、3次元で把握することができる。転生してきたばかりのころは目視できる範囲だけだったが、今は半径50キロ圏内であればあらゆる範囲を把握できる。
またセルの大きさを小ささをマス目のように細かくすれば、他者の体内の様子、例えば血管の詰まり具合なんて微細なところまで把握可能だ。残念ながら治癒魔術は使えないので、治癒チートなんてことはできないけれど。
そんなことを考えているうちに始業時間になった。
課長は打ち合わせで外出、ヴィーは休暇らしいので、スーと二人で今日のスケジュール確認をしていると、
「あれ?エクスさん猫飼ってるんですか?」
そんなことを聞かれた。どうやら制服に付いた猫の毛をめざとく見つけたようだ。
「ああ、昨日野良猫を撫でたからそのときついたのかもね。飼ってはないよ」
「そっかー残念。飼ってるんなら見せてもらいに行こうと思ったのに。」
「はは、男性の独身寮は女性は入れないでしょうに。さあ、今日は二人だから頑張ってこなさないと終わんないよ。」
「ええー、そんなの建前じゃないですかー!レクスさんの部屋みてみたかったのに・・・・・・」
そんなことをぶちぶち言いながらも、彼女の周りにはもうインクが浮かび文書の体裁を成し始めた。やはりできる人は違うな・・・・・・私も頑張らなければ。
3時間程作業して、昼休みになった。休みがてら猫神様の様子を伺おうとすると、私の空間感知に2つの反応があった。
一つは、課長。どうやら宮廷魔術師長と一緒らしい。王城から商業ギルド本部へ浮遊馬車で向かってくる。浮遊馬車は付与された風魔術で乗車台を浮かせて、荷重を限りなくゼロに近づけることで、移動速度を稼ぐ高速馬車だ。この近距離で浮遊馬車を使うなんて、かなり慌てている様子だ。
もう一つは感知の端。50キロほど向こうからかなり大きな反応が向かってくる。この反応は魔物か?トロールいやサイクロプスだろうか?人型だがとてつもなく大きい。まさに巨人だ。歩幅も大きく1歩が10mほどありそうだ。あの歩幅と速度なら90分ほどで王都に到達しそうだ。インディ課長と宮廷魔術師長もこの件で急いでいるのだろう。
二人を迎えるべく、商業ギルド本部の入口に出ると、ちょうど二人が乗った浮遊馬車が到着した。
到着するなり課長が言う。
「検知できているか?」
その問にうなずくことで応えると、続けて「対処可能か?」と問われた。
「今なら周囲を巻き込まず対処可能です。」
課長は宮廷魔術師長をちらりと見て、その承諾の意を確認すると、私に小さく「やれ」と言った。
《事務魔術》の中核をなす権能が空間座標指定魔術なら、最恐の権能は条件分岐魔術。最初は、事務手続きの処理分岐のために使っていたなんてことない機能だったが、17歳になったある休みの日、部屋に蚊が飛んでいるのをみてふと思いついた。
<私が把握しているある座標に、蚊が入ったら”ブランク(空白)”を返す>ようにしたらどうなるんだろうと。
前世ではよく、そこに値があったら数値や日付などデータ型を確認して処理なんてことをやっていた。その魔術版だ。
結果、指定座標に飛んできた蚊は、爆発も衝撃も何の余波もなく突如として消滅した。それから、ごみや岩などの無生物、ゴブリン、魔狼、オーク、オーガなどの魔物で検証した結果、全て最初から存在しなかったように消滅することがわかった。
その凶悪さに恐怖した私は課長に相談。課長経由で魔術師長そして王族へと話が通り、表向きは商業ギルド本部所属のままだが、実質、宮廷魔術師長の管理下におかれることとなった。
それから休日には、宮廷魔術師長の指示で工作員まがいの仕事をするようになった。その指示は課長経由で私に伝えられる。
王家に危険を及ぼす可能性のある不穏分子をリエンジで監視し、必要に応じてイーフで抹殺する。猫神様に知られたくない仕事がこれだ。もらった力はできれば、小さな<ありがとう>の為だけに使いたかった。
だけど、今回のような多くの人命の危機に遭遇することもあり、そんな時は課長にこの力のことを伝えて良かったと思う。
「イーフノト・ヌール・・・・・・・」
視認できていれば、対象指定も可能だが、今はリエンジによる検知のみだ。視認を待っていると手遅れになる可能性が高い。街道を逃げる商人や旅行者を巻き込まないように、そして上空を飛ぶ鳥などを誤検知しないように条件を指定していく。
「・・・・・・・ゼーーーーン・ブランキィ!!!!!!!」
巨人が次の一歩を踏み出し、その全身が指定座標に全て収まった瞬間―――――
その存在は抹消された。
《side 猫神》
ん・・・・・・?今何か上級神の眷属の気配がしたような気がしたんだが・・・・・・気のせいか??
いや、いくらあのウラノースでも流石にティターンを送り込んできたりはしないだろうし、ひょっとしたら小型のパクシーあたりでこちらを監視しているのかもしれない。せっかく落ち着けると思ったんだが・・・・・・次に移動するか。
世話になった御礼に少し神力を置いていこう。特典の強化にでも使ってもらえればいいだろう。
次はどこに行くかな―――
■■■■■
《とある神界にて》
真っ黒な闇とも呼ぶことのできない虚無の空間にて、二柱の神が対峙していた。
『ウラノース殿、我が世界に突然眷属を送り込んでくるとは何をお考えなのか。』
《先に説明したとおりだ。私の世界から邪神が逃げ込んだようでな。そなたの手には負えない位階の邪神だった故、我が眷属を送り込んでやっただけだ。》
『・・・・・・そのような位階の邪神が私の感知外で侵入することなどありえますまい。それにあなたの眷属は邪神を倒すどころか、我が創造物に危害を加えようとした上、逆に消滅させられたようではないですか。』
《ふん。その創造物こそ、邪神の眷属ではないのか?私の方で調べてやるから、さっさと差し出したらどうだ?》
『我が創造物に邪神に汚染されるようなものはおりませんよ。こんな担当外の世界に関わってないで、お帰りになられたらいかがですか?あなたの担当地域の管理が滞っており、転生すらままならないという話も聞こえてきておりますよ。ひょっとして優秀な転生担当神に逃げられでもしましたか?』
《・・・・・・奴は不祥事による謹慎中だ。せっかく邪神の処理をしてやろうと思ったが、そこまでいうならよかろう。後で泣きついても知らんぞ。》
そう言い残して消える一方の柱を眺めながら、もう一柱が言う。
『時間ばかり重ねた上級神は役に立たない上めんどくさくていけませんね・・・・・。
どうやらあちらは無事逃げおおせたようですね。律儀に神力まで置いて行ってまあ・・・・・・貸し一つで許してあげましょうか。
職務に復帰したらまた格安で人材を送ってもらわなければ。そのためには私も少し動かなければなりませんね。』
― 次話へ続く ―




