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038.年金

二話完結の一話目です。少し短めです。

 「年金が欲しい。働いて働いて、払うだけ払って全くもらうことができなかった。私も近所のじいさんみたいに悠々自適な老後を送りたかった。」

 

 

 《(・・・)》

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 私は、地球の異世界転生担当職員、一応、神だ。


 ある事情から猫の姿をしている。今日は、デボンレックス。縮れ毛で細身の猫だ。人間への依存心が強く甘えん坊な性格らしいが、毛が少なく、皺の寄った肌の様子がどこか老成した雰囲気を感じさせる。


 改めて、異世界転生担当職員とは、クライアント(異世界神)のニーズに合う人材(死者)を、異世界へ派遣する神級派遣事業者だ。クライアントから人材へオファーできる異世界転生特典のうち、最低限の特典を人材に渡しつつ、気持ち良く転生してもらうのが私の仕事だ。

 

 今回のクライアントの世界は、近年の文明開化に伴い、医療技術が進歩して少しずつ平均寿命が延びているようだ。

 ただこれまで30年程しか生きてこなかった人間の魂が、60年、70年と長生きしていくと負荷がかかり、ストレスから無意識に攻撃的になる傾向があるようだ。

 この為、成熟した異世界から70歳以上の高齢の転生者を募っている。


 それに合わせて、今回の人材は70歳男性、未だ現役の会社員だ。正確には来月退職予定だったが、通勤途中の列車の中で心臓発作を起こし、退職を待たずに亡くなった。最後の最後まで働き続けた、まさに企業戦士と呼ぶにふさわしい人物だ。

 正直、私は消滅まで働きたくはないが・・・・・・

 

 

 先ほど自己紹介を済ませ、お亡くなりになったこと、ここが神界であることを伝えたところ、最近はあの世もハイカラなんですなーと実にのんびりした様子だった。落ち着いていて、まさに今回の異世界に行くべき人材だ。 


 これなら転生特典も、基本パッケージですんなりいくだろうと思って軽く尋ねたところ、冒頭の会話になった・・・・・・

 

 

 《年金・・・・・・ですか?》

 

 

 「はい。私が勤めていたのは、少々特殊な技能がいる会社で、中々辞めさせてもらえなかったんですよ。

 それに、家内にも家にいるよりは働きに出といて欲しい、家にいるなら離婚するといわれましてな、ははは・・・・・・


 決して働きたいわけではないが、ずるずると70歳まで来てしまった。年金も70歳まで繰り下げ延長して。


 昨年75歳までの繰り下げ制度が発表されたときは愕然としましたよ。

 家内や会社に知られる前に慌てて定年退職の段取りつけて、後一ヶ月でようやく会社員人生が終わると思っていたんですが・・・・・・まさか定年前に死ぬとは思いもしませんでした。


 今の社会情勢を見るに、きっと私が払い続けた税金は、家内には少しは残せるかもしれませんが、孫はおろか息子の手にもおそらく渡ることはないでしょう。

 それならば、私が欲しい。働いて働いて働きぬいた私に、多少のご褒美くらいあってもいいもんでしょう。」

 

 

 《(・・・・・・気の毒すぎる。何だか最初の印象と随分変わってしまった。何とかしてあげたい、なんとかしてあげたいんだけどな、うーーーーん。)》

 

 

 「日々を細々暮らしていけるだけのお金でいいんです。何とかよろしくお願いします。」 

 

 

 そう言って深々と頭を下げる彼に、無理とは言えなくなってしまった・・・・・・


 気の毒だし、これまでのすごい剣幕で捲し立てる人材と違い、淡々とした語り口での要求は、逆に重みがある。私の方が、比べ物にならないくらい長い年月働いているはずなんだが、何だか気圧されてしまう。


 うーーーーーん、特典でお金受け取って引きこもりされたら、あんまり転生してもらった意味がないんだがなあ。まあ、若い肉体に入って、新しい世界に触れれば考え方が変わることもあるかもしれない。

 

 私の指先から彼に向けて、ゴルフボール大の小さな光が放たれ、彼の胸に吸い込まれていった。同時に、彼の輪郭がうっすらとぼやけて消えていく。

 


 《どうか、幸多い生を過ごせますように・・・・・・(お願いだから少しは能動的に生きてねーー!それで幸せになって!!)》

 

 

――――――――――――次話《異世界編》に続く。

お読みいただきありがとうございます。

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